「地球を取り戻す時代に生きる漁業者とは…」 長良川河口堰運用開始から30年 衰退するアユ漁 “最後の長良川漁師” 平工顕太郎さん(41)に密着【news23】

岐阜県などを流れる長良川の河口堰。治水や利水を目的に運用が始まってから30年がたちました。鵜飼いでも有名な長良川ですが、この30年でアユ漁は衰退。船を持つ漁師は消滅の危機に瀕していますが“最後の長良川漁師”と言われる41歳の男性を取材しました。 【写真を見る】“最後の長良川漁師”が獲った1キロ3万円超のアユ 河口堰運用開始から30年 “最後の長良川漁師”とアユ 平工顕太郎(ひらく・けんたろう)さん41歳。 長良川で船を持つ若い漁師は極めて珍しく、“最後の長良川漁師”になるおそれがあると言われています。 伝統の漁法は20種類以上。最も初歩的なのが「手投漁」(ていなりょう)です。 長良川漁師 平工顕太郎さん 「アユの履歴は内臓を見るとよく分かるんです。鮮度の良い魚はここ(お腹の部分)で割れます。(割って抜き出した内臓を見てみると)アユが食べている餌がぎっしり詰まっています。アユは苔を食べ続ける魚ですから『腹が黒い』というのはアユにとって誉め言葉」 「(川の中の石を持ち上げて)アユが唇を使って藻類の新芽を食べたあとです」 岐阜県生まれの平工さん。子どもの頃から川で遊び、大学でアユの生態を学ぶと川漁師を訪ね、自分も“川で生きていきたい”と伝えました。しかし返ってきた答えは… 長良川漁師 平工顕太郎さん 「『学問を学んだからできるような仕事じゃない』『息子にも継がせていない』『もう川の未来はない』『夢物語だぞ』と」 一度は病院事務の仕事に就きましたが、夢を諦めきれず鵜飼の仕事に転職。29歳で自らの舟を持つ川漁師として独立しました。 平工さんは、大雨でも夜の漁に出ます。伝統の「火振漁」です。アユの寝床を音や炎で脅し、網に追い込みます。 長良川漁師 平工顕太郎さん 「アユは足が早いので、網から外す時間と、せいろに並べて氷打つまでの間にも色が抜けてクニャクニャになる。火振り網がアユの色つや残しながらハリも残せて、鮮度を維持するのに良い漁」 5月、岐阜市中央卸売市場で、平工さんのアユは1キロで3万2400円。この日の最高値をつけました。 船大工も消滅寸前「川に行っても獲れん お手上げ」 翌日、平工さんは93歳の船大工、那須清一さんのもとを訪れました。 長良川漁師 平工顕太郎さん 「ご報告したいことがあって。(新聞を見せながら)昨日、1キロで3万2400円の値をつけました。最高値とれたのは ちょっとホッとしている」 木材でできた船は軽くて使いやすく、アユ漁には欠かせないという平工さん。 しかし、そんな船を作れる船大工も今や消滅寸前です。 船大工 那須清一さん 「魚獲っても売れんし、川に行っても獲れん。もうお手上げ」 長良川の天然遡上のアユは1年きりの生涯を、川と海で暮らします。産卵は秋。河口から40〜50キロ、小石や砂のある川底です。 孵化した赤ちゃんは、流れに乗って海へ。沿岸部でプランクトンを食べながら冬を越して春になると川を上ります。 夏は苔の生えるお気に入りの石をめぐって、縄張り争いも。こうして大きくなり、秋になると産卵。そして一生を終えます。そんな命のサイクルを繰り返してきたのです。 河口堰運用開始から30年 水資源機構「アユに悪影響はない」 長良川でアユの漁獲高が激減したのは、反対の声を押し切って河口堰ができた今から30年ほど前のこと。 運用開始直前の記録的な冷夏や渇水などで打撃を受け、その後も立ち直りませんでした。 ベテラン漁師たちは… 「もちろん河口堰が一番ネックやね」 「河口堰が一番ネックやね。どこの河口堰も一緒。僕は本音しか話さん」 一方、河口堰を管理する水資源機構は「魚道の設置やゲートの調節も行い、アユの遡上や生態に悪影響はない」と主張しています。 河口堰の運用開始から30年。7月6日に行われたシンポジウムには、当時建設を担った河口堰建設事務所長(元・建設省職員)も登壇しました。 元・長良川河口堰建設事務所長 宮本博司さん 「本来なら今日30年なので、国土交通省とか水資源機構の職員が来て、皆さんと一緒にこの30年を振り返ることをすべきだと思っているのですが」 対立を超えた建設的な対話は今も進んでいません。 アユの生育環境を研究している専門家は河口堰だけでなく、洪水対策のため川底を掘り下げる工事による環境悪化の影響も大きいといいます。 岐阜大学 原田守啓 教授 「温暖化が進んで水害リスクが高まるという話になると、もっと川を掘り下げなくちゃという話になる。やっぱり(アユの生育)環境としてはうまく残すことができませんでした」 今、漁協などが力を入れているのは養殖アユの放流や、人工授精させて赤ちゃんを海へ放流する事業です。 “最後の長良川漁師”とも言われる平工さん。こうした事業に理解を示しながらも、自らはアユでお金を稼ぐよりも環境改善のためにアユの声を伝える教育活動に力を入れるなど、新しい漁師像の模索を始めています。 長良川漁師 平工顕太郎さん 「昭和の漁師像って格好いい。皆さんも僕にそれを求める。高度経済成長の中で消費型の中で生きてきた昭和の漁師と、地球を取り戻す時代に入った時の漁業者は役割が違っていいのではないかという迷いをずっと抱えながら葛藤している。これは伝えておきたい」 アユ漁衰退 令和の漁師像は? 篠原梨菜キャスター: 平工さんはご家族がいらっしゃるので、アユ漁1本で生活していくのは難しいといいます。 漁を軸として自然教育事業をしたり、船に乗るツアーの開催をしたり、それから自ら料理をして川魚の料理店も経営しているということです。 時代に合わせた『令和の漁師像』を模索しているそうですが、どうしても水害対策など環境を変えなければならない、必要に迫られるということもあると思いますが、何とかアユ漁を守りたいですよね。 上村彩子キャスター: 川の文化と接点を持つというのはとても大切なことだと思います。そして長良川のアユは「世界農業遺産」にも認定されていて、未来に引き継いでいくべき宝物とも言えますよね。 しかし河口堰のことだけではなく、川の温暖化や川底の環境悪化などによって、アユが様々な試練にあっている状況です。少しでもアユたちが暮らしやすい川を取り戻して、共生していく方法を模索するべきではないでしょうか。

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