「ミスターサブマリン」を父に持つ東大野球部エース…渡辺向輝投手が「偏差値74」難関中学で“落ちこぼれて”しまった理由

 リーグ創設から今年で100周年を迎えた東京六大学野球は春のリーグ戦が行われ、優勝決定戦の末に早稲田大学がその栄冠を掴み取った。そんな記念すべき節目の年に東京大学のエースを任されているのが、多彩な変化球を操る渡辺向輝投手(農学部、4年)だ。「ミスターサブマリン」と称された元千葉ロッテの俊介氏を父に持つ渡辺投手に、小・中学校時代の勉強習慣について伺った。(全2回のうち第1回) 【写真で確認】東大エース・渡辺向輝投手のアンダースローと、父親の元祖ミスターサブマリン・俊介氏(48)の投球フォームを比べてみた 高校時代とは比べ物にならないレベルで野球ができている  東京大学のエースとして活躍する渡辺投手は、昨年春にリリーフとして頭角を現すと、同年の秋には先発に定着。151球の粘りの投球を見せた法政大戦(10月13日)でリーグ戦初勝利をマークした。 渡辺向輝投手 「思った以上に抑えられて、試合を終えてビックリすることもありました」  そのように話す渡辺投手は最高学年を迎え、さらなる飛躍を期待される中で臨んだ今春も、リーグ戦で5試合に登板。味方の援護に恵まれず、未勝利のままシーズンを終えたが、実力者が揃う明治大を相手に9回まで2 失点の好投を見せるなど、高い実力を示して大学日本代表候補に名を連ねた。  かつて甲子園を沸かせた選手たちとの対戦を「高校時代にはまったく考えられなかったくらいの高いレベルで野球に取り組めているので、毎日充実しています」と話す渡辺投手が、並いる強打者を相手に好投を続けられる背景には、公式戦での苦い経験がある。 開き直りが安定した投球につながった  昨秋の対早稲田大2回戦(9月15日)の先発マウンドを任された渡辺投手は、2回ノックアウトを経験。後続の投手も打ち込まれたチームも大差(1対12)で敗れ、試合後に自身の投球を見直すことになった。 「相手はみんな野球界の“エリート”ばかり。だから『どんなに頑張っても打たれてしまうことはある』と開き直って、ストライクを投げてみたんですよ。すると不思議なことに、相手の打者を打ち取れるようになって。僕自身の気持ちの変化が、好結果を引き寄せられている一番の要因なのかなと思っています」  ストレートは130キロ台ながらも、シンカーをはじめとする4種類の変化球を操りながらアウトの山を築いた右腕、その実力が認められ、6月21日から23日まで行われた大学日本代表候補にも選出された。ドラフト指名候補にも目される右腕は、日本代表での活躍と入学時の指揮官だった井手峻氏(東大→中日)が学生時代にマークした通算4勝を目標に掲げ、学生生活ラストシーズンに挑む。 とにかく落ち着きがなかった幼少期  今春のリーグ戦でも存在感を示した渡辺向輝投手は2004年、千葉ロッテで活躍した父・俊介氏の長男として、千葉県浦安市で産声を上げた。 「幼い頃はとにかく落ち着きがない子供で、自宅や祖父母の家にある冷蔵庫を勝手に開けたりして、大人たちを困惑させることも珍しくありませんでした」  活発に動き回る向輝少年を何とか机に座らせようと、両親は机の上にお菓子や漫画を置いたり、ピアノ教室に通わせたりして、さまざまな試行錯誤を重ねたそう。そんな渡辺投手が地元・浦安市の少年野球チームに加わったのは、小学校3年生のこと。当時のポジションは外野手だったという。 「選手同士は仲良くプレーしていましたけど、一部の大人たちからは『父親がプロの選手なのになぜ野球が上手くないんだ!』と叱責されたり、『アンダースローをやってみてほしい』と冷やかされたりして、正直に言うとチームの居心地はあまり良くありませんでした」  だが、自身の境遇を起因とする周囲の視線に辛さや違和感を覚えながらも、自分のことを認めてくれる仲間の存在や、得意とする守備を誉めてくれるコーチの温かい言葉に励まされたことが、苦しい中でも野球を続ける原動力になり、後の競技人生に繋がっていくこととなった。 全国模試で上位になれた2つの理由  休日は野球、平日も水泳やピアノ、化学の実験教室といった習い事に励み、充実した日々を過ごしていた渡辺投手が本格的に中学受験に足を踏み入れたのは、小学校4年生の6月のこと。塾の全国テストの受験がきっかけだった。  その頃は「受験自体にあまり興味がなかった」というが、母に「もし全国で10位以内に入れば、iPadがもらえるよ!」