「タイミーがアップデート後に開けなくなり、仕事ができずホームレスになるしかない」 生活困窮者への支援を行っているNPO法人「トイミッケ」(東京都豊島区)の佐々木大志郎代表が2025年7月15日にXで、7月に入ってからこのような相談が複数人から寄せられたと投稿した。スキマバイトサービス「タイミー」のiPhone版アプリで、古いOSへのサポートが終了したことが関係しているとみられる。 J-CASTニュースの取材に応じた佐々木氏は、これはアプリやサービスの問題ではなく、背景にスマートフォンやスキマバイトが「インフラ的な振る舞いがないのにインフラになってしまっている」という問題があると指摘した。 約1週間で4人から相談受ける 佐々木氏はXで、「古いiPhone(7など)を使っていた方が足切りされ、突然収入源を断たれる事態が発生しています」と投稿。「アプリ側の安全性確保やビジネス上の事情があるのは理解できます」としつつ、「ほんのわずかな要因でホームレス状態に追い込まれる人がこれほど社会に取り残されている現実に、改めて震えています」と訴えた。 7月16日にJ-CASTニュースの取材に応じた佐々木氏は、 「先週あたりから連続で、現時点で4人の方から『タイミーがアップデートできず働けない』とご相談を頂いています。全員20代から40代です」 と明かす。 佐々木氏によると、相談を受けたうちの1人は、都内のネットカフェなどで暮らす40代の人だった。スキマバイト中心に仕事をしており、「タイミーをかなりディープに使いながら」生活していた。タイミーが使えなくなり、まずはタイミー以外のサービスで仕事を探したという。そのうえで佐々木氏はこの男性に対し、台風も近づいていたため仕事の日まで「宿泊対応をした」としている。 佐々木氏によると、20代の人からも相談を受けた。タイミーが利用できなくなったことで住んでいたシェアハウスの家賃が払えず、家を出ざるを得なくなってしまったという。佐々木氏は公的支援に繋ぐため、準備を進めていると明かした。 佐々木氏は、相談を受けたのはいずれも数年単位で付き合いのある人からだったとし、すぐに相談できない人を含めると、同様の状況に陥っている人は「もっともっと多いと思うんですよ」と話した。佐々木氏はこうした状況を受け、継続的に支援をしている人に対しても、「同じ問題が発生していないか」と確認をしているとした。 タイミーの広報によると、「タイミー」iPhone版アプリでは「iOS16以降」をサポート対象としており、iOS15以前の環境では、新規の仕事への申込みができない。「個人情報などの重要なデータを取り扱う上で、セキュリティ状態を保ち、働き手の皆様に安心安全にサービスをご利用いただくため」とその理由を説明した。 iOS16に対応するiPhoneは、iPhone8以降とiPhone SEの第2、第3世代だ。つまり、iPhone7以前を使っている人は新規の仕事への申込みができないことになる。 公式サイトでは、7月2日からアプリの最低利用バージョンを引き上げることが告知されている。この最低利用バージョンはiOS15以前をサポートしておらず、佐々木氏へ寄せられた相談はこのアップデートが関係しているとみられる。 就労している人の2人に1人が「スキマバイト」アプリを利用 佐々木氏は、こうしたタイミーの対応について「セキュリティ上当然」であり、タイミーが悪いと言いたいわけではないとする。 そのうえで、今回起きた問題の背景には、スマートフォンやスキマバイトアプリが「インフラ的な振る舞いがないのにインフラになってしまっている」という問題があると指摘した。 トイミッケが主に支援を届けて(アウトリーチして)いる、ネットカフェなどで暮らしながら不安定な仕事をしている「不安定居住&不安定就労層」にとって、スキマバイトアプリは欠かせない。しかし、例えば、社会保障としての通信費の補助やスマートフォンが壊れた場合の公的支援、スキマバイトの労働環境や保険適用の整備といったことはされていない、もしくは不十分であり、インフラとして扱われていないと佐々木氏は指摘する。 なぜ、「不安定居住&不安定就労層」の人にとってスキマバイトが必須なのだろうか。 佐々木氏によると、トイミッケの24年度の相談件数のべ1329件、相談者数338人のうち、約7割がネットカフェなどで暮らす「不安定居住&不安定就労層=広義のホームレス」の人だった。トイミッケから支援につながった人のうち、就労している人の2人に1人が、タイミーをはじめとした「スキマバイト」アプリを利用している、もしくは利用していたと回答したと説明する。 トイミッケが主に支援を行う「不安定居住&不安定就労層」は、ネットカフェなどで暮らしスキマバイトの仕事をしながら「平行して住み込みの仕事(地方の工場派遣など)を探されている方がほとんど」という。 「なんとかスキマバイト→ネットカフェでしのぎつつ、住み込み派遣が決まったらそこにいく。でも、大概長くは勤められないので(1年〜短い人だと1ヶ月などの人も)退職と同時にまた住まいを失い、仕事が多いというのでまた東京に戻り、再度スキマバイト→ネットカフェでしのぎつつ住み込み派遣を探す」 そのため、仕事の条件としては「『即日エントリーして働けて』『その日の現金を貰う』が必須」だ。仕事は限られ、「スキマバイトぐらいしか選択肢がない」という。 「1万ちょいの新規端末代すら調達できない生活になるとは...」 Xでは佐々木氏の投稿に、「iPhoneではなくアンドロイドスマホを使えばいい」といった意見も寄せられた。しかし、佐々木氏は問題の本質はそこではないと指摘する。 iPhoneを利用している人が多い理由について、「どこかのタイミング(まだ困窮していなかった時期)で、たまたまiPhoneが入手しやすかっただけに過ぎません」と説明。最初にiPhoneを購入したときには「1万ちょいの新規端末代すら調達できない生活になるとは、思ってもみなかったでしょう」とする。 「深い理由がなくても『みんなが使う』『みんなが持っている』ものこそがインフラなのです(誰も、水道や電気を思想で選んでいるわけではないのと同じです)」と指摘。そのうえで、スマホやスキマバイトが「インフラ化」している現状への問題について次のように問題提起した。 「これほど普及したスマホが、ホームレス状態に陥った方の日常の重要な部分を支えているという『ねじれ』こそ問題であり、後になって『こうすれば防げた』といくらでも指摘はできます。しかし、それをどこまで個人の責任に帰すのかは、慎重な議論が必要だと考えます」