ここまで来た!画像の「鮮明化&高解像度化技術」最前線〜テレビ局も熱い視線〜【調査情報デジタル】

画像の鮮明化やピンボケの解消といった、従来は医療分野などで使われてきた技術が、テレビ局など映像メディアの分野にも活用できることがわかってきた。技術開発をしている「ロジック・アンド・デザイン」の担当者に、最新の技術とその可能性について聞いた。 【写真を見る】ここまで来た!画像の「鮮明化&高解像度化技術」最前線〜テレビ局も熱い視線〜【調査情報デジタル】 「鮮明化」と「復元高解像度化」技術の現在地 カメラで風景を撮影した「画像1」。下の部分は暗く、つぶれてしまっている。 この画像に処理を加えたのが、次の「画像2」だ。 空の明るさなどはそれほど変化していないが、一方で暗くつぶれていた部分にあった鉄塔や建物などがはっきり見えるようになっている。この処理を実現しているのが、「鮮明化」の技術だ。 次の「画像3」は、衛星から東京タワー周辺を撮影した写真。上空からの街並みが映っているが、ピントがぼけている。 これに処理を加えたのが次の「画像4」。建物などがはっきり見えるようになった。これは「復元高解像度化」の技術によるものだ。 こうした「鮮明化」と「復元高解像度化」は、生成AIによって新たな画像を作っているわけではない。その画像が元々持っているデータや信号を最大限利用して、見えなかったものを見えるようにする技術だ。 医療現場や防犯カメラなどで普及した技術 この技術を開発した会社が、東京都新宿区に本社がある「ロジック・アンド・デザイン」。鮮明化の技術は、現在の副社長が原子力発電所の監視カメラの映像をよく見えるようにしようと、画像処理を始めたのがきっかけだった。その技術を知った医療業界にいた現在の社長が、眼科や外科などで手術をする現場に使えると考えて2018年に創業した。 「鮮明化」の技術は、ハードウェアをカメラとモニターの間に接続する方法か、パソコンにソフトウェアをインストールする方法で使える。 一方「復元高解像度化」は、現在はソフトウェアだけで対応している。いずれも独自の技術で、関連する特許を多数取得している。 このベンチャー企業に異業種から転職したのが、プロジェクト・マネジメント本部ビジネスデザイン部長の坂井康文さん。2024年10月に入社し、マーケティングや新規事業開発などを担当している。「鮮明化」技術を次のように説明する。 「カメラで識別できる明るさの範囲を、ダイナミックレンジといいます。ダイナミックレンジが狭くなることで暗くなったり、明るくなりすぎたりします。この狭くなったダイナミックレンジを、独自に開発したアルゴリズムによって拡げることで、画像データの再現性を高めることができました。画像の最も小さな単位である1ピクセルごとに処理を行うことで、ハードウェアで接続している場合は、ほぼリアルタイムでの鮮明化が可能です」 一方、「復元高解像度化」は、ピントがぼけている画像を、ぼけていない状態に復元する技術だ。 ピンボケはカメラなどの光学系において、被写体から像に変換される際に理想的に変換されずに生じたずれや、フォーカスのずれによって、本来は1ピクセルに集まるべき光の線が、周囲に広がって分布していることが原因だ。 この分布の状況は、「点拡がり関数」で表すことができる。「ロジック・アンド・デザイン」ではこの関数を算術的に最小化して、光の線を1ピクセルに集めることによって、解像度を改善している。 「鮮明化」や「復元高解像度化」を行うハードウェアやソフトウェアは、これまで医療現場のほか、防犯カメラなどの産業インフラに導入されてきた。 国土交通省の河川の監視では、「ロジック・アンド・デザイン」の技術が導入されているところも全国に広がる。河川の増水などを夜間でも確認できるのが利点だ。 また、警察の警備や捜査の現場でも導入が進んでいる。皇宮警察本部の監視カメラにも採用されており、映像の鮮明化により安全な警備に貢献している。 捜査の現場では、ドライブレコーダーの映像の解析や、カメラに暗く映っている人物の顔などを鮮明化するといった使われ方をしている。これらの処理は、前述したように、生成AIによって画像を生成したのではなく、あくまで本来記録されている画像の見えなくなっている部分を見えるようにしたものなので、裁判資料としても採用が可能だという。 日本テレビの活用をきっかけに、新たなソフトウェアを開発 この「鮮明化」と「復元高解像度化」の技術が、テレビの放送でも使えることがわかってきた。 