青森県八戸市のみちのく記念病院の患者間殺人隠蔽(いんぺい)事件に関連し、県は同病院に対して医療法に基づく改善命令を出す方針を固めた。 県と市が3月に不透明な運営実態を改善するよう勧告した後も、同病院が常勤ではない一部の医師を常勤医として県と市に報告しており、県は医療体制が改善されない状態が続いていると判断した。 「改善勧告後も不正確な報告」問題視 改善命令は法的な強制力を伴う行政処分。同法に基づいて病院に改善命令を出せば、県としては初めてで全国的にも異例だ。同法によると、改善命令に従わない場合、都道府県知事は一定期間の業務停止など、病院に対してより強力な措置を講じることができる。 県とともに病院への立ち入り検査をしていた市が18日にも、処分が必要だと県に伝える。県は処分方針を病院に通知した後、病院の弁明を経て最終判断する。 事件が明らかになった2月中旬以降、県と市は医療法に基づく臨時の立ち入り検査を複数回実施し、病院が適正に運営されているか確認した。その結果、一部医師の勤務実態が出勤簿などと合わず、正確な医師数の算出が不能▽複数の病室で定員を超える患者を受け入れ▽県の許可なく病院の設備を変更——という安全管理上の問題が判明したとして、3月7日の行政指導で改善を勧告した。 関係者によると、県と市は改善勧告後の3月17日、病院から改善したとの報告を受けた。病院から提出された勤務時間や報酬に関する資料を調べ、勤務時間に対して報酬が少ないと分析。職員や当該医師にも実態を聞き取り、病院が報告した常勤医数「13人」のうち、一部は常勤ではないと判断した。 県は改善勧告後もこうした不正確な報告をしてきたことを問題視。常勤医が足りず、適切な医療を提供できていないとして、改善勧告より重く、強制力を伴う改善命令を出す必要があると判断した。病室の定員超過と設備の変更については改善を確認したという。 改善命令では、実態に即した常勤医の勤務記録をつけさせ、適正な医療を提供できる状態にさせたい考えだ。県は一定の期間を設け、改善状況をチェックする方針だ。 「遺体をみず死亡判断」新たに判明 みちのく記念病院では、遺体をみることなく、入院患者の死亡診断書を作成した疑いのある「みとり医」が、患者間殺人隠蔽(いんぺい)事件で判明した医師(当時89歳、2024年に死亡)とは別にいたことが、複数の病院関係者への取材でわかった。新たにわかったのは、認知症の症状がある80歳代の男性医師。死亡した医師は認知症の疑いがある入院患者でもあったが、23年6月に転院しており、80歳代の医師はその後任だったとみられる。 関係者によると、80歳代の医師は病院の宿泊施設で暮らしていた。自力では病院内へ移動できず、看護師に付き添われていたという。県が改善勧告後に行った調査で、常勤ではないと判断した一部の医師の中には、この医師も含まれているという。 事件では、殺害された男性の死亡診断書の署名医師欄に死亡した医師の名前があったことが明らかになっている。夜間などに対応できる医師がいない場合に死亡診断を任されており、院内で「みとり医」と呼ばれていた。 ◆患者間殺人隠蔽事件=みちのく記念病院で2023年3月12日深夜、入院していた男性(当時73歳)が相部屋の男(59)から歯ブラシの柄で顔面を何度も突き刺され、翌13日午前に頭部損傷などで死亡した。当時院長の石山隆被告(62)と、弟で男性の主治医だった石山哲被告(60)は、死因を「肺炎」とする虚偽の死亡診断書を遺族に交付するなどして事件を隠蔽したとして、今年2月に犯人隠避容疑で逮捕され、3月に同罪で起訴された。