「接戦で投票結果がすぐには判明しないのでは」という見方もあったアメリカ大統領選。しかし、11月5日の選挙はそうした予想を裏切り、ドナルド・トランプ氏の「完全勝利」に終わった。さらには上院と下院の議会選挙でも共和党が勝利し、大統領と上下院が全て共和党という「トリプルレッド」が確定した今、気になる米国の株式市場の行く末は——? マネックス証券の岡元兵八郎氏による解説をお届けする。 (前後編の前編) *** 【写真を見る】急速に進化 ほとんど手放しで運転が可能なテスラのFSD(フル・セルフ・ドライビング) 年初からのS&P500の上昇率は25.8% 米国大統領選挙は混乱もなく共和党のトランプ前大統領の復権が確定しました。株式市場は不確実性を嫌います。市場は「選挙の結果が確定するまで数日かかるかもしれない」という最悪のシナリオを想定していたようです。選挙の翌朝までにトランプ大統領が当選したことを確認すると、その不確実性が払拭されたことで、株価は大きく上昇し、史上最高値を更新しました。 米大統領選はドナルド・トランプ氏の「完全勝利」に終わった(2017年の就任会見) その後も株価は連日、史上最高値を更新。11月11日には米国を代表する株価指数のS&P500は初めて6000ポイントを超え、6001.35ポイントで終わったのです。 年初からのドル建ての上昇率は25.8%、円建てではドル高が手伝い37.5%の上げとなりました。年初は新NISAのスタートもあり、日本株の上げで賑わいましたが、同じ期間の日経平均の上げは18.1%ですから、結局は今年も米国株の方が堅調な年となりそうです。 では、来年からのトランプ2.0の誕生が米国株にどのような影響を与えるか考えてみましょう。 今回の選挙は大統領選の他に、上院と下院の議会選挙も行われました。上院は共和党が過半数を獲得することが確定しています。下院については、この原稿を書いている11月13日現在、まだ勝敗は確定していませんが、こちらも共和党が過半数を獲得する可能性が高まっています。 再びの規制緩和へ 共和党が下院、上院、そしてホワイトハウスを支配する「トリプルレッド」となった場合、トランプ政策の実現可能の確率が大きく高まることになります。トランプ氏は法人税をこれまでの21%から15%に減税すると公約に掲げています。大統領の就任後に速やかに減税が行われる可能性もあり、その分、米国企業の業績は上方修正されるはずです。 GAFAM(Google、Apple、Facebook(Meta)、Amazon、Microsoft)のようなグローバル企業は、低税率の国への利益移転を行うなどで実行税率を低くすることが可能であるため、減税はそのようなテクニックを使えない中小企業の方が恩恵を受ける傾向にあります。 そうした事情もあり、選挙の翌日から11日までにS&P500は3.78%上昇に対し、小型株指数のラッセル2000は7.7%上昇したのです。今後数年間、トランプ政権下においては、小型株の方が大型株より高いリターンを上げると考えています。 トランプ2.0のもとでは、規制緩和を積極的に行っていくと考えられます。ビジネス寄りの政策を持つ共和党のトランプ氏は、2016年に大統領になった際、様々な業界の規制緩和を行いましたが、次期政権でバイデン氏は規制を強化する方針を取りました。今度はそれを再び緩和する政策を行っていくことになりそうです。 GAFAMのトップが続々と祝電を 投資家の皆さんが最も関心を寄せるのは、GAFAMに代表されるグローバルテクノロジー企業ではないでしょうか。 2021年、バイデン大統領がリナ・カーン氏を連邦取引委員会(FTC)委員長に任命して以来、GAFAMをはじめとする巨大テクノロジー企業への規制が強化されてきましたが、トランプ氏が再び大統領に就任すれば、カーン氏は解任されるか、自ら辞任すると見られています。 その結果、GAFAMに対する政府の姿勢が和らぐ可能性があると予想されています。現在テクノロジー企業に対する訴訟が多く行われていますが、共和党政権下では既存の訴訟が和解に向かうのではないかと見られています。 2016年に第一次トランプ政権が誕生した際には、GAFAM企業の対応は冷ややかなもので好意的ではありませんでした。それが、今回はアップルのティム・クックCEOを始め、アルファベットのサンダー・ピチャイCEO、メタのマーク・ザッカーバーグCEOなどが祝電を送っているのです。 アマゾンの設立者のジェフ・ベゾスは、個人的にアメリカの有力新聞「ワシントン・ポスト」を所有しています。選挙前、同紙はハリス候補を支持する社説を用意していましたが、ベゾス氏はその原稿を記事にさせなかったのです。これは明らかにトランプ氏に対する配慮で、彼の機嫌を損ねないための対応です。 彼ら経営者たちは前回の苦い経験がありますから、今回は皆さん賢くなって上手な対応をしたということです。 トランプ氏も残り4年で歴史に残るレガシーを作り、米国経済の成長を成し遂げるためには彼らの手助けが必要ですし、GAFAM企業も米国大統領と仲が悪いのは得策ではないことを学んだということだと思います。 「敵の敵は味方」 そんなアメリカの大手企業の中でも、今回のトランプ氏の勝利から最も恩恵を受けそうなのがイーロン・マスク氏です。 マスク氏はここ数カ月、選挙で激戦州のペンシルベニア州での対話集会や、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでトランプ氏をサポートする演説を行うなどトランプ氏にとって最も強力な支援者でした。マスク氏は、今回の大統領選挙キャンペーンで個人的に300億円程度の資金を提供したとも言われています。 トランプ氏にとってマスク氏は今回の選挙の大切な恩人となりました。 では、なぜ彼がトランプ氏をここまで強烈に応援したかというと、バイデン政権下の監督庁が、マスク氏のスペースXなどの規制を強化してきたという背景があります。バイデン氏はマスク氏を嫌っていたように見えました。 大統領時代のトランプ氏とマスク氏との関係は、協力と対立が交錯する複雑なものであっと言います。そこに、バイデン大統領というより強力な敵が現れたことで、マスク氏はバイデン氏に対抗するトランプ氏に近づきました。「敵の敵は味方」という非常に分かりやすい構図と言えます。 *** この記事の後編では引き続き、今回の選挙でイーロン・マスク氏が得たリターンや、テスラ以外に「トランプ2.0」の恩恵を受けそうな企業の「実名」について、マネックス証券の岡元兵八郎氏の解説をお届けする。 岡元兵八郎 マネックス証券の専門役員。専門である外国株のチーフ・外国株コンサルタントのほか、マネックス・ユニバーシティ投資教育機関のシニアフェローも務める。元Citigroup/米ソロモンブラザーズ証券のマネージング・ディレクター。外国株に30年以上携わるプロフェッショナルで、関わった海外の株式市場は世界54カ国を数える。海外訪問国は80カ国を超える。米国株はもちろんのこと、新興国の株式事情にも精通している。ニックネームは「ハッチ」。Xアカウント名 heihachiro888 デイリー新潮編集部