田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」

 5月25日の選挙で当選し、29日に静岡・伊東市長に当選したばかりの田久保眞紀氏に6月末から浮上した学歴詐称疑惑をめぐり、ネットもリアルもざわざわと騒がしい。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、新市長の学歴詐称疑惑で揺れる伊東市で、市民の本音を聞いた。 【写真】田久保市長が営むカフェや田久保市長が推しているキャラの誕生日を祝う投稿  * * *  卒業証明書を発行してもらうだけでよかった。  端緒はただ、それだけの話であった。極めてシンプルな話であった。  それなのに、静岡県伊東市の田久保眞紀市長はいたるところで〈東洋大学法学部卒業〉としていた。疑惑発覚後も卒業だと抗弁した。  市の広報誌「広報いとう」2ページ目にも〈新市長 田久保眞紀 就任!〉〈東洋大学法学部卒業〉と書いてある。いまとなっては「自分の知らないところで勝手に書かれた」とでも言うのか。 「あれは嘘、そういうこと」 「嘘つきでしょう。嘘ですよ、誰だってわかりますよ」  温泉街や伊豆シャボテン動物公園など観光地として知られる静岡県伊東市。伊東駅すぐの商店街、湯の花通りの60代男性はあきれたようにこう語る。 「私だって大昔だけど大学出てるからわかる。それでも卒業証明書なんて古くたって時間はかかるがとれる。だからあれは嘘、そういうことですよ」  彼は数年前、とくに用はなかったが思い立って「母校の記念に」と卒業証明書をとったことがあるそうだが、とくに難しいこともなく郵送でとれたという。大学にもよるが多くの大学は卒業20年以内などの基準はあるが学位授与・卒業証明書、成績・単位修得証明書を郵送やWebで申請することができる。20年以上など古くの卒業生は卒業証明書のみ取得可能であったり、古い記録簿を参照するため時間が掛かったりするが原則、とることができる。  一般的な昼間の通学部だろうと夜間学部(第二部あるいはイブニングコースとも)だろうと、通信制大学だろうと関係なくとれる。国の学校設置基準を満たし文部科学省の認可を受けた大学ならどこを出ようが学位は学位、日本国の学校教育法における学位規則に基づいたカリキュラムと卒業(修了)審査を経て学位が授与されたものは残る。  中退だって他大編入や再入学のために必要となるので成績証明書などとることは可能だし、除籍であっても除籍の記録はあるので知ることはできる。  これ、あたりまえの話をしているだけなのだが、このあたりまえが通用しないどころか田久保市長、7月2日の市民集会でこのように説明した。 〈(東洋)大学側からしめされたのは「除籍」でした。自分自身もまあ、そこについては非常に驚いている〉 〈(大学時代はバイクで走り回ったり)自由奔放な生活をしておりまして、正直いつまでと、きちんとお答えできるような通学の状態ではなかった〉 〈(東洋大学を)一度卒業という扱いになって今どうして除籍になっているのか〉 などと自ら疑問を呈した上で、 〈私が自ら公開している経歴に関しましては「問題はございません」ということで一貫して説明してまいりました。その点につきましては現時点におきましても変わりはございません〉 〈私が経歴を詐称しているというようなことは一切ございません〉 とした。自分の除籍がわからなかった、卒業だと思っていた、などということがあるのか、では後述する証拠として「ちら見せ」した卒業証書のようなものとは何だったのかという話になる。  そもそも田久保市長、6月に複数の伊東市市議らに届いた〈彼女は中退どころか、私は除籍であったと記憶している〉という文書に対して同月25日、 〈代理人弁護士のほうにお任せしてございます〉 〈名誉毀損も含めましての法的な手続きに入っております〉 〈怪文書(告発文のこと)の、えー、そちらのほうの出どころ、えっとそれからですね、特定のほうを最優先にさしていただきたい〉 と抗弁したはずだった。  