できそうで、できない… 皆さんは、「一筆書きクイズ」というものをやったことがありますか? 提示された図形を、鉛筆やペンを用いて一度も紙から離さずに描き切ることができるか考えるクイズ。ルールはとてもシンプルですが、子供から大人まで楽しめるちょっとしたクイズの1つです。 早速ですが、このサムネイルにある問題、一筆書きができるか実験してみてください。 「6歳から楽しめるクイズ!」と銘打たれた今回の問題。画像には、とある自動車のブランドのエンブレムを彷彿とさせる、円の中に三本の線が描かれた図形が示されています。 意地悪にならないように先に結論をお伝えすると、実はこの図形、一筆書きで描くことは「不可能」です。 なーんだ、できないのか。と思った人も多いでしょう。しかし僕が今回の記事で伝えたいのは、「一筆書きできるかどうか」はひらめきや運ではなく、確実に判定することができる、ということです! 今回は、冒頭の画像にあるクイズを紐解きながら、一筆書き「できる」図形と、「できない」図形の特徴について一緒に考えていきましょう。 一筆書きとは? 問題について考える前に、まずは「一筆書き」の定義をおさらいしましょう。 一筆書きのルールは、主に以下の3つです。 1 鉛筆やペンを紙から一度も離さないこと 2 同じ線を2回なぞらないこと 3 描いた線どうしが点で交差してもよい このルールに従って、図形をスムーズに描けるかどうかが「一筆書きできるかどうか」のポイントになります。 文字だけで聞くと難しそうですが、実は明確な法則があります。この法則を知っておけば、どんな図形でも「一筆書きできるかどうか」を一目で判断できるようになります。クイズとしても使える知識ですし、なにより数学の奥深さを体験できる楽しい入り口となるのです。 一筆書きができる図形とは? 一筆書きができる図形は、大きく分けると2つのパターンがあります。 1 始点と終点が一致するタイプ(いわゆる「円を描くような形」) 2 始点と終点が異なるタイプ(最初と最後が違う場所にくる) それぞれ、図示すると以下のような図形となります。 おそらく、赤色で示されている(1)の図形が一筆書きできることは想像しやすいでしょう。例えば円や三角形であれば、周のどこかから描き始め、1周して同じ場所に戻ってくることで一筆書きが完成します。これを、始点と終点が一致する、と表しています。これはシンプルに1周するだけなので、どの点、場所からはじめても一筆書きをすることができますね。 それに対し、(2)の図形は一見一筆書きが難しいように見えますが、始点と終点を異なる場所にすることで描き切ることができます。例えば、「B」の中にある四角形が2つ合わさった図形であれば、以下の図のように「A」からはじまって「B」まで一筆書きすることができます。 もちろん、逆のBから始めても、はたまた最初の動きを上下逆にしても成功します。しかし、この図の「A」と「B」以外の場所からスタートしてしまうと、どのようにしても一筆書きすることはできません。つまり、(1)の図形も(2)の図形も一筆書きはできますが、(1)に対して(2)は「特定の場所から始めなければ成功しない」という特徴があるのです。 一筆書きができない図形にも、さまざまな種類があります。簡単なものであれば、「×」も一筆書きが不可能な図形として知られています。上の(1)(2)の図形に少し線を加えただけなのに、実は一筆書きができない、という図形も数多く存在します。図形の複雑さと、一筆書きできるかどうかはあまり関係がないということです。 一筆書きの条件 ここまで説明した通り、一筆書きができる図形には2種類存在します。では、どうすればこれを見分けられるのでしょうか? そのカギとなるのが、「頂点の次数(じすう)」という考え方です。 次数とは、ある点に接続している線の数のことを指します。例えば先ほどの図形であれば、一筆書きの始点と終点にそれぞれ定めていた「A」と「B」の2点の次数は「3」になります。上下に2本、そして横に1本の線が接続しているので、2と1を足して3、ということですね。このように、次数が奇数である頂点や点のことを「奇点」と呼びます。 それに対し、大きな長方形の4つの頂点(C,D,E,F)の次数はすべて「2」となります。このように次数が偶数である頂点や点のことを「偶点」と呼びます。つまりまとめると、この図形は「奇点が2つ、偶店が4つある」ということです。 実はこの「偶点」と「奇点」の数が、一筆書きができるかどうかを判定するカギになるのです。 「奇点」の数と一筆書き 結論から言いましょう。ここで条件として重要になるのは「奇点」の数です。「奇点」が0個、もしくは2個である図形は一筆書きをすることができ、3個以上存在する図形は一筆書きすることができないのです。(奇点が1個の図形は存在しません) 一筆書きを行うということは、途中で通る点にはすべて「その点に向かう線」と、「その点から出て先に向かう線」の2本がセットで存在することになります。つまり、一筆書きの途中で通過する点はすべて偶点である必要があるのです。 しかし、一筆書きの始点と終点は、「向かう線」「出ていく線」のどちらかだけとなるため、奇点となるのです。これが、「奇点」が2個で一筆書きができる図形、となります。上の説明の「(2)の図形」ということになりますね。 それに対し「(1)の図形」は、始点と終点が同じ位置になるため、「向かう線」「出ていく線」がその点に療法存在することになります。つまり、この点も偶点となるため、奇点が0個となるのです。 ここまでをまとめると、図形を一筆書きするためには、まず奇点を探し、奇点が0個であれば好きな場所から1周する。奇点が2個であれば、その2点を始点と終点にして描く。ということになります。 さて、ではこの条件を利用して、サムネイルの図形が一筆書きできるかを考えてみましょう。 図形の真ん中の点を「A」、そしてそこから伸びている3本の直線と外側の円の交点をそれぞれ「B,C,D」とおきます。すると、この4点すべて次数は3であり、奇点であることが分かります。つまり、この図形には奇点が4つあるため、一筆書きできない、という結論になるのです。 いかがでしょうか。このように考えると、一筆書きできるかどうかの判断は非常にシンプルであることが分かるのではないでしょうか。6歳から楽しめる簡単なクイズですが、数学的に答えを導き出すことができるのです。 おわりに 実は「一筆書き」という題材は、受験数学にも用いられています。 2008年、京都大学の文系数学の入試問題にこのテーマが出題されました。グラフ理論の基礎知識を使って、ある構造を一筆書きできるかを判定するという問題です。 つまり、一筆書きという一見子ども向けに思える遊びが、難関大学の入試にも登場するテーマになりうるということ。遊び感覚で学んだ知識が、受験の武器にもなるのです。 ぜひ皆さんも、頭の体操だと思って楽しく数学の問題を遊んでみてください! 【数学クイズ】「3201分の3007」約分できる?即答できるシンプルな「考え方」があります