奪われた拳銃で命を落とした信ちゃん、姿はなくなれど今でも「二人暮らし」…差し戻し審へ「力を貸してね」

 富山県警富山中央署奥田交番襲撃事件の発生から26日で7年となった。  奪われた拳銃で撃たれて命を落とした警備員中村信一さん(当時68歳)の妻が、報道陣の取材に応じ、「毎日を生きることに必死。気持ちが少しずつ楽になるということは一切ない」と苦しい胸の内を明かした。(吉武幸一郎)  「信ちゃんは私や娘、孫にとって、太陽みたいな存在。いつも私の後ろから、静かに見守ってくれた。今でも話したいことがあると、つい後ろを振り返ってしまう」。妻の心には在りし日の信一さんが生き続ける。  ただ、大きな心境の変化もあった。県警への思いだ。  「拳銃さえ奪われなければ、信ちゃんが死ぬことはなかった」。事件直後、妻は拳銃を奪われた警察官を恨んだ。ただ、当時の通報音声を聞き、事件を映したドライブレコーダーを見ているうちに、心は動いた。  「通報者は命がけで通報し、警察官も必死に犯人と格闘していた。なぜ通報を受けた県警は住民の安全を考え、避難の呼びかけをしなかったのか」と疑問を投げかける。「初動対応さえしっかりしていれば、拳銃が奪われても、信ちゃんは死なずにすんだ」  事件時の県警の対応に問題があったとして、2021年に県を相手に起こした損害賠償請求訴訟は4年の歳月を経て、今月結審。9月に判決を控える。妻は「県警は改善すべき点がある。改善して初めて、安心安全な県になる」と訴える。 ◇  一方、島津慧大(けいた)被告(28)に対する心情も変化した。  当初、妻の頭には極刑しか浮かばなかった。ただ、「恨めば恨むほど、死んで『はい、これで償いました』というのが悔しい。死刑執行前の短い時間だけ恐怖や後悔を味わっても、私たちは一生の傷を負っている。ならば、同じ時間苦しんでほしい」と語る。  法廷で心からの謝罪の言葉を望むが、それは困難だと感じる。島津被告は1審で一切言葉を発さなかった。それだけに、「刑務所で教育と治療を受け、いつか人の心がわかるようになってほしい」と願う。  妻は今、島津被告との面会を望む。「とにかく会って話をしたい。目的などない」。今後は、刑事裁判の差し戻し審までの時間を生かし、島津被告との接触を図るつもりだ。 ◇  姿はなくなれど、今でも自宅では「二人の暮らし」が続く。大の野球好きだった信一さんのため、応援していた読売巨人軍の試合がテレビで放送されていると、自身は見ずとも流し続ける。米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の投手復帰登板も信一さんは見てくれたはずだ。  妻は最近、信一さんの仏壇に向き合い、こんな話をしたという。「一緒に旅行でもしたいね。でも、まだまだ裁判は続きそうだよ。私に力を貸してね」  ◆富山中央署奥田交番襲撃事件=2018年6月26日、富山市久方町の交番で元自衛官の島津被告が稲泉健一警部補をナイフで刺殺して拳銃を奪い、市立奥田小正門付近にいた中村さんを射殺したとされる。  1審・富山地裁判決は殺人と窃盗の罪を適用して無期懲役。2審・名古屋高裁金沢支部判決は1審判決を破棄し、強盗殺人罪の成立を前提として、審理を富山地裁に差し戻した。被告側は上告したが、最高裁は上告を棄却。現在、差し戻し審に向け、富山地裁で期日間整理手続きが進む。

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