テスラだけではない! トランプ2.0で恩恵を受ける企業の「実名」を米国株のプロが伝授

 米大統領選のドナルド・トランプ氏勝利で米国企業への積極的な規制緩和が期待されている。特に分かりやすく反応したのがイーロン・マスク氏の率いるテスラ株だった。トランプ勝利の翌日だけでも15%上昇した株価は、マスク氏の政府要職就任も伝えられる中、予想のつかない展開となっている。ただ、テスラ株以外にも「トランプ2.0」の恩恵が確実視される業界は複数あるといい——。前編に続き、マネックス証券の岡元兵八郎氏による解説をお届けする。 (前後編の後編)  *** 【写真を見る】グラフで見ると一目瞭然 S&P500の圧倒的な強さ(1928年からの推移) 300億円の投資が6.3兆円に  トランプ氏の勝利を受けた翌日の株式市場では、1日でテスラの株価が15%上昇、その後も上がり続け11日までの4日間でテスラの株価は39%も上昇、マスク氏が関連する企業がトランプ政権の誕生で恩恵を受けることを世界に知らしめたのです。 イーロン・マスク氏(2020年)  選挙の当日11月5日に8070億ドル(約121兆円)だったテスラの時価総額は8日には2年半ぶりに1兆ドルの大台にのせ、翌週の11日には1.124兆ドル(約170兆円)にまで増加、たった4日間で3170億ドル(約49兆円)の価値を生み出したのです。  今年の3月31日時点の有価証券報告書によると、マスク氏のテスラ株の保有比率は12.81%ですから、テスラの上昇分だけで約6.2兆円の利益を得たことになります。  マスク氏は、今回の大統領選挙キャンペーンで個人的に300億円程度の資金を提供したとも言われている。たった300億円の投資で6.3兆円と200倍のリターンを得た計算となります。  しかも、これはあくまでも現時点でのリターンです。トランプ政権が正式にスタートするのは来年1月で、彼のスペースXなどの事業に与える影響を考えると、リスクを取る価値のある計算され尽くした賭けでした。これは民主主義とは少し違うかも知れませんが、「資本主義の大成功例」とは言えるでしょう。 掘って掘って、掘りまくれ!  さらに、この規制緩和の恩恵を受ける主要な業界の一つが銀行業界です。  2008年のリーマンショック後、米国では金融システム改革と将来の危機防止を目的として「ドッド・フランク法」が制定されました。この法律により、金融機関はコンプライアンス要員の増員など非ビジネス部門のコスト負担が増加しましたが、トランプ氏は一度この規制を緩和し、その後バイデン政権が再び強化したという経緯があります。  トランプ氏が再び大統領に就任すれば、金融業界への規制を再度緩和することが見込まれています。恩恵を受けると考えられる企業には、「JPモルガン・チェース」、「ゴールドマン・サックス」、「バンク・オブ・アメリカ」、「シティグループ」、「ユー・エス・バンコープ」などが挙げられます。  エネルギー政策においても、トランプ氏は「ドリル、ベイビー、ドリル」(石油を掘って掘って掘りまくれ)というスローガンを掲げており、エネルギー・インフラの建設と採掘権の確保を容易にすると約束しています・。石油・天然ガス業界もまた、トランプ2.0の規制緩和の恩恵を受ける分野と言って良いでしょう。  特に化石燃料や天然ガスの輸出拡大が推進され、エネルギー自給率の向上と経済成長の加速が図られると予想されます。トランプ氏がLNG(液化天然ガス)の輸出を促進する意向であることから、国内シェールガス・オイル関連の「オクシデンタル・ペトロリアム」、「コノコフィリップス」、さらに「シュルンベルジェ」や「ハリバートン」といった石油サービス企業が注目されるでしょう。  また、エネルギー政策は重要な課題であるため、再生可能エネルギーや送電網の整備も重視されると考えられます。米国ではデータセンターの電力供給不足が課題とされる中、インフラ大手の「コンステレーション・エナジー」、「ネクステラ・エナジー」なども引き続き投資価値が高いと見られます。 ビットコインも急騰  通信業界や暗号資産業界に対する規制緩和の可能性もあります。  通信業界は「公平な競争促進」「消費者保護」「ネットワーク信頼性の維持」「インフラ発展」を目的に規制が設けられていますが、トランプ政権が誕生すれば、この分野の規制も緩和され、米国最大の通信会社である「AT&T」や、それに並ぶ大手電気通信事業者「ベライゾン・コミュニケーションズ」などが恩恵を受ける可能性があります。  暗号資産に関しては、現在の証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長が批判的な姿勢を示しています。同氏は2026年までの任期ですが、トランプ政権誕生後には退任が予想されています。  これまで暗号資産企業に対して多くの訴訟が提起されてきましたが、トランプ政権のもとで規制が大幅に緩和されることで、こうした訴訟が取り下げられる可能性が高く、暗号資産市場にとっては追い風となるでしょう。  そんな連想もあり、選挙当日の11月5日に6万9000ドル台で取引されていたビットコインの価格は11日には8万8000ドルを超え、日本時間13日午前には一時、史上初めて9万ドル(約1390万円)の大台を突破しました。 来年末のS&P500は何ドルに? 「トランプトレード」で米国株は急速な上昇を見せていますが、企業業績については来年、再来年と2桁の成長が予想されています。しかも、それはトランプ氏当選前の予想値で、米国企業が実際に減税の恩恵を受けるのはこれからのことです。  短期的な上がり過ぎにより、目先の米国株の調整が起きたとしても、それも自然なことだと思います。来年から始まる二期目のトランプ政権の道のりはスムーズなものではなく、今の状況は嵐の前の静けさかもしれません。  ただ、トランプ政権の目的は、アメリカ経済をより強くすることです。トランプ氏が乱暴な政治手法をとったとしても、それは最終的に米国の利益のためになるはずです。  来年の株式相場は一直線であがるものではないものの、米国経済は堅調といった好ファンダメンタルズのサポートもあり、来年末のS&P500は7000ドルを目指す展開となると考えています。  ***  この記事の前編では、トランプ勝利で米国株が急騰した理由や、前回政権時とは異なりGAFAMのCEOたちが競い合うようにトランプ氏に「祝電」を送った背景について、同じくマネックス証券の岡元兵八郎氏による解説をお伝えしている。 岡元兵八郎 マネックス証券の専門役員。専門である外国株のチーフ・外国株コンサルタントのほか、マネックス・ユニバーシティ投資教育機関のシニアフェローも務める。元Citigroup/米ソロモンブラザーズ証券のマネージング・ディレクター。外国株に30年以上携わるプロフェッショナルで、関わった海外の株式市場は世界54カ国を数える。海外訪問国は80カ国を超える。米国株はもちろんのこと、新興国の株式事情にも精通している。ニックネームは「ハッチ」。Xアカウント名 heihachiro888 デイリー新潮編集部

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