亡くなった人をしのぶ方法として、AIによる「故人の再現」が行われるようになってきている。「故人との対話」の可能性すら考えられている現在、人々はこの再現をどう受け止め、感じているのだろうか。関東学院大学人間共生学部コミュニケーション学科の折田明子教授による論考。 亡き人をAIで再現すること 亡くなった祖父の若かりし日の白黒写真。それがカラーになり、写真の中でふっと笑みを見せる。写真立てに置かれた曾祖母の写真が、「元気にしてるの?」と語りかけてくる──亡くなった人たちが残した写真や声、動画などをもとに、人工知能(AI)技術によって故人を再生する。そんな、まるでSFのようなことが現実に可能になってきた。 「死者への冒涜だ」---2019年の大晦日、NHK紅白歌合戦に登場した「AI美空ひばり」は、AI技術を用いて故人を再現することについて大きな議論を呼び起こした。 これはYAMAHAが開発したVOCALOID:AIという技術で、故人の声を元に新曲を歌わせただけでなくて、4K・3Dの等身大ホログラム映像で本人の姿を再現し、舞台「出演」させたものだ。故・美空ひばりの映像が「お久しぶりです」と語りかける演出には、懐かしくて涙を流すファンがいる一方で、強い拒絶感を持つ人たちもいた。 それから5年。2024年夏に公開された映画「もしも徳川家康が総理大臣になったら」では、AIによって歴史上の偉人をホログラムで現代に蘇らせる設定がごく自然な演出として用いられていた。 また同時期、国内でも一般向けのAI故人サービスが次々と立ち上がった。なかでも2024年12月に葬祭サービス大手のアルファクラブ武蔵野が開始したバーチャルAI故人サービス「Revibot」は、対話の機能はないものの、故人が残した動画や写真といった素材をもとに、故人が動き語りかけてくれる動画を提供するものだ。従来の故人を偲ぶプロセスの中に、ごく自然にこうしたサービスという選択肢が提供されている点において、他のAI故人サービスとは一線を画しているように感じられる。 このような、AIによる故人の再現は、日本社会の中でどのように受け入れられていくのだろうか。 「故人」を「再現する」とは? そのためには、まず「故人の再現」という現象について、解像度を高めた上で整理していく必要がある。 まず、「故人」とは誰を指すのか。自分と同じ時代を生きた人か、少し前の時代の人か、それとも写真すら残らないようなはるか昔を生きた人か。近親者なのか、知人なのか、有名人なのか。さらには、公人であっても誰かにとっては家族や親しい人であるわけで、故人との関係性によって見えるものは異なる。 次に、「再現する」とはどういうことか。 史料をもとに書かれた伝記や物語、マンガやアニメも広い意味では故人を再現していると言えるだろう。たとえばNHKの大河ドラマでは、時代考証をもとに、脚本のみならずセットや衣装が作られる。わずかな手がかりしかないような人物が立体的に再現され、演じられる。 歴史上の人物であれば、その再現された姿も多岐にわたることがある。585作品・703名の織田信長を紹介した書籍「信長名鑑」(注1)では、作品ごとに容姿や性別、作中での役割が異なる多様な信長像が並ぶ。その中に史実に最も近い像があるのかは確かめようもないが、これまで信長像がどのように受け止められ、醸成され、創造性と組み合わされたのかを見ることができる。私たちはこうした「再現」を、すでにテレビや映画で日常的に目にしている。 デジタル技術を用いた再現も、すでに私たちの生活に浸透している。 葬儀で掲げる遺影をスナップ写真から切り出して服を合成したり、少し鮮やかに加工したりすることは以前から行われてきた。CGで歴史上の人物を描いたり、博物館で当時の人物をホログラムにして、展示を案内したりする例もある。 さらに、こちらの問いかけに応じて返答する──つまり「会話ができる」状態も、生成AIを用いれば実現できるかもしれない。白黒写真をカラー化する、写真の中の人物がほほえむ短い動画を作る、といったこともAIが可能にした再現の一端であり、再現の精度やリアリティはこの数年で飛躍的に向上している。 特に生成AIの登場は、「故人との対話」という体験を以前よりも容易に実現する可能性を秘めている。故人が生前に残した文章、音声、動画などから学習したAIが、その人らしい口調や文体で応答することも技術的には可能になりつつある。 