どの劇場も満員状態 6月20日から22日の「国内映画ランキング」(興行通信社調べ)で、俳優の吉沢亮(31)主演の「国宝」が公開3週目で初の1位を獲得した。 【写真を見る】ヒットの陰に名優あり……「国宝」で脇を支えた豪華な俳優陣 週末3日間の成績は動員34万8000人、興収5億1500万円を記録。週を追うごとに前週を上回る成績をあげ、累計成績は動員152万人、興収21億円を突破した。同作は作家の吉田修一(56)さんの原作を、「フラガール」(06年)、「悪人」(10年)などで数々の映画賞を受賞した李相日監督(51)が映画化したもの。任侠の家に生まれながら、歌舞伎役者として芸の道に人生を捧げた男の、激動の50年が描かれた人間ドラマだ。 記録的な大ヒット!(公式サイトより) 吉沢が演じるのは、任侠の一門に生まれ、15歳にして抗争で父を亡くしてしまう主人公・喜久雄。彼の天性の才能を見抜き、弟子に引き取る上方歌舞伎の名門当主・花井半二郎を渡辺謙(65)、半二觔の跡取り息子・俊介を横浜流星(28)、半二郎の妻・幸子を寺島しのぶ(52)が演じている。 「『国宝』は6月6日に356館の大規模公開となりました。公開初週3日間の興収は、3億4600万円。近年、大半の作品は、公開の翌週以降、ことごとく興収がダウンしています。しかし、175分という上映時間にもかかわらず、公開2週目以降が脅威のアップ率でした。私の友人は公開2週目の平日、都心の劇場で朝イチの回で鑑賞したそうですが、満席だったとか。私は3週目の週末の昼、都心の映画館で鑑賞しましたが、やはり満席。老若男女を問わず、幅広い年齢層を動員していました。邦画の実写でこんな作品はなかなか出てこないのではないでしょうか」(映画担当記者) 大手映画情報サイト「映画.com」のレビュー・感想・評価には891件が寄せられ、平均評価は5点満点中4.3(6月26日現在、以下同)で、そのうち7割ほどが5点満点の評価となっている。 《俳優・吉沢亮の代表作、ここに誕生。魂が震える、芸の一代記!》 《吉沢亮と横浜流星の贅沢なアンサンブルで魅せる、血筋と才能の残酷な相剋》 《歌舞伎の美しさを再確認し、歌舞伎自体をより知りたいと思える作品》 《予告編を超えた稀有な映画》 などなど、俳優陣やストーリーに関する称賛の声が多数寄せられている。 「吉沢と横浜は、喜久雄と俊介が成長してから登場しますが、二人の幼少期を演じた黒川想矢(15)と越山敬達(16)も、やはり幼少期から芸能界で活動し、出演した映画では新人賞を受賞している実力派です。その2人が半二觔から、今のご時世では、いくら身内とはいえパワハラを超えて“事件”になってしまうような強烈な指導ならぬ、シゴキを受けて芸を仕込まれます。そのシーンは昭和の話とはいえ、『血のにじむような』という言葉がふさわしい。それぐらい修練を重ねないと、初舞台を踏むことはできなかったのでしょう」(同前) 描かれる歌舞伎界の裏側 華やかな表舞台を見ているだけでは分からない壮絶な内幕だが、名跡や大名跡の襲名をめぐるゴタゴタ、興行の裏側や配役などなど、歌舞伎ファンならあまり知りたくないであろう、ドロドロした裏側もしっかりと描かれている。 そして、猛稽古を積んだ喜久雄は“花井東一郎”、俊介は“花井半弥”としてデビュー。舞台経験を重ね、お互いをライバルとして高め合い、芸にすべてを捧げ、次世代のスター候補として、ともに女形(おやま)の「東半コンビ」として売り出されることになる。 そんな2人に影響を与え、その後の人生に大きく関わることになるのが、田中泯(80)が演じた当代一の女形であり、人間国宝の歌舞伎役者・小野川万菊。 「田中さんは1960年代からダンサーとして活躍しているだけに、舞台でのシーンは頭のてっぺんから足の指先までスキがありません。普段の話し方やしぐさも、いかにも女形の大御所という雰囲気を醸し出していました。あの役ができるのは泯さんしかいないでしょう」(演劇担当記者) 吉沢と横浜は、歌舞伎の舞踊や所作も含めた稽古に1年半もの時間をかけ、クランクインしている。 「吉沢さんはともに人気映画シリーズとなった『キングダム』『東京リベンジャーズ』で激しいアクションをこなしています。横浜さんは中学時代には空手の世界王者になり、ボクシングのプロライセンスも取得するなど抜群の身体能力。それでも、歌舞伎の動きはとても繊細で、身につけるのは至難の業だったと思います。