《実際にいたトンデモ刑事》「歌舞伎町弁護士」が解決した性風俗店「本番トラブル…」 メニュー表の裏には小さな文字で「本番行為に及んだ場合は、50 万円の罰金」の記載

 欲望渦巻く新宿・歌舞伎町では、日々、多様な事件が起きている。新宿に拠点を構え、これまでに3000件以上の風俗トラブルを担当してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏は、「店や女性キャストと客との間のトラブルの中でも、『本番』に関するごたごたは多い」と話す。そうしたトラブルについて、歌舞伎町のお膝元にある紀伊國屋書店新宿本店の「新書部門(6月4週)」でランキング第1位を獲得した若林氏の著書『歌舞伎町弁護士』より、一部抜粋、再構成して紹介する。 【写真】日々多様な事件が起きている、欲望渦巻く新宿・歌舞伎町  繰り返し持ち込まれた同じ店、同じ源氏名のデリヘル嬢との本番トラブルの相談に、店ぐるみの「美人局」への疑念が浮かび上がる──。【全3回の第3回。第1回を読む】  * * *   3人目の依頼者は50歳、外資系企業の宅配サービスの配達員。トラブルの内容はまったく同じ、サービスの最中にスルっ。ネットの掲示板を見て、私の事務所に連絡──しかし、今回は異なる点が3つあった。  1つ、依頼者が独身であること。2つ、依頼者は正社員でも契約社員でもなく、業務委託という名目の自営業者であること。性風俗産業絡みのトラブルで、多くの依頼者が「示談」を望むのは、実際に悪いことをしたからというより、家族や会社に知られるとバツが悪いからだと感じることのほうが多い。  今回の一連のケース、ユウと名乗るデリヘル嬢が声高に訴える被害について、私は強い疑念を抱いていた。もっと正直に言えば、徹底的に戦いたいと思っていたが、それは私ではなく依頼者が決めることだ。  以前の2人、企業や官庁の勤め人で家族を持つ依頼者たちは、潔白の証明よりも平穏を選んだ。今回の依頼者には世評を気にする上司や同僚、家族はいない。もちろん、実母や親戚はいるが、長らく生活は別。もし性風俗を利用したことが知られても、さして気にならないと言う。そこで私は言った。 「本番をしてしまったのは、故意ではないんですよね」 「はい、自分から入れようとしたことは一度もありません」  とはいえ、偶然、スルっと入ってしまった後、すぐに抜くのではなく、腰を振り続けたことも事実である。 「挿入していた時間はどれぐらい?」 「1分か、2分か。いきなり大声を出して、私を突き飛ばして」  ユウはすぐさま電話をかけ、マネジャーが現れた。この先が3つ目の違い。 「(性的サービスと価格の種類を記した)メニュー表を見せられて、『事前に説明があったでしょ』と。そんな説明はなかったし、何かと思ったら、メニュー表の裏に、めちゃくちゃちっちゃい文字で、『本番行為に及んだ場合は、50 万円の罰金』とか何とか、書いてあって。腹立ったから『脅迫するつもりなのか』と言ったんです。そうしたら、いきなり2人の警官がやって来て」 個人情報を取られた上で、ようやくホテルから出ることを許された  警察の登場でパニック状態になった依頼者が「わかりました、わかりました、50万円払います」と口走った時、ユウもマネジャーも警官の前で、露骨に不満げな様子を見せていたという。 「50万円は店に対する罰金で、キャスト個人の休業補償や性感染症の検査費用などは別だ、と。しかも、警官もその場にいて、正直、ハメられてるのかなって」  そのまま約3時間、責められ続けた依頼者だったが、「50万円以上払う」とは口にせず、個人情報を取られた上で、ようやくホテルから出ることを許された。 「次の日に、マネジャーから電話がかかってきて、『沖縄県警が被害届を受理し、捜査が始まる』と。それから、抵抗した際に、彼女が手首を捻挫した。全治2週間の診断書も出ているなんて言われたのですが、私は彼女の手首や腕を押さえつけたり、むりやり何かをしたなんて、絶対にありません」  今後の見通しや方針の選択肢・リスクなども丁寧に説明をしたが、依頼者は「やってもいないことは絶対に認めたくありません」と。その言葉を受けて、私は言った。 「では戦いましょう」 「正直、美人局を疑っています」  私は沖縄県警に電話を入れ、担当の捜査官を出してもらった。受話器を取ったのは、やはり水田刑事である。 「被害を訴えている女性は、ひょっとしてユウさんじゃないですか?」 「言えませんね。個人情報ですから」 だが、今回は引き下がらない。相手がユウであることはわかっているし、依頼者は戦いを決意したのだ。 「これまでもね、何度かお電話で話しているのでご存じと思いますが、ユウさん、ちょっとやりすぎ。私の依頼者は、ユウさんと店から『脅迫された』と怯えています」 「本番はしていないと主張するんですか?」  つかみどころのないヌルヌルとした態度は、いつも通りだ。 「本番行為については否定していません。でも、双方の同意の上ですよ。