「言われたから行く」、女子高生の選挙への本音…投票にイマイチ気乗りしない理由

 若者の投票率は低い。  それは紛れもない事実だ。選挙権が18歳に引き下げられてから国政選挙は6回行われたが、10〜20歳代の投票率が、全体投票率を越えたことはない。そして今回の参院選は3連休の中日に投票日が設定され、さらに下がるという見方もある。若者は選挙についてどう考えているのか。同僚のつてを頼り、女子高生に本音を聞いた。(デジタル編集部 瀬戸聡仁) 選挙は行きますか?  平日の夕方、女子高生3人と東京都葛飾区の商業施設のフードコートで待ち合わせた。紺色のポロシャツにチェック柄のスカート、スマートフォンを片手にした彼女たちに声を掛けると、「よろしくお願いしまぁす」。ハキハキとした声が返ってきた。  3人は同じ高校に通うクラスメートで、先月、バレー部を引退したばかり。国公立大学や明治大や立教大などの「GMARCH」を目指す生徒も多い進学校で、彼女たちの一番の関心事は、毎週ある模試と志望校の合否判定。将来就きたい仕事は、「メディアに携わる仕事」や「小学校の先生」という。社会的責任も伴う仕事だ。  18歳で20日の参院選で選挙権があるのは、3人のうち2人。「選挙には行きますか?」と聞くと、「行きます」と返ってきた。大勢の若者とは違い、真面目に投票に行くらしい。 「行けと言われたから…」  しかし、「自発的」というわけではないようだ。  「学校で何回も行けと言われてますし…」  3人のうち、「メディアに携わる仕事」に就きたいという1人は少し申し訳なさそうに教えてくれた。  6月上旬に18歳になったばかり彼女は、同じ月にあった東京都議選にも行った。通っている高校では、選挙について学ぶ「主権者教育」に熱心な教師がいるという。授業では、都議選を題材に、住んでいる選挙区の候補者や政策を調べる宿題が出た。でも、政党の政策や候補者の主張が頭に入ってこない。男か女か、現職か新人か。分かる情報はその程度。投票所では、駅で見たことがあった候補者に票を入れた。「議員の経験もあったし、顔に安心感があったから」。後日、その候補者の当落を調べたが、結果はもう覚えていない。  「事前に候補者の主張や政策は詳しく調べましたか?」  「調べませんでした」  興味がないわけではないし、選挙が大事なことも授業で教えられた。でも、自分の暮らしにどう関わるのかよくわからないから、熱心に調べる気も湧かなかったようだ。 でも、今回の参院選は、少しだけ投票に前向きになれた。設問に答えて自分の考えに近い政党・候補者を探す「ボートマッチ」を授業の中でやってみて、争点の「年収の壁」について興味を持ったからだ。  所得税について、各政党がどんな主張しているのかを調べ、投票先を決めた。「バイトをしてるんですけど、所得税は払いたくないです。時給が上がって、昔より簡単に年収103万円にいくようになりました。諦めて税金を払っている同級生もいます」。少し声のトーンが上がった。「今回も行くと思います」 主権者教育はきちんと実施  選挙権が20歳から18歳に引き下げられたのは2016年で、その年の参院選から実施された。10歳代をみると、最初の選挙は46%程度の投票率があったが、その後は低下傾向にある。21年衆院選では上がったものの、その後は40%未満だ。  真面目な進学校に通い、社会的責任がある職を目指している高校生でも、アルバイトの給料がどうなるかを意識することで、初めて選挙に前向きになれた。  こんなデータもある。文部科学省が2022年度に実施した「主権者教育実施状況調査」では、アンケートへの回答があった全国の1306校の高校のうち、「3年間で主権者教育を実施した」と回答したのは94・9%に上った。活動の内容をみると、「公職選挙法や選挙の具体的な仕組み」の学習をしたのが76・1%と最も多い。その一方で、2022年にあった「参院選を題材に指導した」と回答したのは、44・9%にとどまった。  まだ社会との接点が少ない高校生たちが、授業で仕組みを学んだだけで積極的に選挙に行くようになるのは、無理がある。世間の関心が集まっている時期に、具体的な例を題材に学ぶことも必要なのかもしれない。 候補者が多すぎる  一方で、自発的に投票に行こうと思っている子もいる。今回の参院選で初めて選挙権を得たというもう1人は、「選挙は行くもの」と断言する。両親は選挙で必ず投票に行き、幼いころから連れられて何度も投票所に行っていたという。「初めての選挙は楽しみです」  まだ選挙権がないという1人も、「疎外感があって、投票できる2人が羨ましい」というほど選挙に情熱を持っている。Tik Tokで選挙関連の情報を見ることもあるようだ。  しかし、やる気十分でも愚痴はある。  「候補者が多すぎて、調べる気がうせるんですよね。1人ひとり調べる時間はないです」  彼女たちの住む東京選挙区では今回、32人が立候補している。多党化などの影響で、近年の選挙は立候補者が増加傾向にある。参院選の選挙区だけをみても、2004年は全国で192人、2016年は225人で、今回は350人が立候補している。真面目に調べようと思えば、労力は増えていく一方だ。 「投票率向上」は難問  きちんと「主権者教育」を受けていたり、家庭での教えもしっかりしていたりする彼女たちでさえも、投票にハードルを感じている部分があった。  「選挙は民主主義の根幹」とはよく唱えられるお題目で、自分の意思を政治に反映させるために、持っている権利を使うことは確かにとても大切だ。選挙には行った方がいい。では、どうやったら若者の投票率は上がるのだろか。きっと、明確な答えを出すのは難しい。  しかし、都議選に「言われたから行った」という彼女は、「年収の壁」への興味から、参院選へ前向きになることができていた。主権者教育や家庭では、社会問題を「自分事」として捉えてもらうような工夫が必要なのは確かなようだ。

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