「参政党」が東京都議会選で大躍進! それでも新興勢力の「追い風」がすぐに止まってしまう理由

 6月22日に行われた東京都議会議員選挙で、「勝ち組」とされるのは議席数を伸ばした立憲民主党、初めての議席を獲得した国民民主党と参政党だ。  とくに知名度の点ではまだまだの参政党の善戦は世間に大きなインパクトを与えた。その勢いのまま、参議院選挙でも躍進するのではないかという観測も見られるようになった。 【写真を見る】「『暴れん坊将軍みたい』と言われてしまいました」と参政党代表・神谷氏本人もコメントした姿の写真  一方で、こうした新興勢力の人気というものの捉え方は難しい。この20年の間に、どれほどの政党が一瞬だけの“人気者”となり、気付けば存在感を失っているという状況になったことだろうか。  民主党、日本維新の会、れいわ新選組、都民ファーストの会……その時々の風に乗った党が勢いを得るものの、多くの場合、追い風は長続きしない。熱心な支持者を持つれいわ新選組が今回、議席を獲得できなかったのは象徴的な出来事である。 参政党の代表・神谷宗幣(かみやそうへい)氏  ノンフィクションライターの石戸諭氏は、2019年、山本太郎氏率いる「れいわ新選組」を取材し、レポートを発表した。巧みなネット活用や山本氏のカリスマ性は大いに注目を集めた。その勢いはかなりのもので「山本太郎現象」なる言葉も生まれ、総理待望論を口にする人もいるほどだった。  その後、山本氏自身やれいわ新選組の選挙活動を継続的に取材してきた石戸氏は、著書『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』の中で、れいわ新選組と、今回話題となった参政党についての分析を試みている。 「れいわ新選組」を率いる山本太郎氏  ここで注目しているのは、その賞味期限の短さだ。  なぜ追い風はすぐに止まってしまうのか。  なぜ彼らは大きなうねりを作ることができないのか。石戸氏はポピュリズムという切り口で論じている。以下、同書をもとに見てみよう(『「嫌われ者」の正体』から抜粋・引用しました)  ***  2019年、山本太郎現象の渦中にいた私は「日本政治は、しばらくの間ポピュリズムの風が吹く中での駆け引きが続くことになりそうだ。もっとも、風が嵐に変わる可能性は決して低くはないのだが……」と「ニューズウィーク日本版」に記していた。端的に自分の見立てがまったく甘かったと思う。ポピュリズムの風は確かに吹いた。 玉川徹、西野亮廣、ガーシー、吉村洋文、山本太郎——時に大衆を熱狂させ、時に炎上の的になるメディアの寵児たち。毀誉褒貶付きまとう彼らは何者か。その存在はそのまま単純かつ幼稚な「正論」がもてはやされる日本社会の問題点、メディアの不健全さを映し出す。新聞、ネットメディアの記者を経て、ノンフィクションライターとなった著者が本人、周辺への取材を重ねて綴った、超ど真ん中、正統派人物ルポの誕生! 『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』  だが、それは嵐になるどころか微風になってしまった。左派ポピュリストとしての山本太郎の勢いは落ちていき、政党としての「れいわ」は曲がりなりにも政党として生きてはいるが、かつてのような熱狂的な期待の物語を背負っている存在ではない。あいかわらず山本太郎は総理を目指すという目標はおろしていないし、おろすべきとも思わないが、熱心な支持層を除いて、野党再編の中心的人物であるという見解ですら頷くものはいないだろう。  かつて吹いた風は嵐どころか微風になった。それではポピュリストが「誤った答え」を導き出すというシンプルな解に戻ったほうが良さそうだ。山本でいえば、彼が問題解決に導く方法として提示した「一発逆転のエンターテインメントとしての選挙」という解に間違いがあった。 参政党とは何か  れいわ以後もポピュリズム的な路線を取る小政党はいた。  例えば、参政党がそうだ。  