「ガランガランガラン」 　１９４５年７月２０日午前８時１３分。 　ドラム缶に石が入ったような音を立てて、長岡市に１発の大型爆弾が投下された。「ドカーン」という爆音が響くと、一瞬にして４人の命が奪われ、５人が重軽傷を負った。カボチャのような形から「パンプキン」と呼ばれる模擬原子爆弾で、重量は長崎に投下された原爆「ファットマン」と同じ４・５トンだ。 　長岡戦災資料館のアドバイザー星貴さん（６５）によると、模擬原爆にはプルトニウムの代わりに、通常の大型爆弾の４・５倍もの爆薬が詰められていた。爆心地は信濃川に近い同市左近の畑で、直径約１８メートル、深さ約５メートルの大穴が開いた。 　模擬原爆は、米軍による原爆投下に向けた訓練として、全国で新潟を含む投下候補地の周辺に約５０発が落とされた。県内では長岡市のほか、柏崎市と阿賀町にも投下されている。 　長岡市での本来の標的は工場が並ぶ地域だった。だが、雲が多かったため目標を見誤ったとされる。その後も天候が原因の失敗が続き、新潟市を原爆投下の候補地から外す要因になったという。 投下跡地に碑を建設 　犠牲になった４人は、ジャガイモを収穫していた兄弟２人と、赤ちゃんを背負った若い母親、家族と過ごしていた６０歳代女性だった。その後、８月１日の長岡空襲では市街地の８割が焦土と化し、１４８０人以上が亡くなった。 　「長岡空襲の影に隠れて忘れられてしまうのではないか」。４人の遺族から話を聞いた星さんは、模擬原爆の被害について「もう一つの長岡空襲として残していきたい」と強く思った。 　星さんらの提案で２００３年の同資料館の開館にあたり、模擬原爆が投下された地点も長岡空襲の慰霊の場に加えられた。さらに０５年の被災６０年に合わせ、地元住民ら約３５０人の募金約２００万円を活用して「模擬原子爆弾投下地点跡地の碑」が建設された。 　現在も星さんは、地元の小学生らを碑に案内し、長岡の戦災の歴史を伝える活動を続けている。「戦争の事実や残酷さを知ることで、子どもたちに平和について自ら考えてもらいたい」と語る。 原爆の恐ろしさ、新潟でも伝承 　原爆の恐ろしさを後世に伝える活動は、投下候補地となった新潟市でも続いている。 　原水爆禁止新潟県協議会（県原水協）の代表理事・赤井純治さん（７７）らは、長崎に投下された原爆「ファットマン」の実物大模型を利用した展示を新潟市内で開催してきた。８月４〜１５日には同市役所で模型をパネルなどとともに並べる特別展を予定する。 　模型は、広島で被爆した男性が約２５年前に制作したもので、保管が困難になった東京都内の団体から４年前に譲り受けたという。 　模型を見て立ち止まった人が他の展示に目を向けてくれる効果もあるといい、赤井さんは「今後も平和を考えてもらうために模型を残していきたい」と話す。 　広島と長崎に壊滅的な被害をもたらした原爆。だが、被害は新潟で起きてもおかしくなかった。新潟でも多くの人々が原爆への恐怖を抱きながら過ごした日々があった。あれから８０年。語り継ぎ、風化させないことが、一層大切になる。