参政党は6月22日投開票の東京都議選で躍進した。擁立した4人のうち3人が当選し、都議会で初議席を得た。うち世田谷区(定数8)ではトップと僅差の2位、練馬区(定数7)でも3位と上位に食い込んだ。総得票数は11万7000票で、公認候補者1人当たり平均で2万9000票となる。37人を擁立して31人が当選し、第1党を自民党から奪還した都民ファーストの会でも1人平均2万8000票。21議席獲得にとどまって第2党になった自民党は、告示日時点の公認候補者数で計算すると同1万9000票だ。今回の参政党の勢いが分かる。直近の世論調査でも支持率を伸ばしており、既存政党は7月20日投開票の参院選に向け、神経をとがらせる。 【市ノ瀬雅人/政治ジャーナリスト】 *** 【写真を見る】参政党が支持を広げた要因? 独自の政策とは 保守票の受け皿 2020年に産声を上げた参政党は、22年参院選で1人、24年衆院選で3人を、いずれも比例代表から国政に送り込んだ。「日本をなめるな」「日本人ファースト」といった強い印象を残すスローガンが示してきた通り、鮮明な保守政策を最大の特徴とする。ただ、これまで新興少数政党の一角とみなされることが多く、特別に注目を集める存在ではなかった。 参政党の政策ポスター(参政党HPより) それが一転、彗星の如く都議選で勝利を収めた。要因をあえて一言で述べるなら、それは保守票の受け皿となったことだろう。自民党は国政での政治資金不記載問題(いわゆる裏金問題)に続き、都連でも同様の事案が発覚した。それらの影響で、従来の支持層を固められなかったのではとの分析が出ている。 また、24年10月の衆院選で4倍増の28議席に急伸した国民民主党は、過去に不祥事報道があった山尾志桜里元衆院議員を参院選に擁立しようとしたことなどで支持率を落とした。これにより、国民民主にブーム的に乗っていた票の一部を取り込んだ可能性がある。自民から国民民主へ、さらにそこから参政に——という票の遷移が起きたとの観測も成り立つ。 若い世代への緻密なアプローチ 参政党は、都議選では個人都民税50%減といった積極財政策、中小企業支援やコメ政策のほか、外国人犯罪への厳格対応や故石原慎太郎都知事時代の道徳・規範教育の復興などを公約に掲げた。オリジナリティーを顕著に表すのは、まずはインパクトの強い保守政策の数々である。また、インターネットユーザーの動向を踏まえた、SNSを駆使した若い世代への緻密なアプローチは、以前から政治関係者の耳目を引いていた。 これらに加え、重複する主張を持つ他党との立ち位置の差異、世代間関係についての捉え方、より個別にわたる政策の中身などに目を凝らしてみたい。政治や社会におけるさまざまな相関関係の中から、ぼんやりと、しかし奥行きを持って、その独自性の輪郭が浮かび上がってくる。 日本の精神反映した「創憲」 「東京都においても、外国人の法律違反ももちろんそうだが、社会保険料、健康保険料の未払いといった問題が起きている」 参政党から都議に当選した一人は、活動中、街頭で訴えた。在日外国人を巡るトラブルは、国会でもたびたび取り上げられるなど、急速に有権者の関心に上っている。同党は都議選で外国人について、受け入れ体制の厳格化や不正・犯罪取り締まりを前面に出した。「支持を集めた大きな理由の一つ」(与党筋)とみられている。 ホームページには、より項目を絞った党の重点政策として、外国資本による公有地や水資源買収の制限、自虐史観を否定する教育などがある。参院選には、安全な社会を築くとする管理型外国人政策や、日本の精神性を反映した憲法をつくる「創憲」などを公約した。学校教育における神話や建国の歴史を学ぶ機会を増やすといった記載もある。 お金と心 目を引くのは、それらと並立し「化学的な物質に依存しない食と医療」をうたっていることだ。さらに詳細な政策を見ると、有機・自然栽培の促進、食品情報の積極的開示などがある。参院選公約では「オーガニック給食」を掲げた。食における自然の尊重や安全性の取り上げ方は、政党の中でひときわ目立つ。子育て世代の共感を呼びやすいテーマだ。一方、医療におけるワクチン接種には慎重な態度を取る。 消費税などの税金や社会保険料を軽減する、国民負担率の引き下げにも力点を置く。これらは、若者層の支持が比較的厚いこととも合わせ、「手取りを増やす」のキャッチフレーズで党勢を伸ばした国民民主党の政策との類似が想起される。国民民主は「年収の壁」の撤廃など明快な論理性による説得力ある主張と、玉木雄一郎代表に対する若年世代からの支持を基盤に、現役世代の懐事情に照準を合わせた政策を打ち出した。参院選では30歳未満の所得税減税を公約した。一方でその政策は世代間対立を招くと心配する声もある。 参政党も各種の負担軽減策と、巧みなSNS戦略を融合し、若者層に切り込む。ただ、経済政策とは全く別のアプローチである伝統的家族観や地域社会におけるつながりの重視など、保守的主張がバッファーとなり、その政策は若年層と年配層との対立という構図を生じさせにくいメカニズムとなっている。あるベテラン政治家は「減税といったお金の話に、心の要素が加わっている」と分析した。