でも劇中での動きはすっかり歌舞伎俳優でした。『東半コンビ』として披露した舞踊『藤娘』を始め、『連獅子』、『関の扉』、『曽根崎心中』など、歌舞伎の代表的な演目をキャスト陣が披露していますが、まったく歌舞伎の知識がない人でも抵抗なく、約3時間の間、観客を飽きさせない構成になっています」(同前) 順調にスター街道を歩む「東半コンビ」だったが、先に半弥、その後、東一郎が人生のどん底を味わうことになる。その際、歌舞伎界の男性たちに、本音をぶつけるのが「梨園の妻」を演じた寺島だった。 寺島といえば、父は人間国宝の七代目尾上菊五郎(82)、母は俳優の富司純子(79)、弟は八代目尾上菊五郎(47)。自身の息子は尾上眞秀(12)、弟の息子は尾上菊之助(11)として舞台に立っている。 「主要キャストの中で歌舞伎俳優の血縁者は寺島さんのみです。なので、劇中の歌舞伎の家ならではのわずらわしい事はすでに体験済み。よそ者の東一觔に浴びせる強烈な言葉はセリフではなく『梨園の妻』たちの本音を代弁しているように聞こえました。この役も寺島さん以上にハマる役者はいなかったでしょう。寺島さん以外にも、見上愛さん(24)、高畑充希さん(33)、森七菜さん(23)がそれぞれ演じた女性たちは、東一郎と半弥いずれかの人生に大きく関わり、2人を献身的にバックアップします。なので、女性の観客の目線からでも共感できる部分は多いはずです」(芸能記者) 覚醒した吉沢 興収50〜60億円を見込める大ヒット作となりそうな「国宝」だが、公開が危ぶまれた時期もあった。というのも今年1月、吉沢が昨年12月に自宅マンションで酒に酔って他人が住む隣室に侵入したとして、住居侵入容疑で警視庁に書類送検されたことが発覚し、所属事務所が謝罪したのである。東京地検が2月3日付で不起訴としていたものの、人気コミックを実写化した主演映画「ババンババンバンバンパイア」の公開が同月14日から7月4日に延期に。しかし、「国宝」は予定通り公開された。 「数年前にインタビューをした記者に聞いたところによると、自宅でUber Eatsを頼んでゲームをしていることを明かしたといいますからインドア派で、酒を飲むイメージはなかったそうです。しかし、21年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』で主演を務めるなど、続々と主演作が舞い込み、仕事のプレッシャーも重くのしかかるようになり、酒でストレスを解消するしかなくなったのではないでしょうか」(映画業界関係者) そんな自分の現状をリアルに表現したのか、「国宝」の中で、迫真の演技が見られたという。 「東一郎がどん底の時期、ビルの屋上で狂ったように踊るシーンがありました。最後に、森が演じる女性と会話して正気に戻るのですが、あのシーンでは、これまでの作品では見ることができなかった役者としての“狂気”に満ちていました。役者として覚醒したのでしょう」(同) そのシーンについて、吉沢は6月2日に「映画.com」に掲載されたインタビューでこう語っている。 《3テイクくらい撮ったなかで、やっていることもバラバラでほぼアドリブだったんです》 《監督に森七菜ちゃんの顔を見ていてって言われたんです。それでバッと見ていたら『どこ見ているの?』って七菜ちゃんに言われて。『どこ見てたんやろな』って自然と出てきたセリフだったんです。僕自身のフィルターを通しながら、確かに喜久雄ってどこ見ているんだろう? と分からなくなる瞬間で、すごく素直にあの言葉が出てきた》 公開を控える「—バンパイア」で吉沢が演じるのは、「18歳の女性を知らない男」の血を好む吸血鬼・森蘭丸役。かつて瀕死状態の自分を救ってくれた、美少年の高校生の実家の銭湯で働きながら、彼の貞操を守り、血を目あてにしている役どころだ。 「原作のファンも支持するほどビジュアルはハマっていますが、もし、2月に公開されていれば、それほどヒットもせず忘れ去られていたかもしれません。しかし、『国宝』の大ヒットにより、同作への注目度も高まりました。早くも『国宝』の演技で今年度の映画賞を総なめにするのでは、ともっぱら。酒での不祥事も�追い風�に変わってしまいました。一部報道によると、事件の影響で断酒中だといいますが、俳優として忘れられない年になりそう。映画賞を戴冠したら美酒を味わえるのではないでしょうか」(前出・映画担当記者) デイリー新潮編集部