このように「故人の再生」を整理してみると、その中には私たちが以前から受け入れてきたことと、近年の技術が可能にした新しいことがグラデーションのように存在していることが見えてくる。 故人のAI再現についての意識 亡くなった人をAIで再現するという試みについて、人々の意識はどのように変化してきたのだろうか。 筆者は2022年にデジタル遺品について2つの調査を実施した。一つは著名人の死後のデータに関するもの、もう一つは亡くなった近親者のデータに関するものだ。 それぞれの調査でVRやAIを活用することについて聞く質問を設けたが、いずれにおいても肯定的な反応はほとんど見られなかった。 著名人が亡くなったことを想定した調査(回答者1,200人)では、「VRで故人の姿を再現したい」については、肯定的な回答は6.6%で、否定的な回答は59.6%。「AIを使って音声で故人と会話したい」は肯定的な回答は4.6%で否定的な回答は63.6%だった。わからないとする回答も一定数みられていた。 ただし、特定の人物を想定した場合には傾向がやや異なっていた。たとえば、2020年3月に亡くなったコメディアン・志村けんを想定した群は、8.3%がAIによる音声会話を望んでおり、否定的な回答も49.3%であり、他の人物と比較したときに有意に少なかった。没後も、コンテンツとしてコントが放映され続けていることの影響があるかもしれない。 近年に近親者を亡くした人を対象とした調査(回答者1,303人)では、残されたデータの扱いについて聞いた設問で、「故人の写真を(カラー化などの)加工したい」2.8%、「AIで故人とチャットしたい」1.3%といったように、加工したいという希望はごく少なく、「該当なし」が85%を占めていた。 なお、この調査では残された写真データ等については、半数以上が肯定的に受け止めていたが、なかには「辛すぎてまだ見られない」といった回答もあり、残されたデジタル遺品についてはさまざまな感情があり得ることが示唆された。 しかし、2025年に実施した調査(1,000人対象)では、少し変化が見られた。 昭和を想定した生成写真の例を示した上で、曾祖父母や祖父母の再現について聞いたところ、「カラー写真を生成してみたい」が31.8%、「音声で会話してみたい」が10.6%、「チャットしてみたい」6.7%だった。「該当なし」は55.5%だった。さらに、近年に死別経験がある人たちの方が、そうした生成に有意に肯定的だったのである。 もちろん、同じ設問で比較した訳ではないが、生成AIの普及やデジタル遺品が一般化してきたといった背景から、故人のAI再現に対する抵抗感が徐々に和らいでいる可能性がうかがえる。 歴史上の人物は? 2025年の調査では、歴史上の人物について聞く質問も入れた。 NHK大河ドラマの2023年の主人公徳川家康、2024年の主人公紫式部を挙げて、肖像画やドラマ、マンガ、アニメといった従来の作品としての再現、AI生成による写真や動画といったよりリアルなコンテンツとしての再現、そしてAIによる音声・文字による会話の実現それぞれについて聞いてみたのである。 その結果、肯定的な回答はそれぞれ、従来の作品としては約35%、AI生成のリアルなコンテンツも約31%、AIによる会話の実現は約25%であった。 人物をこちらから指定せず、回答者が自分で過去の偉人を想定した上で答える設問でも、肯定的な回答は「過去の偉人がAIで生成した動画で当時のことを語る」は約35%、「過去の偉人とアプリで会話」は約25%だった。 これらの結果から、歴史上の人物に関してよりリアルな映像やコンテンツとして再現すること自体にはコンテンツとしての価値を感じられる可能性はあること、しかしインタラクティブなやりとりにはまだ慎重である傾向が見えてくる。 心の中で話しかける存在 ところで、愛する人を失ったとき、人はその悲しみにどう向き合うか。20世紀にはその喪失感を乗り越え、故人への執着を手放すことが理想だと考えられてきた。しかし近年では亡くなった人とのつながりを保ち続ける「継続する絆」という考え方が広まりつつある。 日本の社会では、日常的に「死者とともにある」感覚は広く共有されているといえるだろう。仏壇に手を合わせたり、命日に供え物をしたり、ときには心の中で話しかけるという感覚がまさにこの「継続する絆」である。 筆者も欧州の学会に参加した際「この国が好きだった亡き祖母に『おばあちゃん、私もここに来たよ』と話しかけながら来た」と話したところ、「これがあの"継続する絆"か!」