就職氷河期世代の精神障害（発達障害含む）が増加している。内閣府が発表した令和5年「障害者白書」の「精神疾患を有する外来患者数の推移（年齢階級別内訳）」は就職氷河期世代の精神疾患の外来者数は176万3000人で、2017年と比較して54万2000人も増加。近年、発達障害などさまざまな障がいが可視化されてきたが、未だに無理解な医師の一部が障害年金の申請を拒否して、苦労する人もいる。最近報道された障害年金不支給問題もその一例だ。 前編記事〈仕事が続かずひきこもり、祖母の介護を始めて10年…「就職氷河期世代ケアラー」に医師が告げた「衝撃の一言」〉で紹介した山本博文さん（仮名、以下同）もその影響をうけた一人。20代の頃から何度も仕事につくものの、ミスの多さや気分の浮き沈みなどに悩んでひきこもりになり、さらには認知症と診断された祖母の介護で余計に心身の不調が悪化……。しかし、医師からは障害年金の申請を拒まれ途方に暮れていた。 つづく本稿では、山本さんが障害年金を受給できたきっかけや経済的に苦しくても専門家に依頼できる方法をお伝えするの。最後までご覧いただきたい。 障害年金申請すらできない悩みが社労士の助言で解決 山本さんは、友人が自分と似た症状で障害年金を受給しているのになぜ申請すらできないのかモヤモヤしていたところ、友人の勧めで社会保険労務士に相談して事情を説明。 社会保険労務士からは、「医師は申請を拒否したら医師法違反に該当するので断れません。また、山本さんの症状であれば障害年金2級になる可能性があります」と助言をうけた。 ちなみに、障害年金は1級から3級まである。1級は、人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態で入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲がベッドの周辺に限られるような人。2級は日常生活は極めて困難で収入を得ることができず活動の範囲が病院内・家屋内に限られるような人が対象になる。 その上で、下記の3つの受給要件がある。 1、障害の原因となった病気やけがのが次のいずれかの間にあること。国民年金加入期間20歳前または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満 2、障害の状態が障害認定日（障害認定日以後に20歳に達したときは、20歳に達した日）に障害等級の1級または2級に該当していること。 3、初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間（厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む）保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。 障害年金に加えて、こんな支援も 山本さんは、社会保険労務士から主治医の変更を提案されて別の精神科病院に転院。新しい医師に3ヶ月通院した結果、心理検査と知能検査を勧められ検査をうけた。 総合的な診断結果は「双極性障害（双極症）」と「発達障害（ADHD）」。 医師に障害年金に加えて障がい福祉サービスの利用と精神障がい者福祉手帳の診断書を書いてもらい、現在障がい福祉サービスの利用と精神障がい者福祉手帳2級を取得。 障がい福祉サービスとは、身体や精神に疾患がある人が就労継続支援A・B型など就労を目的とした「訓練等給付」と介護保険と似た「介護給付」がうけられる。 精神障がい者保健福祉手帳とは、NHK受信料の免除や公共機関の割引や税金が安くなるなどさまざまなメリットがある手帳だ。 障害年金とは全く別の制度なので注意してほしい。 現在、山本さんは障がい福祉サービスで週3回3時間ヘルパーを使い就労継続支援B型勤務を目指しつつ、生活面では精神障がい者手帳を使ってあらゆる割引をうけている。 「再三、医師に申請を断られてあきらめかけていたので社労士さんからの助言は寝耳に水でしたし、障がい福祉サービスがあるのは初めて知りました。障害年金受給に向けても一筋の希望が湧いています」（山本さん） 山本さんは現在、祖母の介護を続けながら障害年金の申請結果待ちである。 費用がなくても、あきらめないでほしい 筆者は、障がい者の相談や福祉サービスの代行申請など福祉のよろず屋的な存在の相談支援事業所で事業部長の勤務を経験。現在、就職氷河期世代のケアラー、ひきこもり、障がい者中心に若者まで相談支援、居場所、アウトリーチ、講演会などをして大阪市内に拠点を置く「よしてよせての会」代表を務める。 筆者自身が32歳から13年、認知症祖母の介護とガン・精神疾患の母親の介護・見守り・入院手続き、ひきこもり、生活困窮などを一手に担った経験を基に運営している。 その中で、障害年金2級に該当しそうな人たちが申請できていないケースに数々接して、本人が希望する場合は社会保険労務士につなぎ支援をする時がある。 例えば、20代の精神疾患と発達障害を有する女性の若者ケアラー。 精神疾患の親から経済的な虐待をうけ生活費をほとんどうけとっておらず、体調不良で無業だったため、1日1食の生活を余儀なくされていた……。体重は32キロ。 その女性は、精神科に通院していて何度か障害年金の申請をしたものの医師が診断書を書いてくれなかったというケースだった。 社労士によれば、2級を受給できそうと報告をうけていてホッとしている。 障がいの程度や受給要件に該当しそうなのに医師が申請を拒む場合は一人で悩まず、下記の方法で相談してほしい。 ・インターネットで「障がい年金に長けた弁護士や社会保険労務士」で検索してコンタクトをとる。 ・最寄りの年金事務所や年金ダイヤルで相談。 ・役所に相談。 なお、「弁護士や社会保険労務士に支払う費用がない」、「生活保護じゃないので自力では支払えない」と相談をうける場合があるがご心配なく。法テラスといって国が設立した公的機関で弁護士や社会保険労務士など専門家の費用を免除や分割してくれるところがある。 身体障がい者手帳や精神障がい者保健福祉手帳を有している人など費用全額免除の対象になる場合があるので、併せて相談してほしい。 奥村シンゴ 介護福祉ライター、講師、支援団体「よしてよせての会」代表。 NHKで解説の他、取材・執筆や大学・自治体など講演多数。また、大阪や兵庫（宝塚中心)に啓発や居場所活動を積極的に展開中。 著書『 おばあちゃんは、ぼくが介護します。 』2023年夏国際ソロプチミスト神戸東クローバー賞受賞。介護離職や若者ケアラー〜就職氷河期10年（ダブルケア、ひきこもり含）経験。生粋の阪神ファン。 ツイッター okumurashingo43 Facebook、TikTokは 奥村シンゴ で検索 「知っていたら300万円も損しなかった」…親を老人ホームに入れるとき役立つ「すごい制度」