「命令に背くことはできない」タリバン政権下で“死刑宣告”、弁護士一家 アフガンからの国外脱出【報道特集】

アフガニスタンでタリバンが復権して3年。前の政権関係者への迫害が深刻化しています。番組ではタリバンから“死刑宣告”を受けた一家を取材。決死の国外脱出の実態です。 【画像で見る】緊迫の出国審査、タリバン兵「逃げるつもりだろう!」 「家も車も残し、娘と妻だけ連れ来た」弾圧逃れ脱出したアフガン難民 2021年8月、アフガニスタンが再びイスラム原理主義組織・タリバンの手に落ちた。混乱のさ中、首都・カブールの空港には、国外へ脱出しようとする市民が殺到。 撤退するアメリカ軍の輸送機を追いかけ、機体につかまる人たちの姿も。 目撃者 「あの人たち落ちるぞ」 国境地帯も連日、大混乱となった。 難民となった人たちの多くが流れ込んだのが、隣国のパキスタンだ。 記者 「こちらは、イスラマバードにあるアフガニスタンの人たちが経営する店が、多く集まるエリアです。雑貨店やアフガン料理を提供する店が多く軒を連ねています」 首都・イスラマバードにある通称「アフガン・ストリート」。アフガニスタンから逃れてきた難民たちが小さなコミュニティを作り、生計を立てている。 アフガニスタン出身の男性 「家も車も、祖国に残し、妻と娘だけ連れて来ました」 Q.パキスタンに来たのはいつですか? 「1年ほど前です。アフガニスタンの状況は、日に日に悪化しています。女性の権利は制限され、娘は教育も受けられません」 記者 「こちらの店も、アフガニスタンの方がやっているお店だそうです」 女性用のドレスを販売する親子。かつて、アフガニスタン国内で店を構えていたが、タリバンによって突如、閉鎖を命じられたという。 洋服店の店主 「(服装の厳格化を求める)タリバン政権下では、女性用ドレスの販売ができなくなった。商売を続けるために、パキスタンにやって来ました」 タリバン政権の下で強まる弾圧。私たちは、“死刑宣告”を受けた一家が国外脱出を図る際の映像を入手した。 「出頭を命じる」「この命令に背くことはできない」“死刑宣告”受けた弁護士一家 タリバンによる政権樹立から、3年あまり。アフガニスタンでは、女性の就労や女子教育など、女性の権利を制限する動きが強まっている。 女性活動家 「この政権にはウンザリだ!」 加えて深刻化しているのが、人権活動家や前政権の関係者に対する迫害だ。私たちは、タリバンから“死刑宣告”を受けたある家族が、国外脱出を図る映像を入手した。 支援者 「ここで待ってて、あなたはここに座って」 彼らに一体、何が起きたのか。 2023年8月。私たちは、アフガニスタンで暮らすある家族の元へと向かった。タリバンの尾行に細心の注意を払いながら、指定された場所へと車を走らせる。 記者 「もう間もなく現場の近くに着くので、注意しながら取材を進めたいと思います」 私たちを出迎えたのは、前政権下で17年間、弁護士として働いていたファティマさん(仮名)。タリバンから命を狙われ、夫と4人の子どもとともに2年近く、潜伏生活を送っているという。 ファティマさん(仮名)元弁護士 「私にかけられている罪は、夫からのDVなどに苦しむ女性の弁護をしてきたことです。100人以上の女性を弁護し、離婚を成立させてきたことで、タリバンから目の敵にされているのです」 家庭内の暴力が絶えないアフガニスタンで、多くの女性たちの弁護を務めてきたファティマさん。ある日届いたのは、タリバンからの召喚状だ。 タリバンから届いた文書(抜粋) 「2022年8月18日、午前9時に出頭を命じる」 「この命令に背くことはできない」 この出頭要請は、家族を含めた殺害予告を意味する。事実上の“死刑宣告”だった。 ファティマさん 「3週間後、タリバンが自宅に来ました。私は家にいなかったので、代わりに夫が手錠を掛けられ、連れ去られたのです」 直後にタリバンから送られてきたのは、目隠しをされた状態の夫の写真。夫はひと月近く拘束され、ファティマさんの居場所を明かすよう、拷問を受け続けたという。 その後、何とか釈放されたものの、隠れ家を転々とする生活を送っているファティマさん一家。最も気がかりなのは、4人の子どもたちの状況だと話す。 ファティマさん(音声) 「今日は2023年8月です。この部屋は子どもたちの遊び場であり、そして台所でもあります」 ファティマさんは自ら、潜伏生活の様子を撮影した。車一台分のスペースが子どもたちの唯一の遊び場で、家族が寝食を共にする場所でもあるという。 ファティマさん(音声) 「今日は、昼食に子どもたちが大好きなパスタを作りました。美味しい?」 