と唆されて俄然やる気になった渡辺投手は、塾のテストを受験。残念ながら景品を手にすることはできなかったものの、テストの高得点が気を良くして、のちに入塾を決意した。 「どの科目も満遍なく点数を取れていましたが、その中でも特に算数と理科が得意でした」  当時をそのように振り返る渡辺投手は、受験勉強を始めた当初から成績優秀で、小学校5年生の時には、全国模試で1桁の順位を獲得したこともあるほどだったそう。 「塾の授業がある日は、帰宅後に復習を2時間くらい、塾がない日は友人と遊んだり、習い事を終えたりして家に戻った後に、4時間くらいは机に向かうようにしていました。今振り返ってみると、そもそも勉強を得意としていて、あまり苦しさを感じなかったこと。そして、きちんと気持ちを切り替えられていたことが、勉強を続けられた理由なのかなと思います」と、好成績の秘訣を明かした。 中学受験で絶対に譲れなかったもの  小学校6年生になった渡辺投手は、本格的な受験校選びを進めることとなった。 「もし大学の附属中学に入り、そのまま大学に進学すると、どこかで『父のコネを使った』と言われてしまうだろうと思っていて。付属校の受験は避け、自分の努力をきちんと認めてもらえるような学校を選び、本番に臨みました」  だが、1月に渋谷教育学園幕張中学(千葉県)を受験したものの、まさかの不合格に。「確実に受かるだろう」と思われていた中での予想外の結果に、受験プランの再考を強いられた。 「もし、渋谷幕張に受かっていれば、2月1日に開成中学を受けるつもりでした。でも、両親の『確実に合格を手にした方が良いのでは?』というアドバイスもあって、急遽予定を変更し、より確実な海城中学を受けることにしたんです」  そして見事海城中学の合格を掴んだ渡辺投手は、そのまま進学を決断。偏差値74(首都圏模試)を誇る都内屈指の難関進学校で、中高の6年間を過ごすこととなった。 趣味はネットサーフィン、父に対する辛辣なコメントも見ていました  渡辺投手が進学した海城中学・高校は東京都新宿区にある男子校で、1学年は約320名。2011年以降は高校の募集を停止し、中高一貫校となった。「とにかく自由な校風で、生徒たちの『時代の先駆者を目指そう』とする意思も強かった」という学校では野球部に入部し、投手としてのキャリアを歩み始めることになった。 「中学1年の頃は身体がとても小さかったので、さほど実力はありませんでした」と謙遜気味に話すが、成長期の到来とともに球速が伸び、周囲に一目置かれる存在になったそう。だが、順調に力を伸ばしていく野球とは対照的に、学業の面では苦戦を強いられた。 「入学したばかりの頃は、中学受験の反動もあって、流行りのYouTubeやニコニコ動画を見たり、インターネット掲示板に書かれた父に対する辛辣なコメントを眺めたりしながら、メリハリのない日々を過ごしていました」 最初の中間テストは赤点だった  そのように話す渡辺投手は、入学後に最初の中間テストに臨んだものの、「be動詞と一般動詞の違いも知らずに受けた」英語で赤点を記録するなど、かつての姿は見る影もない散々な成績に。すぐに勉強の遅れを取り戻そうと、多くの同級生が通う予備校の入塾テストを受けるも、「ほぼ落ちることがない」と言われていた試験でまさかの不合格を突きつけられ、自身の置かれた厳しい現実を思い知らされることとなった。  その危機的な状況に、これまで勉強にほとんど口出しをしなかった母も怒り心頭に発し、帰宅した渡辺投手に勉強を指導することも珍しくなかったそう。母の熱心な指導の甲斐もあって、下から数えた方が早かった渡辺投手の成績は、一時は学年の中位にまで持ち直したものの、「嬉しくてすぐに油断してしまった」こともあって再び低迷。大学受験を意識する高校1年頃まで、進学校の“落ちこぼれ”として、青春を過ごすこととなった。(第2回に続く) 第2回【「1日36時間生活」でE判定から「東大理二類」に合格…プロ注目の「ミスターサブマリン2世」が明かす「考えが180度変わった」父からの助言】では、東大野球部エース・渡辺向輝選手が、文武両道を貫きながら、どのように日本最難関の東京大学に合格できたのかなどについて語っている ライター・白鳥純一 デイリー新潮編集部

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