連載:アナログ時代のクルマたち|Vol.39 BMW700

今でこそハイエンドのドイツ製自動車メーカーとして君臨するBMWだが、その歴史は比較的最近まで苦難の連続であった。そこで、少しBMWの歴史について触れてみよう。 【画像】当時倒産の危機にあったBMWを立ち直らせるきっかけとなった重要なモデル、BMW700(写真7点) そもそもBMWは、航空機用エンジン生産メーカーだったカール・ラップ・モトーレンヴェルクGmbHと、グスタフ・オットー・フルークモトーレン・ファブリックが合体し、誕生したメーカーである。同社の作るエンジン性能はきわめて優れ、当時高度9700mでの飛行という世界記録を打ち立てたほどだ。因みにグスタフ・オットーの父は、4サイクルエンジン、つまりオットーサイクルエンジンの開発者である。というわけで航空機エンジンのメーカーとしてスタートしている。 ところが、第1次大戦で敗戦国となったドイツは、飛行機エンジン製造を禁止される。そこで、BMWは鉄道用ブレーキシステムの生産に活路を見出し、やがてそれはオートバイ生産へと転換する。そして1928年、オースチンセブンのライセンス生産を行っていたアイゼナッハのDIXIを買収し、ついに4輪車の生産を始めることになる。1929年1月からDIXI3/15はBMWのエンブレムを装着することになったのである。 シルキー6と呼ばれる滑らかな回転フィールを持つ6気筒エンジンが誕生したのは、1933年のこと。以後第2次大戦前までBMWの6気筒エンジンは他ブランドにも供給され、その性能は誰もが知ることになる。最初の直6を搭載したのは、303というモデル。排気量は僅か1.2リッターであった。そしてこの車こそ、キドニーグリルを最初に纏った車でもあった。しかし面白いことに、この車のボディは当初メルセデスで生産されていた。 そして時代は第2次世界大戦へ。戦後のBMWは悲惨だった。自動車生産をしていたアイゼナッハ工場は、戦後になって東側に位置していため、接収されてしまったうえ、ミュンヘン工場は戦争末期に激しい爆撃を受けたことから、ほとんど原形をとどめないまでに破壊されていた。問題だったのは、ミュンヘンともうひとつベルリンのシュパンダウに存在していた工場は、基本的に航空機エンジン製造が主体であり、自動車生産はアイゼナッハだけだったのに、その工場がなくなってしまったことである。このため、自動車を世に送り出すことが出来たのは、実に戦争終了から6年後の1951年だった。最初の501と呼ばれた車は、比較的大柄のセダン。やがてそれは502に発展し、戦後のドイツ車として初めてV8エンジンを搭載するモデルとなった。 しかし、プレミアムセクターのモデルが、疲弊したドイツ人に受け入れられるはずもなく、大いなる野心を持って作り上げた503あるいは507といったスポーティーなモデルも、利潤を上げるには至らず、窮余の策として採ったのが、イタリアのイソから当時流行っていたバブルカー、イセッタをライセンス生産をすることだった。イセッタは発展を遂げ、最終的にはイセッタ600に進化するのだが、この車が実はBMWの足を引っ張った。理由は普通乗用車でもバブルカーでもない、中途半端な立ち位置だったからである。 そこで、同じようなメカニズムを持つ本格的な車として作り上げたのが、700である。実はイセッタ600は、後のBMWの定番サスペンションであるセミトレーリングアーム式リアサスペンションを持っていた。そこでこれを使い、リアには697ccのR67用フラットツインを搭載、イタリアのカロッツェリア・ミケロッティのデザインによる流麗なセダンとクーペボディが与えられた。これがBMW700の誕生である。 誕生は1959年8月のこと。実はこの車こそ、当時倒産の危機にあったBMWを立ち直らせるきっかけとなった重要なモデルなのである。ドイツ銀行を核とした話し合いでは、BMWとメルセデスを合併させる案まで浮上していた。一方でBMW内部では何とか自立の方向で利益を上げるべく、ニューモデルの開発を急いでいたものの、とはいえ開発費は少なく、現有するイセッタ600の部品をできるだけ流用する方向で開発が進んでいた。当時オーストリアのBMWインポーターで、レーシングドライバーでもあったヴォルフガング・デンツェルは、自身がイタリアのカロッツェリア、ミケロッティのデザインするコンセプトモデルをBMW側に提案。これを会社側が受け入れ、提案にあったクーペのみならず、セダンも加えたラインナップとして開発することを、1958年10月に決定する。 1 2 次へ

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