彼らは反新型コロナワクチン、「日本の伝統を大切にする『子供の教育』」「無農薬栽培や化学物質に頼らない医療などを推進する『食と健康』」「外資規制の法制化、外国人労働者の増加抑制、外国人参政権の不認定などの『国まもり』」を標榜した。反ワクチン、親エコロジー、右派的思想のミックスという一見するとよくわからない政策をまとめた党の中心であり、参院議員に上り詰めた男の名は神谷宗幣(かみやそうへい)という。  神谷の名前は大阪府吹田市議時代から知っていた。ちょうど私が、毎日新聞大阪社会部に籍を置いた時期に、新進気鋭の改革派として名前が挙がっていたことを覚えていた。2012年の衆院選では、落選こそしたが大阪13区で自民党からの出馬までこぎつける。そのくらいの注目株ではあったのだ。  久しぶりに名前を見て、懐かしさと同時に、驚きもした。まさかあの神谷元市議なのか、と。当時の印象ベースではあるが、とにかく名前を売り込むことに必死だった「神谷宗幣」とはおよそかけ離れている主張がそこにあったからだ。  参政党はYouTubeを中心に広まった。それも参政党としての公式動画が拡散しただけでなく、勝手に動画をとって、勝手に配信する支援者が勝手に増えていくという2020年代らしい支持の広がり方で存在感を勝ち得た。発足からわずかなあいだで万単位で党員・サポーターを拡大させたことで注目を集めた。神谷は力を込めて訴えていた。 「実際に貧しくなっているでしょ、子供が減っているでしょ。自民党や公明党はその責任をとっているんですか? どんどん国民を疲弊させている。このままでは国民が三流国の極貧民族になる」「既成政党は真実を伝えないマスコミと談合している」 「新型コロナでマスクもワクチンもいらない」という主張を繰り出していたが『子供たちに伝えたい「本当の日本」』なる彼の著作(青林堂、2019年)には「僕はこれまでの学びの中で、人間は自然の一部で、より自然にシンクロした方が、地球や宇宙にあるより多くの知恵を生かすことができるということを学んだ。直感なんてまさにそれだし、スピリチュアルなメッセージなんかも全てはそこに繋がってくるだろう。そして、知恵が降りてくるのは腹の部分で、腸とか丹田のあたり。だから、食事やデトックスで腸をクリアにして、武道などで丹田を鍛えておくといいということになる。できるだけ自然に近い場所で、のびのびと子供を育てる方がいいといったのは、こうしたことを前提に考えているということも、ここで改めて理解してもらえたら嬉しい」といった言葉が並ぶ。 反科学の主張  参政党を批判する人々は神谷の言葉を、オーガニックが好きな人々を狙いに取りにいくための方便だと語っていたが、私にはそうは思えなかった。彼自身も無農薬の野菜が好きで、ワクチンに対しても強い疑義を本心から持っている。あれだけ力を込めて語るには、自分の中に確信がなければいけない。実際に神谷は私との対談の場でこう語っている。 「オーガニックなものがいいと僕も思っています。そのために移住までしたんですから。新型コロナのワクチンは僕も一回も打っていないし、家族も打っていない。食とワクチンで共通するのはケミカルなものであること。そういうものを盲信するのは良くないと思っている」  しっかりと話すのは初めてではあったが、印象は決して悪くはなかった。彼の根底にあるシンプルな価値観に触れることができたからだ。主張を貫いているのは“反化学物質”である。多くのポピュリストが「反〜〜」を標榜して登場してきたように、彼は広い意味で反科学を標榜してあらわれた。  正しい問いを見出すとするのならば、新型コロナ禍で一気に広まったワクチン接種の動きは正しかったのか、という点はありうるだろう。実際に疑義は広まったからだ。ただし、彼が打ち出す答えが正しいとも言えない。  食とワクチンを安易に結びつけて語るのは明らかに短絡的だし、参政党が掲げる主張のいくつかはおよそ科学的に立証されているとも言えないからだ。とはいえ、彼らの主張を支持する層が一定数いることは容易に想像できる。