名古屋市の熱田署が3月10日、小学校教員である水藤翔太容疑者を器物損壊の疑いで逮捕したことが全ての始まりだった。水藤容疑者は1月28日の午後6時すぎ、市内の駅ホームで15歳の少女が背負っていたリュックサックに体液をかけた疑いが持たれている。防犯カメラの映像を愛知県警が丁寧に解析して水藤容疑者を割り出したという。 *** 【写真を見る】「こんな豪邸に?」 首謀者・森山容疑者が暮らす3階建ての一軒家 愛知県警は水藤容疑者のスマートフォンを押収。調べると女子児童のスカートの中や、着替え中の様子を盗み撮りした映像などが保存されていた。さらに、こうした映像などを共有するグループチャットの存在が浮かび上がった。 二度と教壇に立たせるわけには(写真はイメージです) このグループチャットの捜査を進めた愛知県警は6月24日、性的姿態撮影処罰法違反の疑いで森山勇二と小瀬村史也の両容疑者を逮捕したと発表した。共に小学校の教員で、森山容疑者は名古屋市内、小瀬村容疑者は横浜市内の小学校に勤務していた。 水藤容疑者が器物損壊罪で起訴された後、名古屋地検が水藤被告を不同意わいせつや器物損壊などの罪で追起訴していたことも判明した。5月28日付の起訴状によると、2023年から24年にかけて水藤被告が自身の体液を児童のリコーダーに付着させたり、給食の食器内に混入させたりしていたという。担当記者が解説する。 「このグループチャットは10人程度のメンバーで構成されており、その大半が教員だと見られています。ところが恐ろしいことに、他のメンバーは逮捕されていません。卑劣極まりない盗み撮りの映像に『いいですね』、『うらやましい』などと信じられない感想を送り合っていた教員たちが今も子供たちの前で授業を行い、女子児童と日常的に接触している可能性があるのです」 かつては簡単だった再就職 阿部俊子・文部科学大臣は7月1日、閣議後の記者会見で「子供たちの前からすぐに離れて、一刻も早く名乗り出てほしい」と呼びかけた。しかし残念ながら効果があるとは考えられない。 同じ7月1日に文科省は「児童や生徒に対して性暴力をふるった教員は原則、懲戒処分とする」ことを周知徹底させる通達を全国の教育委員会に出した。 今回の事件で名古屋市の教育委員会は6月30日、水藤被告を懲戒免職と決定。これで水藤被告は教員免許を失効した。公判前に懲戒免職に踏み切ったのは異例だという。 「実は数年前まで、性加害行為で処分を受けた教員の職場復帰は簡単でした。例えば処分が決定しても官報で発表されるまでは数か月のタイムラグがあったため、他の自治体で再就職し、再び性加害に及ぶ教員がいたのです。さらに懲戒処分で教員免許が失効しても、かつては3年経つと再発行が可能でした。これを問題だとして、性加害者である教員が教壇に立つことを防ぐ『わいせつ教員対策新法』が2021年5月に国会で可決され、2022年4月から施行されました」(同・記者) さらに来年の12月から“日本版DBS”がスタートすることにも注目が集まっている。DBSとは「Disclosure and Barring Service」の略語で、日本語では「前歴開示及び前歴者就業制限機構」と訳されている。 “日本版DBS”に集まる期待 「DBSはイギリスの内務省が所管している公的機関の名称で、主な業務は2つあります。1つは雇用者に対して求職者の犯罪歴を開示することです。有罪という事実だけでなく、裁判の経緯や警察の持つ人物情報も含まれており、この開示資料を活用しながら雇用者は求職者を採用するかどうかを決めます。2つ目は子供と、高齢者、病人、障がい者などの『脆弱な大人』に接する仕事に就くことを制限された人間、約8万人を超えるリストの作成と管理です。過去に犯した性犯罪の内容から教育、医療、介護、さらに警備などの就業を禁止しています」(同・記者) 日本の場合は、こども性暴力防止法が昨年6月に可決し、2026年12月の施行を目指している。もし施行された場合、幼稚園と保育所、小中高校、児童養護施設、障がい者施設などでは“日本版DBS”の制度に従い、性犯罪歴の確認が義務づけられる。 さらに学童保育や学習塾、スポーツクラブなどでは申請して認定を受けると性犯罪歴の照会が可能になる。認定事業者は公表されるため、保護者や子供からの信頼度が上がることになる。 こども性暴力防止法は、教員による性加害の抑止力として機能するのか、こども家庭庁に取材を依頼した。 法律は抑止力になり得るのか? 「来年12月からこども性暴力防止法が施行されると、性加害によって懲役や禁錮といった拘禁刑が執行された場合は執行から20年、執行猶予や罰金刑の場合は10年の間、性犯罪歴の確認が可能になります。現在、教育機関などでは過去の犯罪歴を隠して勤務している職員もいると推定されます。防止法が執行されれば各機関が性犯罪歴を確認することになりますから、過去に性加害に及んだ職員の“洗い出し”が実現するわけです」(こども家庭庁の担当者) こども性暴力防止法が施行されれば、“前科”を持つ人間が再犯に及ぶことを防ぐ抑止力にはなるかもしれない。だが今、性加害に及び、なおかつ前科のない教員に対する抑止力にはなるのだろうか? 「こども性暴力防止法は“日本版DBS”という側面に強い関心が集まっていますが、実は子供に対する性犯罪の撲滅を目指した法律であることはご理解をお願いしたいです。相談体制の強化や被害の早期発見を実現することも法律には明記されており、特に各機関には職員に対する研修の実施を求めています。研修によって職員の性犯罪に対する意識が高まれば、相互監視の目が強化されます。性加害者を発見することが早くなり、被害の減少につながると考えています」(同・担当者) 子供を守るための法律 逮捕された森山容疑者が勤務していた小学校の校長は「着替えを終えて廊下に出ると、森山容疑者がいたことが何度かあった、と児童から聞いた保護者が複数いる」と説明している。 もし研修が実施されれば、こうした目撃情報から性被害を早い段階で把握することが可能になるかもしれない。 保護者にとっては信じられないだろうが、こども性暴力防止法は憲法違反だと指摘する法曹家は決して少なくない。性加害に及んだ過去を持っていても、職業選択の自由は保障されるべきというのだ。 「確かにこども性暴力防止法は憲法に違反しているのではないかという議論は当初からありました。しかし被害を受けた子供たちは取り返しのつかない深刻な傷を、体だけでなく心にも負ってしまうとの事実は極めて重要です。こうした深刻な被害を考えると、性犯罪歴を持つ者の職業選択の自由を、ある程度制限することは妥当なのではないでしょうか。こども性暴力防止法は何よりも子供の権利を守る、子供の人権を守るための法律なのです」(同・担当者) 埼玉県や熊本県でも教員が盗み撮りを行っていたことが発覚している。こども性暴力防止法の効果を期待する保護者は多いに違いない。 デイリー新潮編集部