「感じたままをすぐに書く」が武器になる…「脊髄反射ライティング」が引き出す「言語のセンス」

「脊髄反射」というと、「大脳を経由しない反射運動」として嘲笑的に使われがちなネットスラングでもありますが、「脊髄反射で書く」ことの効用は確かにあるといいます。 37年間、書くことで生きてきたーー批評家の佐々木敦さんが、「書ける自分」になるための理論と実践を説き明かす『「書くこと」の哲学 ことばの再履修』(講談社現代新書)。本記事は同書より抜粋・編集したものです。 すぐに書き出しを考えてみる 私はしばしば、映画の試写の帰りにはもう(脳内で)レビューを書き始めています。その時点ですでに原稿の発注を受けていて、文字量や締め切りも設定されていることが多いので、早速作業を始めていると言ってもいい。 その時、私が重要視しているのは、レビューに書く内容、論旨やポイントを吟味するよりも、いきなり文章の書き出しを考えてみるということです。今しがた観たばかりの映画をレビューするに当たって、もっとも適切かつ効果的な書き出しとは、どのようなものか? むしろ論点は脳内で書いてゆく文章の内部に自然と宿ってくる(「ロジック」を思い出してください)。 もちろん商業的な媒体に載るレビューであるからには資料や情報的な側面も必要ですが、それは後から幾らでも加えられる。肝心なことは、まだ生々しくも瑞々しい、新鮮な体験としてのひとつの作品との遭遇を、いかにして摑まえて、言葉にするか、です。 映画以外のジャンルも同様で、書評の場合も、私は出来るだけ、読み終えてからレビューを書き始めるまでの時間を短縮するようにしています。本を閉じた瞬間から、すぐさま書評に着手することが理想です(さすがになかなかそうはいきませんが)。書評用の本を読了した後に別の本を読んでしまうと、読み味や読後感が重なって、印象がぼやけてしまい、レビューの要点が絞れなくなることが(私の場合は)よくあります。 たまにすでに読了済みの本の書評を依頼されることもありますが、そのときはあらためて再読して、可能な限り、初読の際の感覚を呼び起こすようにしています(再読時に初めて気づくこともあったりしますが、それ以上に出会い頭の記憶を再現するほうが「書くこと」に寄与するのではないかと思います)。 精度や強度が上がってくる 音楽の場合はジャンルの特性上、複数回の鑑賞が比較的容易なので(大物ミュージシャンとかだと試聴会というものも時にはありますが)、初めて聴いた後にすぐに書くということはあまりありませんが、以前、大学で、こんな試験をやってみたことがありました。説明抜きに一枚のCDを教室で再生し、一通り聴き終わった直後にその場で短いレポート(レビュー)を書かせる、という試みです。あれはなかなか面白かった。まさに反射神経のレッスンです。どんな音楽を流したのかは忘れてしまいましたが、学生も結構ノリノリで書いていました。 ことばの反射神経、書くことの瞬発力、それによってあぶり出されるのは、自分の文章、自分の言葉の傾向性や言語センスです。とにかくすぐに書き始めなければならないとなった時、とはいえただ書けばよいということでもないのだから、どうにかして「プロの書き手による商品としてのレビュー」に仕立て上げなくてはならない。 何も考えずに直情的に反応してしまう人のことを「脊髄反射」と呼んで嘲弄するネットスラングがありますが、ここではむしろその効用を述べているのです。脊髄反射も回数を経ると次第に精度や強度が上がってきます。同じような反射ばかりしてしまうことを意識すると自ずとバリエーションを模索するようになるし、自分ならではの表現や語彙を獲得しようと思うようになります。書くための訓練として、脊髄反射に向き合うことは、けっして無意味なことではありません。 よく考える、深く吟味する、ああでもないこうでもないと書き出す前に色々と検討してみるのもいいのですが、逆の方法が時には役立つことがある。この考え方の良いところは、すぐに実践できることです。何かと出会って、間をおかずにその何かについて書いてみる、それだけなのですから。 * 本記事の抜粋元、『「書くこと」の哲学 ことばの再履修』(講談社現代新書)は、読み終えると、なぜか「書ける自分」に変わっている!ーーそんな不思議な即効性のある、常識破りな本です。ぜひお手に取ってみてください。 書くことは考えることーー あなたはなぜ「書けない」のか? たった140字で言い切る練習場…「書くことの瞬発力」を鍛えるXの使い方

もっと
Recommendations

“期限”間際に…トランプ氏「30%か35%の関税」 早大・中林教授「課してくる可能性は十分ある」日本はどう対応?【Nスタ解説】

日米関税交渉をめぐり、トランプ大統領が「30%か35%の関税」を課す…

公立の中学・高校ですすむ校則の見直し 約9割の学校が「令和」以降に新たに制定や変更 文科省調査

文部科学省が公立中学校・高校における「校則の見直し」について調べ…

【特集】愛好家がハマる「メダカ」の世界 ひそかなブームの理由は〝改良メダカ〟!?【新潟】

県内外から集まった愛好家が自慢のメダカを展示・販売するイベント

【プロ野球】オイシックス 未だに学びを止めない陽岱鋼 6月に続き柵越えで、衰えぬパワー健在 《新潟》

プロ野球イースタン・リーグに参加しているオイシックス…

【 工藤静香 】 「炊き込みご飯、大根とタコの煮物、カルパッチョ、炙りたこ。 いろいろ作りました」 長女・Cocomiさんのリクエストに応え

歌手の工藤静香さんが自身のインスタグラムを更新。様々なタコ料理を…

総理の発言が波紋 消費税減税 なぜ時間かかる?イギリスは7日後に実施、POSシステム詳しい専門家「システム環境が整ってない」【Nスタ解説】

参議院選挙が7月3日に公示されるのを前に、連日、与野党の党首討論が…

公立中学・高校の9割が校則見直し、不合理な「ブラック校則」問題視の19年以降…文科省調査

公立中学校と高校の9割が2019年度以降に校則を見直したことが…

“ITで格安”実現の「トライアル」が老舗「西友」買収完了を発表、東京進出の道のりは?【Nスタ解説】

九州発祥の格安スーパー「トライアル」が関東に進出。老舗「西友」の…

「色恋話を持ちかけて近づいてくる」大学生へ悪質ホストクラブ問題などへの注意を呼びかけ 改正風営法の施行を受け 警視庁

悪質ホストなどの規制を強化する改正風営法が施行されたことを受け、…

橋下徹氏&安藤優子氏 明日公示の参院選で議論「事実上の政権選択」「経済だよ!バカモン」

元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏とジャーナリストの安藤優子氏が2…

loading...