いうなれば参政党が投げかけている問いは、科学技術をそこまで信じていいのだろうかという一点にある。進歩が著しい農薬をつかった野菜よりも無農薬の野菜のほうが安心であるとは一概に言えないし、有機農法のほうが環境に負荷がかからないとも言えないが、そちらのほうが好きだという“感情”は理解できないこともないからだ。  本当の問いは現実を受け止めた先にある。一時は「参政党現象」とも称されたが、その後に一体何が起きたかといえば、内紛と組織としての機能不全の露呈により政党として支持拡大ができていないという現実だ。 一発屋になっていないか  れいわも同様である。彼らは全国でおおよそ100万票を獲得すれば比例で1議席が取れる参院選、衆院選の比例ブロック、あるいは同じ選挙区から多数が当選する地方選という制度が生み出した政党にすぎない。彼らが議席を獲得したからといって、何かが変わったのか。個別に見れば小さな変化はあるかもしれない。あるいは「こんな言動の国会議員がいるのか」という呆れや政治への諦念が生まれることがあったかもしれない。  だが、大勢にはなんら影響がなかった。参政党が数議席を取ろうが新型コロナ対応の方針は変わらず、れいわが議席を増やそうが減らそうが一貫して彼らは野党の中心には立てずに消費税減税の足並みを揃えることすらかなわない。やや突き放した見立てになってしまうが、彼らの存在は左派ポピュリズムが好きな国民、反化学物質や新型コロナワクチンに疑義を抱いている国民が一定数いることの表れでしかない。 「反マスメディア」「反LGBTQ」「反左翼」「反右翼」……何を標榜しても辿る道は同じになるように思える。すなわち一部の熱狂やSNSを見て「ここに本当の世論がある」と叫び、自分たちの主張を取り上げないニュースを嘆く。自分たちの主張の拙さを棚にあげる。彼らはメディアをにぎわす「一発屋」のようなものだが、一発がないままに去っていく政治家よりははるかに際立った個性がある。しかし、一発ではやがて支援者のあいだにも違和感がやってくる。最初期の一発は大切なことまでは認めるが、政治家の本当の力量は一発で惹きつけた先に試されるものだ。  メディアは一発の大きい花火に注目するが、華々しく散った後には何も注目しない。  ポピュリズム一本でほとんど革命に近いダイナミックな変化を叫ぶよりも議会の中で継続的に活動し、小さな花火を打ち上げながら政党として成長を目指したほうが変革に近づくのだが、それはムーブメントとは縁が遠くなり、やがて普通に議会にいる一派になることを意味する。  コアな支持者を手放すリスクを負いながら、綱渡りのような組織運営ができるのか……。多くのポピュリストたちは地道さを嫌い、常に大きな花火を打ち上げようとするが中途半端なものでは支持者を刺激することすらできない。組織を強くしていくという方向を取ることもできるが、それはポピュリストから「政治家」への変化となり、普通の存在になる。結果、魅力が薄れて社会から忘れられていく。幾度となくみたその時々の「新党」や「新しい政治家」の成れの果てだ。  ポピュリズムの風は選挙によって定期的に吹くが、じきに新しい存在があらわれる。彼らは「時の人」になるが、やがて古くなる。私たちにできることといえば、風に右往左往しないということに尽きるだろう。彼らの勢いはすぐ収まってしまうか、やがて変化しなければいけないのだから。 石戸 諭(いしどさとる) 1984(昭和59)年、東京都生まれ。立命館大学法学部卒業後、毎日新聞、BuzzFeed Japanの記者を経て、2024年11月現在はノンフィクションライター。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』『ルポ 百田尚樹現象』『ニュースの未来』『東京ルポルタージュ』などがある。 デイリー新潮編集部

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