古参チェーンがまさかの急成長 レッドオーシャン化が進むラーメン市場。個人店の倒産や廃業が増えている一方、急増するインバウンド客にラーメン人気が定着しているなどを背景に、市場規模は堅調に推移している。 そういった中、異業態からの新規参入も活発化。たとえば牛丼チェーン「吉野家」は今年7月4日より、初となる麺商品「牛玉スタミナまぜそば」の提供を開始することが話題となった。 だが、既存勢力も負けてはいない。1999年創業と、業界では比較的古参ながら、ここへきて急成長を遂げているラーメンチェーンがある。それが「ラーメン まこと屋」(以下、まこと屋)だ。 まこと屋は、1999年10月に大阪・福島でラーメン専門店「ラーメン まこと屋」として創業。2003年に(株)マコトフードサービスが設立され、同社が運営するチェーン店として現在に至る。 創業から今年で26年目を迎えるまこと屋だが、驚くべきはその「出店攻勢」。2025年5月発行の日経MJ(日本経済新聞社)が発表した「全国ラーメンチェーンの店舗数伸び率ランキング」でも5位にランクインするほどだ(1位は「東京油組総本店」)。 現在、店舗数は全国に101店舗(2025年5月時点)と、すでに大台の100を超えている。さらに同社によれば、2026年に150店舗、2027年には175店舗、そして2028年には200店舗の展開と売上150億円を目指すという。 まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しているラーメンチェーンというわけだが、実はここに至るまではけっして順風満帆ではなく、長い迷走期があった。 記念すべき1号店は島田紳助が出資 まずは、まこと屋の創業者であり、現在は(株)マコトフードサービス代表取締役社長を務める笠井政志氏の経歴について振り返りたい。 元々、ダンロップ社に勤めていた笠井氏だが、「自分はサラリーマンに向いていない。いつか会社を興したる」と考えた末、退職。その後は友人の酒屋でのアルバイト、大手牛丼チェーン店長と職を転々としつつ、起業のチャンスを伺っていたという。 そんな笠井氏に転機が訪れる。「ラーメン屋をやってくれないか」——90年代当時、売れっ子司会者として数々の冠番組を持ち、その名を馳せていた島田紳助氏から突然、こんな誘いを持ち掛けられたのだ。 というのも島田氏は、タレント活動のかたわら、飲食店をはじめ幾つものビジネスを起こしてきた人物。後年、『ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する』という経営哲学書を執筆するなど、飲食店経営に強い関心を持っていたのだ。 島田氏が構想したラーメン屋とは、ずばり「フカヒレラーメン」。メインの食材に宮城・気仙沼産のフカヒレを使い、なおかつそれを庶民的な価格帯で販売する。今まで手の届かなかった高級食材を安価に味わえるラーメンは絶対に流行る。そのアイデアを実現してくれる適任者として、笠井氏が抜擢されたという。 ラーメン調理の経験すら一切なかった笠井氏だったが、島田氏の期待に応えるべく、ラーメン店で修業を開始。そして試行錯誤の末、1999年、大阪・福島に今も残る記念すべき1号店を創業する。当時の屋号はまだ「まこと屋」ではなく、その名も「鱶鰭(ふかひれ)屋」だった。 ただ、結果から言えば、この島田氏プロデュースのフカヒレラーメンは失敗に終わってしまう。 大失敗から一転、新たなラーメンを生み出す 鱶鰭屋時代に提供していたラーメンは、島田氏のアイデアそのままに、フカヒレの餡がのったもの。価格は一杯750円と、確かにフカヒレ料理としては比較的安価かもしれないが、当時のラーメンとしては割高だった。また、出店地・大阪の地域客にとっても、味自体が馴染まなかったという。 だが、ここで笠井氏は挫けなかった。2003年、これまでのコンセプトを一切捨て、新たな主力ラーメンを開発する。それが今でも人気の牛骨、鶏がらベースのラーメンだった。 屋号も「まこと屋」に変えて心機一転。さらに法人化して多店化に乗り出す。1号店が福島、2号店が心斎橋と、これまでは個人客を狙った繁華街が中心だった出店戦略も、家族向けの郊外に続々と出店。その結果、一気に売上を伸ばす形となった。 経営の安定と共に、2018年にはさらなるスピード出店体制に舵を切った。それまでは年間1〜3店ペースだったが、年間15店ペースを目指し、さらに台湾やマカオなど海外出店も積極的に行っていく。 かくして、島田紳助が出資したラーメン屋から始まったまこと屋は、気付けば“100店舗超え”の巨大ラーメンチェーンへと成長を遂げたのである。 【後編記事】『大倉忠義パパ「鳥貴族社長」も仲間入り…ラーメン「まこと屋」のニッチな牛骨ラーメンが勢力拡大しているワケ』では、急成長を続けるまこと屋の「強み」を飲食コンサルタントが分析する。 【つづきを読む】大倉忠義パパ「鳥貴族社長」も仲間入り…ラーメン「まこと屋」のニッチな牛骨ラーメンが勢力拡大しているワケ