都議選当選者の一人は、街頭で「古き良き日本を」と書いたのぼりを立てながら演説した。もちろん、受け止め方は人それぞれだ。 もう一つ取り上げるとすれば、参政党は奨学金について返済不要の給付型拡充や返済免除制度整備、学用品購入などのための子育て給付金を強く訴えていることだ。経済的理由による進学断念をなくすとして「自己責任論」を否定する。これらは、保守とは対極にある、いわゆるリベラル系の代表的施策でもある。 しかし、リベラル系による主張は、それらが個人の権利に基づくという色彩を帯びるのに対し、参政党の政策は家族、地域、国という共同体が教育を包摂するとの印象が強い。つまり、施策は似通っていても、背景にある思想は大きく異なっているのだ。また、戦後80年を経た現在、保守派が独自の理論の下、格差是正政策に本格的にウイングを広げ始めたともとらえることができる。 候補者の素顔にシフト 「赤坂街録〜ホンネファイル〜」。参政党の選挙候補者や幹部らを紹介するシリーズ動画のタイトルだ。いくつかを視聴すると、各人が声だけの質問に答える形で、自身について語ってゆく場面が少なくないことに気が付く。木漏れ陽が射す小さな緑地の一角。登場人物はカメラ目線ではない上、政策にも触れるが、これまでの歩みや仕事、普段の生活についての話題も多い。リラックスムードで笑いも交え、政治家の動画の一般的イメージとは、かなり趣を異にする。 政党におけるSNS活用と言えば、これも国民民主の取り組みの早さが知られた。玉木代表自らが積極的に動画出演し、立て板に水で政策を解説する。ユーザーとの対話、論戦も厭わない姿勢が注目度を上げた。こまめな発信は「ネットどぶ板」なる造語を生んだほどだ。 参政党はこれら先行した取り組みの、いわば進化系とも言えそうだ。激しさであれ、穏やかさであれ、候補者の素顔を押し出すことにシフトしている印象を受けた。時には迷いや悩みもうかがわれ、等身大の姿を映し出す。それらは、視聴者に自身を重ね合わせる余地を生じさせる。もちろん、強い政治的主張に特化した動画は多くある。 同党の都議選当選者3人のX(旧ツイッター)フォロワー数は、6月27日時点で、多い順に1万8000人、1万2000人、8000人である。 自民党票に影響か さて、参院選の動向である。比例代表では、各種世論調査で参政党を投票先と答えるウエイトが上がっている。3年前の参院選で神谷宗幣代表が獲得した1議席を優に超え、3、4議席以上に届く可能性が出てきた。また、選挙区でも、都議選時の勢いを都内全域で維持していると仮定すれば、東京では議席獲得が視野に入る。このほか、神谷代表のお膝元である大阪など、改選数の多い都市部での戦いが注目される。 この影響が及ぶのは、まずは保守政党の巨艦であり、老舗の自民党だろう。同じ保守層で有権者の選択肢が広がり、票を奪い合う相手が増える。24年衆院選の比例で、参政党は187万票を得ており、同じく保守の新興勢力である日本保守党の獲得票と合わせると301万票に上った。このうちの一定割合は、もともと自民票だったと見る向きは多い。 参政党は参院選で、全ての選挙区で候補者擁立を発表している。このため、仮に自民候補が優位な選挙区であっても、保守票の争奪戦が起き、票を削られるリスクがある。そうなると、立憲民主党などの候補にプラスに働くことがあり得る。 石破政権は衆院で与党過半数を失っている。参院でも自公で過半数を割る事態になれば、より不安定になるのは自明である。場合によっては政権を明け渡す可能性もゼロではない。こうなると1〜2議席の重みも格段に違ってくる。このため、自民党執行部は首脳陣を含め、早い段階から参政党の影響を警戒していた。 石破茂首相(党総裁)は6月28日の党全国幹事長会議で、都議選で新しい政党が支持を集めた要因を分析する考えを示した。同時に「47都道府県それぞれを本当に知り尽くしているのは自民党だ」として、物価高対策や農政などを列挙し、長年培ってきた政策、国家運営力を総動員してそれらに対峙する意向を強調している。 維新、国民民主も競合 野党では、日本維新の会、国民民主党は、これまで保守層の受け皿機能も果たしてきた。参政党との票の奪い合いが生じ、影響が及ぶのは避けられそうにない。報道各社による直近の世論調査では、政党支持率や比例代表の投票先で国民民主が数ポイント下げているものが複数あった。これに対し、立憲民主党など、比較的支持層が重ならないとみられる政党は、相対的に浮上しやすくなるとの見方がある。ただ、野党の多くが消費税減税を前面に掲げているため、減税票の食い合いが生じる可能性は否定できない。 新勢力として出てきた政党は中、短期の浮沈のサイクルで理解されやすく、ブームに乗って勢力を伸ばしてもそのうち後退するとみられがちだ。参院選直前というタイミングで日本政治の水面に投じられた新興保守の一石。今回はいったい、どのような波紋を生むのだろうか。 市ノ瀬雅人(いちのせ・まさと) 大手報道機関にて20年近く国政、外交・国際関係などの取材、執筆、編集を務めた。首相官邸、自民党、旧民主党、国会のほか外務省などの官庁を担当した。 デイリー新潮編集部