【熱海土石流から4年】癒えることない被災者や遺族の心の傷 この災害の責任は誰に?(静岡)

熱海の土石流災害から3日で4年となりましたが、被災者や遺族の心の傷は癒えることはありません。この災害の責任は誰にあるのか?盛り土があった土地の前の所有者が私たちの取材に応じました。 (田中公一さん) 「7月3日で4年だぞ、もう何も変わんねえなあ」 土石流で妻を亡くした田中公一さん75歳。今でも忘れられないあの日。伊豆山を襲った土石流により災害関連死を含め28人が亡くなりました。私たちが田中さんと出会ったのは、土石流の翌日。35年連れ添った妻・路子さんを探してました。 孫たちと会うことをいつも楽しみにしていた路子さん。土石流は一瞬にして幸せな日常を奪いました。当時、自宅にいた路子さんは発生から6日目。流された自宅の近くから遺体となって見つかりました。 (田中公一さん) 「火葬場に行ったときに3歳の孫が折り紙で飛行機作ってひつぎの中に入れたんですよ。途中で見たときに煙が出ていたら、孫が作った紙飛行機に乗って、ばあばはお空に行っちゃったって・・それを横でポツンと言うんです。それを聞くと孫たちにすまねぇことしたな、と思って。それが一番悔やみますよね」 路子さんと過ごしてきた場所でもう一度生活を送りたい。しかし、熱海市の復興計画の遅れから自宅があった場所に家を建てることはあきらめ、伊豆山の別の場所に家を建て一人暮らしをしています。 (田中公一さん) 「思い出すって言うかね。あんまり俺、夢も見ないんだよね。俺がやってること自体を満足してくれているのかな。ああしろこうしろっていうお告げがこないから」 路子さんが大好きだった孫もこの4年で大きくなりました。その成長を一緒に見届けたいとの思いから仏壇のとなりに成長を記録し続けています。 (田中公一さん) 「もうこれだけでかくなっちゃった。見守ってやってなってことしか言葉かけれねえよ。完全にぽっかりとあいているよね。あんまりだから出かけたくない。一人で行ったってつまらないじゃん。」 伊豆山では、復興計画に基づき、河川や道路の工事が行われています。田中さんは河川の拡張と道路整備に伴い土地の一部を熱海市などに売却。2025年秋にもこの場所で工事が始まる予定だといいます。 (田中公一さん) 「わあ残ってくれた。もともとここに植えてあったこのバラは。」 そこに咲いていた一本のバラ。花が好きだった路子さんが大切に育てていたものです。 工事が始まれば路子さんとの思い出の場所は完全に姿を変えてしまいます。その複雑な胸の内を天国の路子さんに打ち明けます。 (田中公一さん) 「7月3日で4年だぞ、もう何も変わんねえなあ。もう少し早く復興すると思ったけど全然進まねえよ。おれもいつまで頑張れるか」 路子さんとの“日常”を奪われた4年。心にはぽっかりと穴があいたまま。青々と茂った草花が月日の流れと悲しい記憶を思い起こさせます。 (田中公一さん) 「もうちょっとね早く復興、復旧してもらえるかなと思ってたけど、やっぱり月日の4年というのは遺族にしてみると早いよね。なんかね、整わないんだけど、月日だけが過ぎ去っていって、だんだん虚しさだけが残るような感じ」 あの日から4年。行き場のない思いが心に渦巻いています。 28人が亡くなった熱海土石流災害。その原因といわれるのが“盛り土”。なぜ危険な盛り土が行われたのか、なぜ行政は手を打たなかったのか。盛り土の責任をめぐる民事裁判が続いています。 訴えているのは遺族と被災者。盛り土があった場所の現在と前の所有者などには違法な盛り土を造成や放置した責任。県や熱海市には造成などの行為を見過ごしたとしてそれぞれに損害賠償を求める訴えを起こしています。 (前土地所有者 天野ニ三男氏) 「埋めてる途中って俺ほとんど見てないの。そこなんか興味ないもん。金にもなってないし」 こう話すのは、前の土地所有者の天野二三男氏。一貫して盛り土の造成への関与を否定しています。天野氏が代表を務めていた神奈川県小田原市の「新幹線ビルディング」は2006年、伊豆山の土地を取得。その翌年、熱海市に盛り土の計画書を提出し、受理されました。 その3年後に撮影された写真では、すでに階段状に土砂が盛られていたことがわかります。しかし、あくまで「盛り土をしたのは土地を貸した他の業者だ」と主張しています。 (前土地所有者 天野ニ三男氏) 「だって俺が泥入れてるの?俺入れたの2006年の6000立米だけ。これは風致地区条例で入れてんだよ。合法、それでも違反があったから直せ、直せ。全部直しました。」 その後2011年に土地を売却。3億円で購入したのが現所有者の男性です。“盛り土崩落の責任”について現所有者の代理人は (現所有者の代理人 河合弘之 弁護士) 「最大、もしくは唯一の原因は違法な盛り土をしたことにある と。悪いのはあれを積んだ天野氏ですよと」 「最大の責任は前所有者にある」と主張。責任を押し付けあっています。 そして行政責任を追及されている県と熱海市。原告側は県に対しては、土砂の搬入を法によって規制するなど対応を怠ったことは違法と指摘。一方、県は「行政対応の失敗」と認めながらも「法的瑕疵はない」と主張しています。 熱海市に対しては、条例によって土砂の搬入をとめたり措置命令で土砂の撤去などを命じなかったことは違法と指摘。さらに発災当日、避難指示を出さなかったことで被害を拡大させた責任を追及しています。 一方、熱海市は「事業者は市の再三にわたる行政指導に応じず、県条例の罰則が抑止力として不十分だったのが原因」と主張しています。 2022年に初弁論が開かれたもののいまだ“答え”が出ず長期化する審理。こうした中、2025年5月、2024年7月以来となる公開の法廷で審理が行われました。 (原告側 加藤博太郎 弁護士) 「発災からだいぶ経ってきたが、いよいよこの裁判も終盤に差し掛かってきているところなのではというところ」 裁判所によると秋には裁判官が現地を視察して2026年2月以降、証人尋問を実施。「盛り土の土砂流出の責任を誰が負うのか」早期に決着をつけ、2026年4月ごろまでには判決を出したい意向です。 今後、証人尋問に呼ばれる可能性がある天野氏は。 (前土地所有者 天野ニ三男氏) 「全部私はフル参加だよ。俺の指示で(土砂を)持ってこいとか入れてくれよとか言っているわけではない。堂々とやればいいじゃん。間違ってたら俺(罰を)受けるもん。自分で。」 大きな局面を迎える裁判。今後のポイントについて若狭弁護士は・・・ (若狭 勝 弁護士) 「やはり1日も早く責任論を確定しないと被害者、被災者救済につながらない、という要請もあった。そういう被災者側からの要請の中で、しかしながらしっかりとした土台となるところのものがきちんとした形で認定されていくのか、ここは非常に今後の裁判においての着眼点だと思う」 ようやく見えてきた裁判の終わり。盛り土をめぐる司法の判断がまたれます。

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