警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、警察における近ごろの新人について。 【写真】刑事ドラマに憧れて、は過去の話、そのイメージ写真 * * * 「『人事1課が希望です』と、新入社員の面接で配属先の希望を聞いたら、真面目な顔でいうので驚いたという話を聞いた。昔なら絶対にあり得ない。そんなことを口走ったら、”お前はバカか”と一喝されて終わったね」。先日、元警視庁関係者T氏からこんな話を聞いた。警視庁だけでなく警察庁、いわゆる警察と呼ばれている組織の中では、”新入社員”の希望に変化が起きているという。 警視庁人事第1課、それは知る人ぞ知る警視庁の中では有名な課である。まず警視庁には、総務部、警務部、交通部、警備部、地域部、公安部、刑事部、生活安全部、組織犯罪対策部の9つの部がある。このほかに特殊詐欺対策本部やサイバーセキュリティ対策本部がある。警視庁人事第1課は警務部に属し、主に警部以上の人事や監察を担当する部署である。つまり完全な階級社会で成り立つ警察において、上級の警察官の人事を担当する課になり、”新入社員”が「そこに入りたい」と希望して入れる所ではない。 “新入社員”という表現に違和感を覚えた人もいるだろうが、警察関係者は通常、警視庁のことを”会社”や”本社”と呼ぶ。警察の外ではどこで誰が聞いているかわからない。仕事上、些細なことでも漏れてしまえば問題にならないとは言い切れないため、警察だとわからないような表現を使うのだ。中には警視庁のある場所にちなんで”桜田門”と呼ぶ人もいる。警視庁で販売している土産の中には、桜田門と入った焼酎ボトルなどもあり、こちらは聞く人が聞けば所属がわかるだろう。 警察関係者の間では、2010年以降から、警察官になりたいという人たちの目的意識が徐々に変わってきたといわれていた。T氏は「テレビの刑事ドラマに憧れて刑事になりたい、困っている人を助けたい、悪者を倒したいという若者が沢山いた時代は過ぎ去った。平成の途中から、警察官は安定した職業を得るための手段になった」と話す。 事件現場に出たくない 公務員になるために警察官を目指すという若者が増えたのだ。「彼らは危険なことは好まない。希望するのは内勤の総務や交通部、生活安全部。少年らの相談相手になりたいという者もいた」という。 その反面、警察の花形だった刑事を目指す若者は、年々減少の一途をたどっている。元刑事のS氏は「防犯カメラや監視カメラ、車載カメラが出たことで、自分の足で地道に証拠を探し回っていた時代より、刑事の仕事は楽になった。それでも刑事は、きつい、汚い、危険の3Kの仕事だ。昭和の刑事ドラマではそれがカッコよかったが、今の刑事ドラマは違うだろう。キレイな部屋で仕事をし、推理や謎解きが中心になり、プロファイリングして、スマートに事件を解決する。ドラマが描く刑事像も昔とはぜんぜん違う」。そう言われれば、昭和の時代に人気を博した「太陽にほえろ」(日本テレビ系)や「西部警察」(テレビ朝日系)のような泥臭い刑事ドラマは見なくなった。 コロナ禍を経験したことで新入社員の安全志向も強くなり、S氏も「事件現場に出たくないという者がますます増えている。警務部の中でも厚生課や健康管理本部に行きたいという者や、地域課で地域の指導をしたい、犯罪被害者のカウンセラーになりたい者もいたが、刑事になりたいという者は少なくなった」。 「それどころか」とS氏はため息をついた。「早く仕事を覚えて、きちんと業務をこなしてもらうために、今では上司が新入社員に『いつまでもできないなら刑事部に送るしかないか』というブラックジョークがあるらしい」。 刑事になるのが狭き門だった時代は過ぎ、人気がなくなってきたという刑事の仕事。前出のT氏は「人事1課を希望といえる新入社員もすごいが、ドラマに出てきた架空の課があると思い込み、そこの刑事になりたいと希望する者もいたと聞く」。ストレートに希望を伝え、物おじしない今の若者にT氏は「度胸があるというか、怖い者知らずというか」と少々呆れつつも、「その性格をぜひ警察官として仕事に生かしてもらいたい」と願っている。