参政党の「倒し方」を教えましょう…「ファクトチェック」も「陰謀論批判」もイマイチ効かない、「素朴なナショナリズム」の手ごわい本質

前編記事【参政党を「カルト」「極右」「反知性主義」と侮る人が見落としていること…「自民も立憲も共産党も、結局なにもしてくれない」と怒る支持層の「内在論理」を読み解く】より続く。 「安倍自民」の精神的置き土産 SNSでは、参政党の支持層はみな陰謀論やスピリチュアル系思想に傾倒した人びとであるという意見が支配的だが、実際にはそうとはかぎらない。スピ・陰謀論にどっぷりと嵌っている人は全体からすれば少数であり、党勢拡大に大きく貢献したのは(全力支持ではないものの、なんとなく共感する、という温度感の)中間的な人びとが大多数である。 そうした大勢の「中間的な人びと」とは、かつて安倍晋三が率いる自民党政権、いうなれば「安倍自民」を微温的に支持していた人びとのことだ。 安倍晋三は、第一期を含めると3188日という憲政史上最長の期間総理を務め、自民党内でも有数のタカ派として知られた(ただし、実務上は党内の各派閥のバランス調整を慎重に行う政治家だった)。保守色の強かったころの「安倍自民」は非インテリ層からの支持が厚く、「日本に誇りを持つことを素直に肯定してくれる」という点で親しみを集めていた。 とくに若者層からは、かれらが物心ついたころから「ずっと総理大臣」だったこともあってか、あるいはどことなく愛嬌のある風貌や喋り方も相まってか、「お父さん」的な親しみと敬意を持たれていた。冗談で言っているわけではなく、安倍晋三が女子高生から「可愛い」などと言われ、Tiktokで「愛されキャラ」として扱われていたことは、過去に現代ビジネスでも紹介した。 「日本や日本人であることを誇りたい」という大衆の素朴なナショナリズムを肯定してくれ、「左翼ヘゲモニー」へのカウンター的な存在として期待されていた安倍晋三が総理大臣の座から去ってしまったばかりか、この世からも去ってしまった。安倍晋三の時代に自民党が享受していた若者からの支持は、いまや見る影もなく失われた。「自民党が好きなんじゃなくて『安倍自民』が好きだった」という人を、いま掻っ攫っているのが参政党なのだ。 参政党は安倍晋三が見せてくれたのと(まったく同じとはいわないが)近い物語を見せてくれている。日本は日本人ファースト。日本の誇りを取り戻す。日本を美しい国にする。そういうナショナリスティックな物語を、岸田文雄や石破茂が語ることはなかった。それこそ、神谷宗幣くらいしかいなかった。3年前の7月に世を去った安倍晋三は、もちろん本人も意図せずではあるだろうが、とんでもない置き土産を遺していったのだ。 参政党を倒したいなら 参政党は、日本の戦後の思想やメディアや言論や出版の圧倒的ヘゲモニーを掌握してきた左翼イデオロギーと、2022年ごろから急加速してきたインフレの申し子だ。 ここまでの話を逆にいえば、「参政党旋風」の発生を間接的に防いでいたのは、【安倍晋三】と【インフレの加速を食い止めていたデフレ政策】であり、その両輪が失われてしまったいま、神谷宗幣を止められる者はだれもいなくなったということかもしれない。 インフレの加速で市民生活が悪化し、時の政権はもちろん、既存のオールド政党への政治不信が拡大した。外国人の姿が、これまで彼らと接する機会もなかった人の視界にまで届くようになった。左翼ヘゲモニーによる思想や倫理や文化や言論の支配に飽き飽きしていた人たちにとって、希望であった安倍晋三が退場した。さらには日本のみならず、世界中で同時多発的に反移民のムーブメントが活性化した──。思えば、これらすべてが参政党にとって有利に働いていた。 参政党がリベラル政党からだけでなく自民党からも票を奪う、いうなれば全方位に敵対する第三勢力であることは、参政党現象がいわゆる「反リベラル」の潮流とか、西欧における「極右」の台頭とも、またニュアンスを異にすることを示している。 では、参政党を倒したいならどうするべきか。 「神谷氏の発言を逐一ファクトチェックして、支持者をカルト的洗脳から離脱させる」「政界の主流に躍り出る前に、徹底的に叩き潰す」などと言っている人がいるが、的外れもよいところだ。先ほども述べたとおり、陰謀論やオカルトに嵌っているから参政党を支持しているという人は全体からすればごく一部だし、議会制民主主義は、いくら熱量が高くてもそのような人たちだけでは勝てないような仕組みになっている。そうではなくて、その他大勢の中間的な、「ふつうの人たち」を繋ぎ止めないといけない。 べつに陰謀論やオカルトに魅入られているわけでもない人たちに「あなたは洗脳されているのだから、さっさとこちら側に来なさい」と説いても逆効果というか、相手からすれば「自分の思想信条の自由を貶す無礼者」や「既得権益者の手先」に見えるだけで、余計に参政党に力を与えてしまう。 「参政党有利」の状況は、当分続く 結局のところ、参政党の追い風になっているのは、あまりにも影響力や発言権を世の中の各所で強め過ぎた左派言論人と、市民生活を数字的にも体感的にも視覚的にも一変させている猛烈なインフレだ。これらが参政党の最大の支持拡大装置なのだから、ここをどうにかすれば、参政党旋風は大きく後退する。 しかし、現実的にはどうだろうか。左派言論人(これ自体も実際には同語反復的で、この国で言論人として認められるのは左派だけだ)は相も変わらず主流メディアを支配していて異論を持つ人を追い出そうとしているし、インフレが大変な時期に、各党は減税や給付金政策で争っている。インフレ時に減税や給付を行ったらさらにインフレが加速し、円の購買力を低下させ、外国人にとって「安い国」であることを後押しするだけだ。参政党にとっては有利としか言いようがない状況が、当分続くことが確約されているようなものだ。 (1)放送・出版・新聞・雑誌・言論・政治・行政・司法・学問--といった「知」や「情報」を司る領域に、主流派(左派)とは異なる意見や主張を持つ者の席もフェアに用意すること (2)財政健全性(日本円の国際的信用)を守りながら人びとの可処分所得を増やすこと これらが参政党の急所だ。 逆に、参政党が自分たちの支持を集めるという観点からすれば、(1)インテリ文化左翼がこれからも世の中の各領域で「主流派」を独占し、異なる意見や主張に排他的な態度を示してくれたほうが都合がよいし、(2)日本の財政がガタガタになって円が暴落し、インフレがどんどん加速してくれたほうが都合がよい。 主流メディアにも「日本人の素朴なナショナリズム」に寄り添う言説が登場して大衆の溜飲が下がったり、あるいはインフレや社保負担問題が解決して人びとの暮らしむきがよくなったとき、ようやく参政党への熱は冷えるだろう。 「参政党現象」をさらに理解するためのおすすめ記事はこちら【《参政党の聖地》熊本に潜入してわかった…「いったい誰が参政党を支持しているのか」に対する明確な答え】 【もっと読む】参政党を「カルト」「極右」「反知性主義」と言う人が見落としていること…「自民も立憲も共産党も、結局なにもしてくれない」と怒る支持層の「内在論理」を読み解く

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