人気グループでは数千倍──アイドル人気の高まりとともに、オーディションはますます厳しいものになっている。十代、二十代の少女たちは、どんな気持ちで選考に挑み、結果と向き合っているのか。 Fカップを武器にグラビアデビュー、最近では初舞台も経験した五十嵐早香さんの連載第7回。メイド喫茶でアルバイト中にお客さんから勧められたことがキッカケで挑んだ、SKE48のオーディション。歌とダンスの審査を終え、いよいよ最終面接に進む候補者が発表される。その時、彼女は何を思ったのか……自らの言葉で綴る。 何が起こっているか理解するので精一杯だった その時.... 「66番」 そう聞こえた気がした。 いや、間違いない、66番と言われたのだ。 追いつかない頭をよそに、体はとりあえずスクッと立ち上がった。 その時の私はどこを見ているか分からないような真顔で、とんだ間抜け面だったと思う。もしかしたら口も若干開いてたかもしれない。とにかく私は自分の表情管理をしている場合ではなかったのだ。 何が起こっているか理解するので精一杯だった。 そんな私をよそに次の番号がたんたんと告げられていく。私の次の番号は驚くほど一気に飛ばされていた記憶がある。 それを見て「危な...セーフだ。ギリギリだったな...」なんて思った気がするが、今考えてみればオーディションの結果にギリギリセーフなんてことは基本ない。番号がとんだのは単なる偶然だ。 とにかく情報処理に時間をかけ、理解した次に不安がよぎった。 「あれ、66番の方どうされました?どうして立ってらっしゃるんですか?」 なーんて言われるのを想像してしまい、あまりにも恥ずかしすぎて心配になってきた。私の聞き間違いだったらどうしよう。 66に聞き間違えそうな番号を必死に考えていると、いつの間にか呼び終わっていたらしく、呼ばれなかった女の子達に向け、諦めないでまた来てほしいという内容のスピーチが始まっていた。 本当に申し訳ないが、彼が何を話していたかは覚えていない。 残るはたったの30人 とにかく今自分が立っているのが正解なのかどうかだけ確認したかった。 番号が張り出されている訳ではないので、時間が経てば経つほど自分の記憶に自信がなくなっていく。たしかその後、受かった者だけ隣の部屋に来るよう指示されたはずだ。 もうこの辺はとにかく記憶が曖昧で、当時の私がいかに焦っていたのか今回書いていて分かった。 指示に従い部屋を出るが、まだ指摘がないので「これは本当に呼ばれたのかも?」という自信に少し繋がったが、確証がなかったので安心はできなかった。 そして隣の部屋に全員移動し終わった時、あまりの人数の少なさに唖然とした。先程の男性が部屋に入ると、全員の顔を見渡して話し始めた。 私とも目があったのだ。 そして私の疑心は確信へと変わった。本当にこの最後の少人数に選ばれたようだ。100人近くの女の子達とつい数分前まで一緒に戦っていたが、この部屋にはたったの30人程しかいなかった。 ダンスレッスン用の部屋だったため、私達の後ろには壁一面の鏡、そして目の前はレッスンの様子が見えるよう作られたガラスの壁だった。そのガラスの壁は出口に繋がる廊下に面していて、男性はその廊下に背を向け私達に話し続けた。 偉い人と思われる彼が話している間に、さっきまで一緒に頑張っていた子たちがゾロゾロと廊下を歩き、帰っていく姿がガラスの壁越しに見えた。 泣いている子、泣きそうなのを我慢している子、俯いて歩く子……それぞれ違った表情だったが、みんなとても辛そうだった。 それもそうだろう。日本にいながら飛行機を使って何度も来ている子も居ただろうし、両親の反対を押し切って喧嘩をしながら来ていた子だっていたのだ。 そんな中、廊下を歩いている一人の子と目が合ってしまった。 目の前を通りすぎる敗者たち 私はどうしていいか分からず急いで、話している男性の顔を見た。じわじわと汗が流れた。 彼の顔を見ていながらも、彼の背後からは沢山の視線がこちらに向けられているのに気がついた。 それに気づいてしまった私は、必死で男性の顔から少しも視線をずらさぬよう、彼の鼻にピントを合わせ続けた。 目の前を通りすぎる彼女たちがどんな顔で私たちを見ているのかを知るのが怖かったし、どんな顔で返しても失礼になる気がした。 なぜこの部屋にした。なぜそこに立った、偉い人。 こんな表現をするのは失礼な気がするが、全員が廊下を通り終わるまではとにかくその時間をなんとかやり過ごすような感覚だった。 目が寄りそうなほど男性を見つめていると、全員廊下を渡り終わった。 ふと安心して視線を動かす。もしかしたら寄り目になっていたかもしれないと思うほど、目が疲れていた。 もし私の番号が呼ばれていなかったら、私はどんな顔をしてあの廊下を歩き、どんな顔でガラス越しに合格者を見ただろうか。そんな想像をしたが、結局分かった気になるだけだと思い考えるのをやめた。 私は最終審査まで残ったのだ。 最後の投票で10人に選ばれなくてはならない。 男性の話が終わり、外に出る。外はすっかり暗くなっていた。 父と母の待ってる場所に行くと、なんとも言えない表情で母は私を見ていた。 「受かっ...たわ」 そう言うと、両親は盛大に喜んでくれた。 あと私にできることはフィリピンに帰り、投票結果を待つのみ。私は嬉しい反面、これで最後かもしれないという少し切ない気持ちで飛行機に乗った。 第8回に続く… 番号が呼ばれず、泣き出す人も…Fカップで活躍中「元SKE48」が振り返る、オーディション「最終審査」のリアル