「子どもたちは寂しすぎて、外出したいと言って泣くことがあります。でも残念ながらこの状況では、友達の家や、公園にも連れていく事は一切出来ません。刑務所にいるのと同じような環境です」 2年以上に及ぶ潜伏生活で、子どもたちを取り巻く環境は悪化の一途を辿っている。 8歳の長男、アブダルくん(仮名)。てんかんの持病があり、度々発作に襲われ、投薬治療が欠かせない。そのため、ファティマさん自身が身の危険を冒し、通院させているのだという。 「夫が一家心中を図りました」国外脱出を支援する日本人に届いた悲痛なメッセージ 窮地に陥った一家がたどり着いたのが、日本の支援者だ。 中東やアフリカなど、世界各地で紛争解決に取り組む、認定NPO法人『REALs』の理事長・瀬谷ルミ子さん。 タリバンが実権を掌握した直後から、国外への脱出を求めるアフガニスタン人たちへの支援にあたってきた。 過去に、外交官や国連PKOの職員として、アフガニスタンなどの紛争地で武装解除の任務に携わってきた瀬谷さん。 クラウドファンディングや寄付で支援を募り、この3年で、300人あまりのアフガニスタン人を国外に退避させ、1500人以上に生活支援を行ってきた。 しかしー。 認定NPO法人『REALs』の理事長・瀬谷ルミ子さん 「実は今、アフガニスタンで迫害を受けている人たちを受け入れてくれる国がほとんど無くて。可能性があるとしたら、ドイツとスペイン。今は主にドイツへの退避を集中的に調整しているところです」 国際社会の関心は、ウクライナやパレスチナをめぐる情勢に集まっており、受け入れ先として有力なドイツからの承認もなかなか得られないという。 ファティマさん一家が潜伏生活を始めてから2年以上が経った、ある日。瀬谷さんのもとに、ファティマさんから悲痛なメッセージが届いた。 ファティマさんからのメッセージ 「今日、私の夫がキッチンのガスを使って、一家心中を図りました」 きっかけは、同じくタリバンから追われていた元同僚の自死だったという。 瀬谷ルミ子さん 「元同僚が命の危険から地方に逃げて、働くこともできず、潜伏生活をする中でお金も尽きて、最後にはパン一切れも子どもたちに買ってあげることもできなくなって—。絶望から首を吊って自死したという様子の動画が送られてきて、旦那さんはそれを一日中ずっと見続けていたと」 ファティマさんからのメッセージ 「人生に疲れてしまいました。問題ばかりで、生きる気力も残っていません」 極限状態に置かれたファティマさんたち。瀬谷さんは、一家を隣国・パキスタンに一時的に避難させるべく、ビザの取得に動き出した。 数か月後…ついに、アフガニスタン脱出の日が決まった。 約200キロの国外脱出 日の出までに7か所の検問所通過を目指す 瀬谷ルミ子さん 「印刷するな、共有もするなと(伝えた)」 ファティマさん一家のパキスタンへの退避が決まって間もなく、瀬谷さんがファティマさんに送ったのは、一通の指南書だ。 そこには、一家で国境を越えるにあたっての、注意事項が書かれているという。 瀬谷ルミ子さん 「持ち物は、1人1個のバックパック。あとは見られたら困るような写真やデータを全て消していくこと、どういう服装をしていくとか。今のタリバン政権が望む服装に沿っている格好をしないと、その服装だけで尋問されたりするリスクが高まるので」 脱出には現地の支援チームが付き添い、潜伏先から国境まで、車で移動する。出発の前日、私たちはファティマさんに心境を聞いた。 ファティマさん 「ようやく家族の安全を確保できると思うと、嬉しい気持ちでいっぱいです。ただ、愛する祖国を後にすること、両親や兄弟と離れることは、とても寂しくもあります。最も悲しいのは母の事で、最愛の母ですから…。別れるのはとても辛いです」 そしてー。 ファティマさん(音声) 「準備は完了です。パキスタンに安全に到着できるよう、祈ります」 出発時刻の午前2時。ファティマさん一家は潜伏先を後にし、支援チームが手配した車に乗り込んだ。 支援者 「ここで待ってて、あなたはここに座って」 危険を回避するため、夜中のうちにカブール市内を抜け、国境を目指すという。 日本では、瀬谷さんが現地の支援チームと進捗をやり取りしていた。 瀬谷ルミ子さん 「けさ未明に、カブールから出発をして、今国境に向かっているところです」 カブールから国境の街・トルハムまでの距離は、200キロあまり。日の出までに、7か所の検問所の通過を目指す。 最大の難関は、カブールから出るための検問所。そして、トルハムでの出国審査だ。車を走らせること、30分。最初のチェックポイントにやって来た。 タリバン兵(取材に基づくイメージ) 「行き先は?」 