いち早く取り入れたのは日本テレビ。2024年1月2日に羽田空港で発生した、日本航空516便と海上保安庁の航空機による衝突事故で、情報カメラの映像を「ロジック・アンド・デザイン」が鮮明化処理した。 「日本テレビさんから相談があって、情報カメラの映像を鮮明化したところ、それまでは見えなかった、滑走路を移動する海上保安庁の航空機が見えるようになりました」(坂井さん) 日本テレビとその後も映像の鮮明化を行っていく中で、テレビ放送の分野で自社の技術が役立つのではないかと気づくようになったと坂井さんは話す。 「災害や事件、事故を伝えるニュースでは、暗い場所で撮影された映像や、悪天候の中で撮影されている映像は、見えにくくなっているケースが多いようです。また、最近では衛星写真が使用される機会が増えているものの、ピンボケしていることが多いのではないでしょうか。当社の技術が貢献できる部分があるとわかってきました」 そこで、「ロジック・アンド・デザイン」では、「鮮明化」と「復元高解像度化」の技術を連携させたソフトウェアを今年3月に開発した。 画面左側にはパラメーターがあり、まずは上部にある補正やコントラストの強度を変えるスライダーを動かして、「鮮明化」を行う。続いてその下に並ぶスライダーを使ってピンボケを解消していく。 簡単な操作で事件や事故の映像を鮮明化できるとともに、画質が劣化したアーカイブ映像なども鮮やかに復元できるようになった。 ただ、放送分野で活用していくには、まだ課題もある。「鮮明化」の場合、伝送する際やファイルを圧縮する過程などで、目に見えにくいノイズまでが強調されることがある。 また、「復元高解像度化」ではピンボケを解消する計算に重い処理が必要なため、今年3月に開発した「鮮明化」と連携したソフトウェアでは静止画のみの対応であり、動画は簡易的な復元高解像度化の処理までしかできないのが現状だ。 「鮮明化」の技術をチップに 「ロジック・アンド・デザイン」が現在開発を進めているのが、「鮮明化」の技術を搭載したチップだ。大きさが15ミリ角と小さく、小型化と省電力化、ローコスト化を実現するもので、撮影するカメラや情報カメラ自体に組み込むことによって、現在よりも高品質な画像処理が実現する。 暗い状況で撮影した評価試験の画像で見てみると、その技術の革新性がわかる。まず、元の画像を1ルクスの明るさの中で撮影する。一般的には満月の夜道の明るさが0.2ルクスといわれている。1ルクスだと、ほぼ真っ暗にしか映らない。 1ルクスで撮影された画像を、現在の「鮮明化」のソフトウェアで処理をすると、暗闇の中に物体が微かに見えるようになる。 それが、開発中のチップを搭載したカメラを使って、1ルクスの明るさの中で撮影すると、かなり鮮明化ができて、ピントもあっていることがわかる。 このチップが完成すれば、画像をより鮮明にすることができると坂井さんは期待を語る。 「監視カメラや情報カメラにこのチップが組み込まれると、圧縮して保存したファイルを鮮明化するよりも、さらに高度な鮮明化処理が可能になります。カメラやドライブレコーダー、ドローンなどにチップが搭載されることで、これまで以上に用途が広がるのではないでしょうか」 「ロジック・アンド・デザイン」の技術は、元々は放送局に向けて開発されたものではなかった。それが、新たな技術を加えていくことで、放送を変えていく存在になるかもしれない。ますます進化しつつある技術を、テレビ局も熱い視線で見ている。 (「調査情報デジタル」編集部) 【インタビュー協力】 坂井 康文(さかい・やすふみ) 株式会社ロジック・アンド・デザイン プロジェクト・マネジメント本部ビジネスデザイン部長 1968年 福岡県福岡市生まれ。 1991年 サントリー株式会社に入社。広報部Eコミュニケーショングループ課長や デジタルコミュニケーション開発部長を経て、2019年にサントリーマーケティング&コマース株式会社専務取締役に就任。 2024年9月にサントリーを退職、同年10月株式会社ロジック・アンド・デザインへ入社して現職。 【調査情報デジタル】 1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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