市議会議員や記者の〈卒業証書と卒業証明書を提示していただいて、説明する場をお願いしたい〉との問いに対してひたすら「弁護士にお任せ」「名誉毀損」「怪文書の特定を最優先」を繰り返す田久保市長だったが、彼女以外のほぼすべての日本国民(でっかい主語だがそれくらい当たり前の話)はこう思っているはずだ。 「卒業証明書を発行してもらい、公に見せるだけで済む話」と。 みんなそんなのわかる話  本当にシンプルな話、これだけで形勢逆転のはずが田久保市長、それをせずに関係のない話を次々繰り出してきた。  で、本人が東洋大学に確認したら除籍であったという。  しかし除籍の認識はなく、ずっと卒業だと思っていたという。  だから〈私が経歴を詐称しているというようなことは一切ございません〉という。これで通ると本気で思っているようだ。  同じ湯の花通りで別の70代の男性に話を聞く。 「ふざけんな、だよ。嘘っぱちだよ、嘘ついてヘラヘラしやがってあやまりもしねえ〉  かなりご立腹のご様子で「伊東がこんなことで有名になって恥ずかしい」とも。 「高卒だってなんだっていいんだよ、嘘つかなきゃいいんだよ。卒業したと思ってたなんて、んなわけあるか」  筆者は頷くしか無い。至極当然の話で、実際に先の市民集会でも、 〈市民をバカにするのもいい加減にしろ〉 〈(信頼は)すでに無くなっている〉 〈(市議会の)議長に見せた卒業証明書は嘘なのか〉 と散々であった。それもそのはずで田久保市長、卒業証書を市議会の議長らに見せたそうだが一瞬だけ見せて引っ込めたもので、まして結局のところ大学側は「除籍」にしていた。じゃあその卒業証書は何だったのか。除籍とわかったはずなのに。  除籍された学生が持つ卒業証書、それこそ東洋大学(当時は哲学館大学)除籍の大先輩で「私小説の神様」と呼ばれた破滅の無頼派、葛西善蔵もあの世でびっくりしてそうな話だが、その葛西善蔵は大学に行かなくなって学費未納のあげくの除籍であった。  大学は違うが映画監督の庵野秀明(大阪芸術大学)もサザンオールスターズの桑田佳祐(青山学院大学)もタモリ(早稲田大学二文)も除籍である。大学に行きたくなければ、行く必要がなくなれば行かないのは自由で自己責任、それでも大成した彼らのような才人もいる。田久保市長の言うように大学に行かずバイクで放浪しようが生き方は人それぞれ、ただひとつ、嘘をつかなければいいだけの話だ。  ちなみにNEWSポストセブンの東洋大学卒業記者によれば「ものの30分で受け取れた」とのことで、これは130年以上の歴史を持つ日本を代表する規模の総合大学だからというだけでなくどこも時間の長短あれど卒業証明書は簡単にとれる。中退でも成績証明書はとれるし、学籍簿そのものが抹消される除籍であっても除籍の記録は残っているので照会できる。  これについて湯の花通りの先、キネマ通りで60代の女性に話を聞く。これまたうんざりした様子。途中でテレビクルーを見かけたが、彼らもこの田久保市長の件で取材しているのだろう。 「ほんと恥ずかしいです。嘘ついたんだからまずごめんなさいでしょう。それなのにニヤニヤよくわかんないことばかり言って。間違いなら間違いってなんであやまれないのかしら」  結果として嘘つきになったということか。 「だって卒業してないんでしょう、卒業したなら卒業した証明なんてすぐ出せるじゃないの、私の高校なんか(学校自体が)無くなっちゃったけど別の高校が出してくれたわよ。普通みんなそんなのわかる話じゃない、わかんないのはあの人(田久保市長)だけでしょうよ。わかんないふりかもしれないけどね」  これまたあたりまえの話で「みんなそんなのわかる話」もまたもっともだ。卒業したなら卒業証明書を出せばいい、ただそれだけ、そしてそれは簡単に手に入る。卒業証書をちら見せする必要もない。そもそもが除籍であったのに。 「卒業証書ね、あれ本物なの? だって卒業してなかったんでしょう? だったらなんで卒業証書があるの?」  いろいろ聞かれてしまったが困る。憶測であれこれ言うわけにはいかないがそれこそ「みんなそんなのわかる話」を口に出してしまいそうだ。万が一にも東洋大学が除籍にしたのに卒業証書を授与していたとするならそれこそ大変な事件になってしまう。  伊東市議会の議長はその卒業証書を「ちら見」させられたとして〈結局嘘のものだった、偽造しているものだった、ということになりますよね〉と語る。