ドライバー(取材に基づくイメージ) 「トルハムです」 国境地帯に向かうと聞くやいなや、車のトランクを開け、所持品を調べ始めたタリバン兵。後部座席に座っていたファティマさんと子どもたちは、兵士と目を合わせないよう、必死に寝たフリをしてやり過ごしたという。 しばらくして、タリバン兵が告げた。 タリバン兵(取材に基づくイメージ) 「行ってよし」 無事、最初の関門を通過したファティマさんたち。 これは、そのとき撮影された、車窓からの映像だ。隣の車線には、同じく国境地帯に向かうトラックが列を成している。 トルハム到着までに通過すべきは、あと5か所の検問所。深夜でタリバンの監視が手薄になり、一気に突破することに成功した。 明け方まで、あと少し。残された90キロの行程を急ぐ。待ち受けているのは、最後の難関・トルハムでの出国審査だ。 緊迫の出国審査、タリバン兵「パキスタンに逃げるつもりだろう!」 午前8時半。トルハムにたどり着いた直後の様子を、支援チームのカメラが捉えていた。国境越えを目指す人達が多くの荷物を持ち、列をつくっている。 支援者 「家族皆、集まって」 ファティマさん一家もその列に並び、出国審査の時を待つ。間もなくして、ファティマさんたちの名前が呼ばれた。 タリバン兵(取材に基づくイメージ) 「パキスタンに渡航する目的は?」 ファティマさんの夫(取材に基づくイメージ) 「息子の病気の治療をするためです」 タリバン兵(取材に基づくイメージ) 「お前の子どもは元気で、話も出来るじゃないか。パキスタンに逃げるつもりだろう!」 激しい口調で尋問するタリバン兵に、ファティマさんの夫は息子の病状を示す書類を見せ、説明を続けた。 東京で進捗を見守る瀬谷さんにも、緊張が走る。待つこと10分。 瀬谷ルミ子さん 「今ちょうど、連絡が来ました。出国のスタンプを押されたって」 「よかったです、とりあえず。出国スタンプが押されたというのが一番のハードルというか、一番大変なところなので」 カブールを出て、およそ10時間後。ファティマさんたちは、無事パキスタンで待ち受けていた支援チームと合流した。 ファティマさん「世界は沈黙、何故?」、新たな目標も ファティマさん 「今はとにかく安心しています。アフガニスタンでは、安全とは程遠い日々を送っていましたから」 パキスタンの首都・イスラマバードに到着したファティマさんたち。日本から進捗を見守ってきた瀬谷さんに、無事を報告する。 瀬谷ルミ子さん 「ハロー!よかった!やっと」 「旅はどうでした?」 ファティマさん 「国境を越えてから、子どもたちはすごく喜んでいました。車の窓からずっと外を見つめていました。アフガニスタンで潜伏生活を送っていたこの2年半は、どこにも外出できませんでしたから」 瀬谷ルミ子さん 「パキスタンに来て、まず何したい?」 ファティマさんの娘 「公園に行きたい」 瀬谷ルミ子さん 「本当に、長い…、退避した家族のなかで、一番アフガニスタンの中にいた期間も長かったので。育ち盛りの子どもがずっと部屋にいないといけないのが、どれだけのことかと考えると、子どもたちも相当頑張ったし、家族皆で頑張った」 「(ドイツの受け入れが決まるまで)引き続きサポートしていきます」 ひと月後、ファティマさんのもとを訪ねると… ファティマさん 「パキスタンでの生活がいつまで続くのか、不安です。夫は子どもたちに『アフガニスタンに戻ろう』とさえ言い出していて、夜、眠れない日々が続いています」 最終目的地であるドイツからの受け入れに時間がかかり、先行きを案じ始めていた。うつ状態の夫を支えながら、息子の看病など、家族のサポートに奔走する日々を送っている。 ファティマさん 「これは、私が2年前に手掛けた本です」 見せてくれたのは、脱出の際に持ち出したという、数少ない所持品の一つ。潜伏生活を送るさなか、アフガニスタンの女性を取り巻く現状について書き綴った著書だ。 ファティマさん 「私は弁護士として、母国の女性たちに尽くしたい一心で、活動してきました。けれど、今の状況では自分を守ることさえ出来ないのが、とても辛いです」 “難民”としての現実を突きつけられる、ファティマさん。 それでも、同じような境遇に置かれたアフガニスタンの人たちのために、新たな目標を掲げている。 ファティマさん 「世界は、アフガニスタンの人たち、特に女性が抑圧されていることに沈黙しています。何故でしょうか?私は、どこの国に行っても、厳しい状況に置かれた祖国の人たち、とりわけ女性の権利を取り戻す活動に取り組みたいと思っています」

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