韓国の朴竽熙(パクチョルヒ)駐日大使が7日、東京都内で読売新聞のインタビューに応じ、厳しさを増す安全保障環境や少子高齢化への対応を巡り、「韓日の協力は選択ではなく必須だ」と訴えた。 歴史問題の火種を管理しながら連携を深めることは「十分に可能だ」とし、「今までの(尹錫悦(ユンソンニョル)前政権下の)3年で証明した。意思と努力(の問題)だ」と強調した。 朴氏は李在明(イジェミョン)新政権の発足に伴い、14日にも離任する。 主なやりとりは次の通り。 韓日、共通の課題多い ——李大統領は早期の訪日に意欲を示している。 良いシグナルだ。新政権になってすぐに電話会談が行われ、G7サミット(先進7か国首脳会議)での対面会談もあった。一貫して韓日関係が大事で、韓米日の協力も維持しなければならないというメッセージが出ている。 首脳間の信頼関係が一番大事だ。首脳のシャトル外交(相互訪問)は両国民を安心させ、(両国関係の)強い支えになる。時期や場所に関係なく、色々な話を率直にするのは非常に大事だ。うまくいってほしい。 ——石破首相は、少子化対策や地方創生で韓国に連携を呼びかけている。 韓日は共通している課題が多い。安全保障や経済、通商もそうだが、少子高齢化や地方消滅、(首都圏)一極集中、外国人受け入れなどは、生活に身近な悩みだ。同じ悩みを持つ韓日が協力するのは非常に良いことだ。 同じ経験をしているので、情報交換しながら学び合う。お金を配ったけれど効果がなかったとか、教育費を出した方が良かったかもしれないとか、最善の解決策を探り合い、共有する。先週訪れた熊本県南阿蘇村は、かつて「消滅可能性自治体」とされたが、今は「自立持続可能性自治体」に変わった。空き家の紹介やランドセルの支給といった取り組みは、韓国の自治体も学んでやったらよいのではないか。 元徴用工問題、韓国はかなり努力している ——李大統領は、日韓の協力を歴史問題と切り離して進めていく方針を示している。過去にも同様の方針を掲げた政権はあったが、うまくいかなかった。 必要なのは共同の努力だ。歴史問題でギクシャクするかもしれないが、双方とも抑制的に問題を管理しようという意思を持って対応するべきだ。歴史問題と協力案件を切り離して対応することは十分に可能だ。今までの3年で証明した。意思と努力(の問題)だ。 ——元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題の解決策は維持されるか。 徴用工問題に関しては、韓国政府系財団が(日本企業の賠償金相当額を支払う)第三者弁済の努力を続けている。それを崩す必要はない。 韓国はかなり努力をしている。4月には、訴訟と全く関係ない大韓商工会議所と韓国経済人協会が、財団に計30億ウォン(約3億円)を寄付した。この問題が抑えられなくなって韓日関係がこじれることを心配しているからだ。出来れば日本も、当事者(訴訟の被告)企業ではなくても、(財団への寄付などを通じて)誠意を見せてほしい。日本もこの問題で努力しているという意思の表れは必要だと思う。 ——石破内閣の外交姿勢をどう見るか。 石破政権は、韓国に安心感を与える政権だ。韓日の戦略的協力の重要性を分かっているし、歴史問題でも非常に謙虚な姿勢を貫いていて、(韓国側を)刺激することもない。 日韓は今年、国交正常化60年で、歴史上最も良いところに来ていると思う。政府間、首脳間の関係は安定し、国民交流が増えている。昨年1200万人が往来し、今年は(訪日)韓国人だけで1000万人を超えるかもしれない。政治がこれを否定的に捉え、(反日や嫌韓に)利用しようとしても、支持は広がらないだろう。 北朝鮮の脅威、相当緊迫 ——トランプ米政権の発足や米中対立の激化、露朝の軍事同盟などで、国際環境が激変している。 我々が大事にしている平和と繁栄を保つためには、韓国と日本の協力は選択ではなく必須だ。広い視野で世界を見ながら、協力していくべきだ。 自動車や鉄鋼など(対米輸出の構造)は似ている。造船やエネルギーの(対米)協力ができるのも同じだ。(日韓で)情報を共有するべきだ。 日本は今、台湾有事に集中しているが、北朝鮮の脅威も相当緊迫している。核・ミサイル能力が高度化し、露朝の協力で安全保障の秩序が変わる可能性がある。韓国だけでなく日本も関わる問題だ。 一つ、誤解を払拭(ふっしょく)しなければならない。韓国は中国寄りだ、という考え方は、現実に合わない。昔は中国にそこまで厳しくなかったが、今は7割以上が厳しい認識を持っている。大手企業も、米国の対中政策が変わり、中国への投資や先端技術投入に慎重になっている。日本と同じだ。「韓国は何となく中国寄り」という認識は見直した方がいい。 だからと言って、中国と対立する訳でもない。話ができる関係を維持した方がよい。韓日中の枠組みを通じ、中国の建設的な役割を引き出すための努力を我々は続けるべきだ。(聞き手・岡部雄二郎)