ただの嘘つきだけでなく最悪の事態になりかねない。市長としての道義的な責任はもちろん公職選挙法違反に問われかねない。 「もうみんなわかってる話なのよ、あんな目をぱちくりさせたり首すくめて笑ってみたり、ただ卒業してませんでした嘘でした申し訳ありませんってなんで言えないのかね。卒業してないのは事実なんだから。でもじゃあなんであの卒業証書ってあったのかしらね」  その卒業証書、田久保市長によれば〈残念ながら、えー、卒業を証明するものとしては、えー、機能しなくなってしまった〉とのことで、じゃあそれこそ卒業を証明するものとは何だったのか、そもそも何が残念なのかわからないがその「卒業を証明するもの」自体が怪文書になってしまっているような気がする。繰り返すが〈東洋大学法学部卒業〉としなければよかっただけの話である。 出直せば再当選の可能性  キネマ通りで自転車を押していた別の60代男性に話を聞く。だいたいこれまでの方々と同じで「嘘」についてだったが意外な話をしてくれた。 「結構人気のある人だから辞任して出直せば再当選の可能性もあるよ。最初から嘘でした、ごめんなさいすればよかったのにね。結局そう(除籍)だったんだからね。もうこれ以上地元(伊東市)が笑いものにされるのは勘弁だよ」  田久保市長は伊豆高原のメガソーラー建設計画や40億円の新図書館建設を進めた当時の小野達也市長に異を唱える形で市長に当選した。自公推薦の現職市長と一騎打ちで1782票差の接戦だった。1970年生まれで趣味は大学を除籍になるほどに走り回ったバイクとアニメ、女性向けメディアミックス作品「うたプリ」こと『うたの☆プリンスさまっ』にハマってグッズを買い集めていることをインタビューでも明かしている。3年前の2022年にも「うたプリ」の舞台、軽井沢に聖地巡礼したいとXにポストしている。 「なんで卒業ってことにしてたのかね、あれさえなければよかったのに」  市議会議員時代も含め活動そのものは地元で評価されている田久保市長、学歴詐称に関する市議会の百条委員会設置の動きについて4日、〈いま百条委員会を開くことは、えー、伊東のためになるのか〉と述べているが、それこそこれまでの「東洋大学卒業したと思い込んで除籍」についての説明と、ちら見せ卒業証書が何だったのか実物を見せることが「伊東のためになる」と思うのだが。  伊東駅周辺はインバウンド客も多く、筆者が随分前に来たときの閑散としたかつての高度成長期の温泉街といった雰囲気からは様変わりしていた。やはり伊東市自慢の温泉と伊豆高原周辺は外国人にも好評のようで、伊東市そのものも18年連続の黒字(単年度収支)と赤字や財政不足に悩む地方自治体の中では優等生と言っていい。伊東温泉競輪も黒字、市の職員の努力と市民の地元愛あってこその成果だろう。  それなのに、除籍を東洋大学法学部卒業という〈勘違い〉(田久保市長談)によって伊東市そのものが笑いものになってしまった。今回の件で完全にもらい事故の東洋大学までSNSの一部から笑いものにされてかわいそう過ぎる。市にも地元民の抗議の電話が殺到しているということで、それこそ田久保市長自身が〈伊東のためになるのか〉と問われかねないと思うのだが。  あげく、ついには会見で泣いてしまった田久保市長、ついこの前まで「怪文書」に憤懣やる方ない様子だったはずなのに、泣きたいのは伊東市民および東洋大学関係者のほうである。市議会は4日に辞職勧告決議案が提出、「無責任」「卑劣な人物」と強い言葉で田久保市長を非難しているが、さすがにこの経緯と顛末では致し方なしといったところか。  新間正次経歴詐称事件やペパーダイン古賀、コロンビアサッチーと定期的に世を賑わす政治と選挙にまつわる学歴詐称問題。こうした過去の事例と同様、長期化しそうに思う。それにしても伊東市民および東洋大学関係者、本当にかわいそう過ぎる。 日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や社会倫理、近現代史のルポルタージュを手掛ける。日本ペンクラブ広報委員会委員。 ※一部敬称略

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