問題は、暴行・脅迫でしょう」 「怪我したって、診断書も出ているよ」 「それも争います」 「じゃあ、任意聴取には応じるわけね」 「どうでしょう。応じるかどうかを決めるのは、依頼者なので。いずれにしても、丁寧な捜査をお願いします。正直、美人局を疑っています。ユウさんと店が過去にどれだけの数の被害届を出して、示談金を得たのか、ぜひ調べてみてください」 犯罪になるのは「暴行・脅迫による本番の強要」  翌日、依頼者から電話があった。「水田刑事から任意聴取を依頼する旨の電話がかかってきたが、応じたほうがいいのか」という問い合わせで、本番行為自体を認めていいのか、すなわち、性的サービスを受けている最中に「入ってしまったこと」を認めていいのかどうかが気がかりな様子だった。 「本番行為をしたこと、それ自体で、男性の側が一方的に悪者になる、というわけではないんですよ」  私はそう説明した。犯罪になるのは「暴行・脅迫による本番の強要」で、「本番そのもの」ではない(なお、現在の不同意性交等罪では、同意がない状況での本番行為、同意するいとまがない状況での不意打ち的な本番行為も対象となっている)。 「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない」。「売春防止法」の第三条にはこう書かれている。つまり、売るのも買うのもダメ。ポイントは、いずれも禁止されているが、「個人の自由意思に基づく売春」については、自転車のヘルメット着用義務と同じように、違反しても、具体的な罰則は存在しないという点である。  罰則が存在するのは、勧誘行為としての立ちんぼ、売春の斡旋、場所の提供などで、今回の依頼者には関係ない。むしろ、同意のもとに本番が行われているならば、店舗側は売春の斡旋をしていることになるのだ。 「ですから、偶発的に入ってしまった事実は認めてしまっても、問題はありません」  今回の件についていえば、本番行為よりもセンシティブなポイントがある。 「力ずくで押さえつけられ、手首を怪我したとユウは主張していますが、正常位の最中、相手の手をつかんだりしましたか?」  私は、依頼者に尋ねた。 「いいえ」  依頼者は即座に否定した。 「腕とか手をそもそも触っていません。相手は、両手で私の腰というか、上体のあたりを触っていました」  性的な問題にかぎらず、週刊誌やウェブ媒体の告発記事では、しばしば《全治何日》という表現で、身体的な被害の大きさをアピールしようとするが、医者の診断書には、あまり信用が置けない時もある。目に見える外傷やレントゲン写真があれば別だが、いわゆる「関節の痛み」については、患者が「痛い」と主張するかぎり、医者がそれを否定することができないからである。 任意聴取では、どんな理由であっても、いつでも好きなタイミングで部屋の外に出られる 「では、偶発的な性交があったことは認め、相手の腕や手については一切触っていないと主張してください」  依頼者の会話のテンポが遅くなった。 「すみません。ちょっとメモさせてください。やっぱり、不安で……あれですよね、狭い部屋に閉じ込められて」 「大丈夫です。任意聴取で閉じ込めることはできません。トイレ以外にも、どんな理由であっても、いつでも好きなタイミングで部屋の外に出られるので、不安になったり、調書にサインを求められたりした時には、署名をする前に『弁護士と電話で話したいので、外に出ます』と言って、外に出て、私に電話をください。  それから法律上、ノートとペンは持ち込めます。メモを禁止する明確な規定はありません。もし警察官からダメと言われたら、『メモを禁止する規定はないでしょう』と主張してください。それでもダメなら、一度部屋を出て外でメモしてください」 「よかった」  依頼者が安心した様子で、私もよかった。 「こちらの主張はどこまで言えば?」 「最初にはっきり言ってしまってください。『本番行為は否定しないが、私が誘ったのではなく、向こうが入れた。美人局にあったという認識です』と」 「刑事の人とか、怒りませんか?」 「机を叩いたり、怒鳴ったりするかもしれませんが、その時はノートに、何をされたかをメモしてください。過去に私が担当した依頼者の中には、呪いの言葉をかけられた人までいらっしゃいます。『お前は悪魔だ』とか、なんとか。そういう行為は違法なので、もしそうしたことがあったら、私がすぐ抗議します。いずれにせよ、不快なことがあったら退出して、私に電話を」  この呪いの言葉の話は本当にあった出来事だ。当時、依頼者から聞き取り調査を行った時はびっくりしたが、経験を積むうちに、数多くの“奇人変人”刑事に出会い、最近では驚くことも少なくなってしまった。  翌日、依頼者は沖縄へ飛び、水田刑事の任意聴取に協力した。私はその後、もう一度水田刑事に電話を入れ、念を押した。  それ以降、依頼者のもとには、沖縄県警からも店からも連絡はない。それこそが、この手のトラブルの解決の証なのだ。 (了。第1回から読む)

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