阿部監督がこだわり捨てた異例采配 甲斐拓也と田中将大めぐり

 阿部巨人の歯車がいまひとつ噛み合わない。球団史上空前の70億円超えという大型補強を果たし、優勝候補筆頭との呼び声も高かった今シーズンだが、ここまで首位と5.5ゲーム差、貯金ゼロの3位。反転攻勢を狙った交流戦で6勝11敗1分けに終わり、球団史上ワーストタイの11位に沈んだのが痛手であった。その交流戦で、先発マスクをかぶった全試合で敗戦という屈辱を味わったのが、今季FA移籍してきた甲斐拓也捕手(32)である。同じく今季200勝を目指して移籍してきた田中将大投手(36)も二軍調整を続けて2カ月。共に阿部慎之助監督自らが獲得に乗り出した選手でもあるだけに、指揮官はイライラが収まらないという……。  *** 【写真】田中将大が200勝を捧げたい“年上妻”  41歳とは思えない美貌がまぶしい 苦悩している  交流戦では6勝でまさかの11位。これは2017年以来となる球団ワースト記録だ。失速の原因のひとつと指摘されるのが甲斐のリードである。交流戦で、7試合で先発マスクをかぶったが全敗。 甲斐捕手、阿部監督、田中投手 「計38失点と散々な結果でした。一方で、岸田(行倫・捕手)が先発で出場した試合は5勝3敗1分、計12失点という数字。甲斐本人も呆然としていました」(巨人担当記者)  交流戦最終戦(6月24日・対ロッテ)の敗戦後は、「うなだれる甲斐を小林(誠司・捕手)が肩を叩いて慰める姿が映りました。甲斐は非常に真面目で、人格者として知られる選手だけに、メンタルを病んでいないかと心配の声が上がったほど。阿部監督もスポーツ報知のインタビューで、“今の甲斐は明らかに苦悩している”“勝たないと、抑えなきゃというプレッシャーが”と述べていました」(同) 背番号10  ソフトバンクで育成選手から這い上がり、正捕手の座を掴んだ甲斐。先のWBCにも出場し、見事世界一の原動力となった。一番の武器は「甲斐キャノン」の愛称で知られる強肩である。が、ソフトバンクでは若手起用が増えて徐々に出場機会が減少。昨オフにFAを宣言した。 「そこに声をかけたのが阿部監督です。昨年は、岸田、小林、大城卓三の3名で捕手を回し、見事リーグ優勝に輝いたのですが、阿部監督は“自分の理想とは違う”と何度も言っていた。絶対的な司令塔が欲しくして“どうしても”と直訴して甲斐の獲得に乗り出したんです。阿部監督は自身が現役時代、球界を代表する捕手、また強打者としてチームの中心となり、2度の3連覇を含む8度のリーグ優勝、3度の日本一を果たした。“絶対的な捕手の存在”がチームの理想形として頭に刻まれているのでしょう」(同)  甲斐への期待の大きさは、阿部監督が現役時代に付けていた背番号「10」を渡したことからも窺える。 誠司さんと組みたい  こうした事情から、シーズン開幕後、正捕手として起用された甲斐。3、4月は苦手の打撃でも3割をマークするなど好調で、一時はクリーンナップの5番も任されたほど。しかし、5月は1割台、6月は2割3分と打率を落とし、交流戦では打ち込まれる場面も増えてきた。 「ある評論家の分析によれば、リードが読まれているのではないか、と。甲斐のリードは外角を軸に組み立て、インコースで勝負する非常にオーソドックスなスタイル。その配球が単調に見えるということです。ソフバ時代は強力打線、強力投手陣でしたから、それほど粗は目立たなかったが、今の巨人はエース・戸郷(翔征)が絶不調で二軍に降格されるなど、投手陣の台所事情は苦しく、打線も4番・岡本(和真)が怪我で離脱している。接戦をものにするしかなく、慎重、精密なリードが要求されますが、それが出来ていないということです」(同)  その結果、守備力では定評のある小林や、攻守のバランスが良い岸田、そして打撃力が強みの大城の出番が増えていった。6月20日の対西武戦(東京ドーム)では、赤星優志投手が小林と組み、勝利投手に。ヒーローインタビューでは「誠司さんとずっと組みたいという話をしていた」と堂々発言している。 こだわりを捨てた  さらに、巨人は交流戦明けの対DeNA戦(東京ドーム)を3連勝、それも3試合連続完封というおまけつきで乗り切ったが、 「その際、阿部監督は3戦すべてで先発捕手を変えました。1戦目は甲斐、2戦目は岸田、3戦目は小林を起用した。“3人とも日本を代表したことのある捕手だから”と言っていましたが、同一カード3連戦で捕手の先発マスクがすべて異なったのは、巨人の長い歴史上でも初めての、異例のことです」(同)  この采配に、巨人のOB会会長・中畑清氏はスポーツニッポンでの評論で「阿部監督が“甲斐へのこだわり”を捨てた」と称賛。裏を返せば、甲斐に強烈なダメ出しをしたことになる。今後、昨季のような捕手の「日替わりローテ」が定着すると見られているが、一方で、甲斐の年俸は5年15億円(年俸3億円)。