と驚かれた。逆に私は、これが驚かれることなのかと驚いた。 しかし、このように心の中で話しかける相手は、生前のそのままの人物ではなく、記憶や思いに基づいて積み上げられた別の存在ともいえる。 亡くなった娘さんとVRで再会した女性にインタビューをされた研究者の高木良子さんは、目の前に再現されるものがむしろ「似ていない」ことが感情移入のきっかけになりうると指摘した(注2)。本人に忠実に再現することは、記憶にある個人像とのズレを明確にしてしまい、違和感につながるのかもしれない。 たとえば、冒頭に挙げたAI美空ひばりの場合、もし姿形を再現せず、歌声の再現だけだったならどうだっただろうか。等身大で再現された姿で、まるで生きていた時間をそのまま共有していたかのように振る舞うことが、心の中の美空ひばり像とは違うという違和感や冒涜されたという感覚につながった可能性はないだろうか。 こうした感覚について、哲学者の佐藤啓介さんは6つの枠組みを示している(注3)。なかでも、故人AIが「私たちが記憶している死者の姿をしつつ、その死者のイメージと異なる言行をする」可能性があることや、そもそも復活させた故人AIは生きている人にとっての「都合のよい死者像」ではないかという指摘は重要だ。 3つのレベルのAI故人 AIによる故人の再現をどのように受け止めていくか。本稿では3つのレベルに分けてまとめておきたい。 一つには、コンテンツとしての再現である。歴史上の人物や有名人らが残したデータから写真や動画、あるいは作品を生成することは、より鮮明な歴史資料への好奇心や娯楽的な価値への期待から肯定的に受け入れられる可能性があると考えられる。 二つには、資料やデジタル遺品の加工だ。写真をより鮮明にすること、写真から動画を作るといった、既にあるものを材料とした生成物については、技術的な進歩による新たな選択肢として受容されつつあるとみられる。特に、死別経験者がより肯定的な意向を示していることは、このようなAIの使い方が喪失経験のある人への新たな選択肢になりうることを示唆している。 三つめは、対話やチャット機能など、インタラクティブにやりとりできる形の再生である。こうした対話型のAI故人生成については、歴史上の人物から身近な人物まで、全般的に肯定的な回答は3割未満となった。特に自分の先祖についての希望は1割程度と低く、「対話」機能の導入にあたっては感情的な抵抗感がある可能性が高く、また生成される新たな発言が及ぼす心理的影響や社会的影響も懸念されるだろう。 AIによる故人の再現は、「できてしまう」からといって、すべての技術やサービスが同じように受け入れられるわけではない。技術的な可能性を追求するだけでなく、利用者のニーズと受容度に応じた適切な形態の提供を考えていく必要がある。 注1 姫川榴弾「信長名鑑」太田出版 2019 注2 高木良子「亡き娘と再会する〜韓国のドキュメンタリーを事例に(インタビュー)」中島岳志編「RITA MAGAZINE2 死者とテクノロジー」ミシマ社2025 注3 佐藤啓介. 2022. “死者AIをめぐる倫理のための理論的基盤を考える.” 宗教と倫理 22 (December): 57-70. <執筆者略歴> 折田 明子(おりた・あきこ) 1998年慶應義塾大学総合政策学部卒業。2000年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。2007年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。 中央大学大学院戦略経営研究科助教、ケネソー州立大学客員講師などを経て、2013年より関東学院大学に講師として着任。2022年から現職。専門は情報社会学、経営情報学。 人間の死後、残されたデジタルデータはどのように扱われるべきか。また、そのデータを用いた「AI故人」の生成にあたっては、どのような可能性と問題があるのか。JST-RISTEX助成プロジェクト「亡き人のAI生成に関するトラスト形成と合意形成」の研究代表者として、社会的な合意形成について調査・研究を行っている。 【調査情報デジタル】 1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。
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