自分はこのままで本当にいいのだろうか？本当にここは自分の居場所なのか？ 悩むのは当たり前。それはあなたが生きている証拠だ。 でも変化の激しい時代、あなたが成長を願うなら、踏み出すのは早いほうがいい。世界の超一流を知る筆者は、世界的な人材コンサルティングファーム「コーン・フェリー」で30年間、主にグローバル・トップ企業のエグゼクティブ・クラスを対象にヘッドハンターおよびエグゼクティブ・コーチとして第一線で活躍した。そんな彼が著した『成長の書』より一部抜粋・再編集して、あなたを「タイパ」「コスパ」などではけっして得られない「成長」の世界へ導く。 『成長の書』連載第20回 『メンタルの強さの秘訣は「女優力」…“優勝請負人”スポーツ心理学博士が伝授する「なりたい自分への近づき方」』より続く。 「成熟した大人」になるための「役割　」 「素の自分」で24時間365日を過ごせたら、どれだけ気楽で自由だろう——そう思うのは自然なことだ。 だが、現実はそう甘くない。僕たちは日々、さまざまな「役割」を演じることを求められている。 会社では上司、部下、同僚としての役割。家庭では夫、妻、父親、母親としての役割。そして友人、趣味仲間、近所付き合い——数え上げればきりがない。 これらの役割を臨機応変に演じ分けられなければ、人生は一気に生きづらくなってしまう。 たとえば、会社での「上司役」の自分をそのまま家庭に持ち込んでしまったらどうなるだろう？　部下への指示のような態度を妻に向けてしまえば、即座に冷たい仕打ちが待っているに違いない。 逆に、役割を上手に切り替え、家庭では「夫役」を的確に演じられれば、人生はずっとスムーズに進む。 ときには、自分が望んでいない役割を周囲から押し付けられることもあるだろう。 たとえば、優秀な営業パーソンが、その実績ゆえにマネージャー職を任される場合だ。「一匹狼」で成績を上げてきた人が、突然「世話好きなマネージャー役」を求められる——それは間違いなく未経験の試練だ。 しかし、このような状況も、見方を変えれば大きな成長のチャンスとなる。 「成熟」とは何か 心理学者ユングはこうした現象を「ペルソナ」という概念で説明している。 「ペルソナ」とはラテン語で「仮面」を意味し、「素の自分」ではなく「周囲に見せる自分」を指す。 社会生活を送る中で、僕たちはさまざまな仮面をかぶりながら生きている。 この「ホンネ」と「タテマエ」の使い分けは、社会で求められるスキルのひとつとも言えるだろう。 では、性格は変えられるのだろうか？ スポーツ選手を長年研究してきたジム・レーヤー博士はこう述べていると、布施氏が著書で紹介している。 「性格は変えられない。しかし、性格は『成熟』する」 成熟とは、自分の知らなかった部分を徐々に認識し、それをコントロールできる範囲に広げていくことだという。 つまり、演じられる役割が増えること——それが成熟なのだ。 僕自身、この「成熟」をどこまで達成できているのかと自問することがある。 子育ての中で、父親や夫としての役割をきちんと演じられていただろうか？ 現役時代には、社長という役割を全力で果たせていただろうか？ そしていま、講演者やエグゼクティブ・コーチとしての役割をどれだけ全うできているのだろうか？ こう考えると、自分にもまだまだ「成長の余地」があると痛感せざるを得ない。 与えられた役割を理解し、そのための台本を練り上げ、それに基づいて演じる。これこそが、成熟へのプロセスだろう。 「素の自分」だけでは辿り着けない境地が、そこにはきっとあるだろう。 【つづきを読む】メンタルの強さの秘訣は「女優力」…”優勝請負人”スポーツ心理学博士が伝授する「なりたい自分への近づき方」