それだけの高額年俸選手が「日替わり」の1人では、費用対効果という面ではマイナスである。 「阿部監督自身の“推し”で獲得しただけに、甲斐の存在感が低下すれば低下するだけ、監督の悩みが深まるのは必至です」(同) 視察に来ない  阿部の「推し」で獲得した選手と言えば、もう1人、田中将大である。阿部監督が、WBCで球を受けたことのある田中の獲得にこだわり、「魔改造」こと久保康生・巡回投手コーチに復活を任せたのは周知の通り。阿部監督は、「(田中の評価について)うだうだ言われていますけど、2桁勝って一緒に日本一になることしか考えていない」と言い切っていた。当初はローテーション入りを明言し、毎週日曜日に登板させる「サンデーマー君」構想を打ち出した。しかし、 「実際、投げさせてみると、昨季1試合、5イニングしか登板していない田中に毎週登板させるのは無理だとすぐわかった。で、4〜5月は実質『中13日』となる、木曜日登板に切り替えた」(巨人関係者)  開幕後、田中は弱小打線の中日戦で1勝こそ上げたものの、その後の2試合ではメッタ打ち。5月1日の広島戦(東京ドーム)で3回被安打8、与四球3の乱調を見せて二軍落ちして以降、一軍昇格を果たしていない。以降、阿部監督の口から田中の名が出ることはほとんどなくなった。 「田中の調整は桑田(真澄)二軍監督と久保巡回コーチに“丸投げ“です。田中が投げる二軍の視察に来たこともない」(同)  6月の交流戦では、営業的な目的もあり、古巣の楽天との試合で田中を一軍復帰させ、登板させるというプランが浮上していたが、それもなくなった。また、交流戦最終戦で一軍復帰させ、先発登板させるという案も浮上していた。相手はパ・リーグ最下位“独走”のロッテだから、現在の力を見るには良い機会だ。しかし、 「阿部監督が“今のところ入り込めるところがない”と一蹴した。この試合に登板したのが、阿部監督の中大の後輩である西館(勇陽)で、しかも負け投手になったというのが皮肉です。また、その翌日、田中は二軍でのDeNA戦に先発して5回途中で被安打14、6失点の大炎上。7月2日のヤクルト戦でも5回を投げ、被安打8の4失点とボロボロです。チームの成績が上がらない今、もし田中を一軍に上げて打たれたらもう阿部監督もジ・エンド。当面、昇格はないでしょう」(同) 笑顔が消えた  こうした状況もあり、監督の表情はとにかく暗い。 「試合後の監督インタビューでは勝っても目が泳ぐ。笑顔が全く消えている。これでは選手のモチベーションも上がってこない」(同)  監督を支えるはずのコーチングスタッフも決して一枚岩ではない。 「阿部監督は今季、共著も出すなど現役時代から師と慕ってきた橋上(秀樹)さんを作戦戦略コーチに招聘し、スコアラーを兼任させるなどしてベンチにも入れています。試合での打順決めや、サイン交換などは本来、ヘッドコーチである二岡(智宏)さんの領域ですが、そこに乱れが生じている。コーチ陣で阿部監督に絶対忠誠を誓っているのは、捕手の後輩の実松(一成)バッテリーコーチくらい」(同)  既に今シーズン、試合後の阿部監督の取材拒否は3回にも及んでいる。  7月1日から始まった首位・阪神戦(甲子園)では2連敗。初戦ではトレイ・キャベッジ外野手の走塁ミスに記者団の前で不満をぶつけ、2戦目では判定に抗議して巨人の監督としては51年ぶりの退場となるなど、イライラは募るばかりだ。 松井秀喜氏の存在  阿部監督は来季までの3年契約だ。昨年就任1年目でリーグ優勝を果たしていることもあり、今シーズンの成績が振るわなくても責任問題に発展することはない。しかし、気になる存在がある。6月3日、長嶋茂雄終身名誉監督が死去。その翌日、恩師の元を訪れたOBの松井秀喜氏は、記者団の前で、「長嶋監督との約束がある」と明言した。 「この“約束”が巨人監督就任かどうは別にして、多くの球界人やマスコミがそう捉えたのは間違いない。巨人とヤンキースの4番を務め、国民栄誉賞受賞者で、ノースキャンダルの松井の監督就任を望む声は、ファンのみならず、山口寿一オーナーはじめ球団首脳部にも少なくない。松井の性格上、後輩として可愛がってきた阿部を押し退けて監督になるこということはあり得ないですが、阿部監督の成績や采配が振るわなければ、周囲が勝手に『松井待望論』を盛り上げ、“流れ”を作りに行くでしょう。そうなれば、阿部監督も決して穏やかな気持ちではいられないはずですし、試合に集中できない」(同)  巨人は前半戦が終了した際には監督が必ずオーナー報告に出向く。阿部監督にとってはオールスター前までには胸を張れる成績で折り返すことが、“今後”に向けた大切なミッションだ。 小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター デイリー新潮編集部

