お笑い界の「大谷翔平」は誰か 「漫才」と「コント」の二刀流芸人を決める賞レースの行方

7月21日生放送「ダブルインパクト」  日本テレビと読売テレビが共同で主催する新たなお笑いコンテスト「ダブルインパクト 漫才&コント二刀流No.1決定戦」の決勝戦が、7月21日に生放送される。これは、漫才とコントの両方で勝負する「二刀流芸人」の頂点を決めるというユニークな賞レースであり、優勝者には賞金1000万円が贈られる。  *** 【写真を見る】“ポスト・ダウンタウン”の最有力候補とは?  プロ・アマ問わず、2人以上のユニットであれば参加が可能で、全国から2875組がエントリーした。その中から、ロングコートダディ、スタミナパン、セルライトスパ、ななまがり、ニッポンの社長、かもめんたる、コットンの7組が決勝に進出した。  このファイナリストの顔ぶれは、一般層にはやや地味に映るかもしれないが、お笑いファンから見れば実力者揃いの納得の選出である。特に、コントを得意とする芸人が多く、独特の演技力や構成力に期待がかかる。  たとえば、かもめんたるは「キングオブコント2013」の優勝者であり、漫才コンテストの「M-1グランプリ」でも準決勝に進んだ経験を持つ。また、ロングコートダディは「キングオブコント」と「M-1グランプリ」の両方で決勝に進んだことがあり、まさに二刀流の代表格である。  決勝戦では、各組が漫才とコントを1本ずつ、計2ネタを披露する。1本目を「1stインパクト」、2本目を「2ndインパクト」と称し、1stでは漫才かコントのどちらを披露するかを自ら選ぶことができる。2ndインパクトは、1stインパクトの得点が低い順に披露される。ネタ時間は4分間で、5人の審査員が100点満点で採点する。2ネタの点数を合わせた1000点満点で優勝者が決定するシステムであり、最終決戦などは行われない。  勝敗の鍵を握るのは、ネタ順とジャンルの選択である。たとえば、1本目に漫才を選ぶ人が多ければ、コントの芸人が目立つ可能性がある。逆もまた然りであり、観客の空気をどう読むかという駆け引きが勝負を左右する。舞台上に世界観を構築するコントと、観客に語りかける漫才とでは、笑いのスタイルがまったく異なる。並列に比較されること自体が難しい両ジャンルを同じ舞台で競わせることで、新しい化学反応が期待される。  お笑い界における賞レースは、2001年の「M-1グランプリ」を皮切りに急速に拡大した。以降、「R-1グランプリ」「キングオブコント」「THE W」「THE SECOND」など、ジャンルや属性に応じた大会が続々と誕生した。いずれも全国ネットで生放送され、芸人がブレークするための登竜門としての役割を果たしている。 かもめんたる(左)とロングコートダディ 本質的な「笑いのセンス」  そうした流れの中で登場した「ダブルインパクト」は、従来の賞レースとは一線を画す。漫才師は漫才を、コント師はコントを演じるという既成概念を超えた挑戦であり、観客にも審査員にも、より本質的な「笑いのセンス」が問われる大会になるだろう。  実際、漫才とコントの両方で結果を残してきた芸人は少なくない。サンドウィッチマンは「M-1グランプリ2007」で優勝後、「キングオブコント2009」でも準優勝という輝かしい実績を持つ。ほかにも、ジャルジャル、さらば青春の光、マヂカルラブリーなど、二刀流としての強さを示した芸人は多い。特に、近年ではコント師が「M-1」に出場するために漫才を始めるケースが増えており、「M-1」という大会の影響力の大きさを物語っている。  一方で、漫才師がコントに挑むことの方が難易度は高いとされる。漫才は「素の自分」を観客に見せる演芸であるのに対し、コントは演技によって架空の世界を構築する形式である。そのため、コントに不慣れな漫才師が「役を演じる」ことに抵抗を感じやすく、結果として参入が少なくなる傾向がある。  そうした背景を踏まえると、「ダブルインパクト」はただのネタ合戦ではなく、芸人の適応力、演技力、表現力、構成力など、総合的な笑いの能力が試される大会であることがわかる。漫才とコントのどちらかで突出した才能を持つだけでなく、両方を自在に操る柔軟性と地力が求められる。  漫才かコントかという二項対立を越境する芸人たちの戦いは、ちょうど野球の世界における大谷翔平のように、二刀流の価値そのものを問うものでもある。「どちらもできる」というのは単に器用であるということではなく、笑いの本質に深く通じている証しでもある。だからこそ、「ダブルインパクト」は意義深く、これまでにない魅力を放つコンテストなのだ。ここからどんなスターが生まれるのか楽しみだ。 ラリー遠田 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 デイリー新潮編集部

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