もっと
Recommendations

<解除>【土砂災害警戒情報】宮城県・栗原市西部 3日18:45時点

3日午後6時45分、宮城県と気象台は、栗原市西部に出していた土砂災害…

【熱市土石流から4年】遅れる復興と被災地の今 ”伊豆山に戻れない避難者たち” 28人の犠牲者を悼み追悼式(静岡)

28人が亡くなった静岡・熱海市伊豆山の土石流災害から7月3日で4年。現…

合成麻薬フェンタニル 警察庁長官「事件として扱うべきものあれば厳正な対処必要」 国内では2件の検挙把握

アメリカでまん延し、社会問題となっている合成麻薬フェンタニルにつ…

モンゴル公式訪問する天皇陛下、前回は「馬乳酒をいただいたこともある」【記者会見全文その3】

天皇陛下は2日、モンゴル公式訪問を前に皇居・宮殿で記者会見に臨…

全国で相次ぐ教諭による不祥事 文部科学省は全国に「教師による性暴力防止」のための通知

盗撮する目的で教室に侵入したとして所沢市の教諭が逮捕されるなど、…

【GENIC・増子敦貴】好きだった子との甘酸っぱいエピソードを告白「手が当たってしまってダッシュ」

7人組男女混合ダンス&ボーカルグループ「GENIC」のメンバーで俳優の…

運転手「気づくのが遅れた」北陸道でスクールバスが追突 大学生ら6人ケガ【新潟】

学生など20人が乗っていて、6人がケガをしたという

モンゴル公式訪問する天皇陛下「上下水道公社訪れて、水の問題学びたい」【記者会見全文その2】

天皇陛下は2日、モンゴル公式訪問を前に皇居・宮殿で記者会見に臨…

【参院選】蓮舫氏 人生初のタスキ着用で第一声「自分の懐を優先する政治は終わらせないといけない」

立憲民主党から比例代表で参院選(20日投開票)に立候補した蓮舫…

「家の倒壊・土砂災害の危険など心配 今後の地震や雨に十分注意を」気象庁会見 鹿児島・十島村で震度6弱 

鹿児島県十島村の悪石島で最大震度6弱を観測する地震が発生したことを…

loading...