「中国は日本のレーダーの電子情報を調べている」 中国製ドローンの“侵入”の狙いとは 

【前後編の後編/前編からの続き】  あわや大惨事、である。今月初め、太平洋上空で日本の哨戒機に中国の戦闘機が約45メートルの距離にまで接近する出来事があった。片や南西諸島に目を向ければ、頻繁に中国製ドローンが飛来しているという。日本近海を飛び回る「招かれざる客」の真意を探る。  *** 【写真を見る】あわや大惨事! 中国軍の戦闘機が自衛隊機に急接近した  前編【「日本全土をいつでも空襲できる状態になりかねない」 中国の海軍の実力は「侮れない」 現役自衛官が解説】では、今回中国機が海自機に異常接近した軍事的な側面について、専門家の分析を紹介した。  軍事的な側面の裏には“政治的側面”も存在する。防衛研究所の地域研究部主任研究官・杉浦康之氏に、改めてそちらから光を当ててもらおう。 中国海軍の空母「遼寧」 「今回のP-3Cへの急接近は、中国側で事前に準備していた節があります。日本は事態を把握したのち、今月10、11日に外交と防衛の両ルートから中国に抗議を申し入れました。中国は予期せぬ出来事が起こった場合、ホットラインに応じないことがあると指摘されているのに、今回は外交部と軍で歩調を合わせてそれに反駁(はんばく)してきた。空母2隻による初の本格的な訓練の情報を海自に取られたくなかった中国は、あらかじめP-3Cを威圧し追い払う算段をしていたと考えられます」 米国へのけん制  周到な計画を立てられた理由は、中国がこの訓練そのものを前々から予定していたからに他ならない。 「5月には、台湾の頼清徳政権が発足から1年を迎えました。中国は頼総統の就任時にも軍事演習を行ったほか、総統がグアムやハワイを訪ねて回った際にも急きょ、海・空の部隊を展開しました。台湾独立派の急先鋒である頼氏の動向にはとりわけ敏感で、就任1年のタイミングを見計らった可能性は十分にあります」(同)  併せて、米国へのけん制でもあった。 「5月末にはシャングリラ・ダイアローグという、アジア太平洋各国の国防のトップが集まる会合がシンガポールでありました。この場で米国のヘグセス国防長官は台湾有事が2027年までに顕在化する可能性を指摘したのです。中国はこういった発言が出ることを予測し、訓練をこの時期に合わせたのでしょう」(同) 「台湾どころではないのでは」という見方も  さらに台湾の統一を目指す習近平国家主席(72)には、訓練をどうしても急ぎ実施したい事情があるという。 「近年、中国軍の中心である中央軍事委員会内で、汚職摘発などにより処分者が続出しています。彼らは習主席の腹心、あるいは主席が抜てきしたとされる軍人たちです。これまで習主席は軍の汚職や腐敗と闘う姿勢をアピールしてきましたが、その刃が身内に向かっている格好です」(同)  もちろん国内外からは「政権内のことで手いっぱい、台湾どころではないのでは」との見方も出てくる。 「例えば23年夏には中国ロケット軍の上層部が汚職疑惑で解任されましたが、昨年44年ぶりに西太平洋でのICBM(大陸間弾道ミサイル)訓練に踏み切りました。今回も台湾侵攻が可能であると顕示するために、訓練を行った側面があるといえます。ただ訓練が遂行できたとしても、国家存亡に関わる台湾有事に今の政権の状況で一致団結して臨めるかというと、疑問が残ります」(同)  アピールやけん制に余念のない中国だが、遠く太平洋上のみでそれを行っているわけではない。日本の近海にも、不気味な影が飛来しているというのだ。 「こちらは有人機が対応しており労力が見合わない」 「台湾に近い宮古島や与那国島、尖閣諸島の付近では、中国軍のものとみられる無人機(ドローン)が頻繁に確認されています。防衛省によれば、こういった無人機に対するスクランブル(緊急)発進の数は、23年度で8回、24年度で23回と激増しています」(防衛省担当記者)  さる現役自衛官は、こうした中国機に憤っている。 「向こうは無人なのにもかかわらず、こちらは有人機が対応しており労力が見合いません。それに宮古島や与那国島は那覇基地から約300〜500キロも離れており、燃料もかかります。那覇では事情を知らない中国人観光客がスクランブル発進する戦闘機をうれしそうに眺めているなんて光景もありますが、皮肉過ぎて笑えません」  また、こんなウラ事情も明かす。 「現在のスクランブル発進はF-15という戦闘機で対応していますが、これからだんだんと最新のF-35に置き換わる予定です。この新型機は格段に電子化されており高性能な反面、エンジンの始動から発進まで時間がかかります。飛ぶ前にチェックする項目が多く、ヘルメットやスーツも特殊で着たまま待機できない。このペースで中国がドローンの数を増やし続ければ、いずれ現場が疲弊してしまうのではと心配です」(同) 「レーダーの電子情報を調べている」  かように自衛隊にコストを強要するほかにもドローンには目的があると、元空将で麗澤大学特別教授の織田邦男氏は語る。 「台湾や日本の近海を飛び相手の出方を探る目的もあると思いますが、何より各種レーダーの電子情報を調べているのでしょう。その情報があれば中国は有事の際、妨害する電波を発信し、相手の警戒監視網をかく乱できます。レーダーサイトは都度換装されるため、そのたび情報収集に来ているのです」  飛来する中国機に、日本はどう対応すればいいのか。 「本来なら宮古島のすぐ西側にある下地島から離発着して対応できれば、尖閣諸島などにも近く一番良い。同島には滑走路もあります。ただ、沖縄県と国の協定で民間利用以外は原則できない。中国が台湾有事に向けて本格的な準備を進めているいま、利用の方法について改めて議論すべきだと思います」(同) 「中国に口実を与えかねない」  金沢工業大学大学院の伊藤俊幸教授は、海上保安庁の強化も必要だと語る。 「中国のドローンには軍所有のもののほかに、日本でいう海上保安庁にあたる海警局のものがあります。こういったドローンにもスクランブル発進を行うと、むしろ中国に“そちらが自衛隊を出すならこちらも軍を出す”と口実を与えかねない。中国側もそれを見越して、海警局のヘリを日本海などで飛ばすことが多い。自衛隊の主任務はあくまで有事における武力行使ですから、海警局の機体には海上保安庁が対応できるようにすべきです」  ただし、中国機全体に対するスクランブル発進の回数は昨年度で464回であり、ドローンより有人機の方が圧倒的に多い。中国軍の総兵力は自衛隊の約9倍、200万人前後とされ、新味のあるドローンに目を奪われては本質を見誤るだろう。 「ドローンの性能を向上させたいという思惑もあるのでは」  先の杉浦氏も言う。 「中国は昨年来、『九天』というドローンを押し出しています。大きな本体から多数の小型機を発進させ連携攻撃ができる世界初の技術を搭載と喧伝していますが、技術的なハードルは高くどこまで実用的かは未知数です。中国は、ウクライナ戦争で実戦にドローンを投入しデータを積み上げている各国に対し、後れを取っている可能性があります。日本近海でドローンの飛来が増えているのは、中国製ドローンの性能を向上させたいという思惑もあるのです」  目下試験中の空母「福健」に搭載予定の電磁カタパルトに、最新ドローン。これらの“アピール”を実戦で目にすることになる前に、日本も国防を強化するほかあるまい。  前編【「日本全土をいつでも空襲できる状態になりかねない」 中国の海軍の実力は「侮れない」 現役自衛官が解説】では、今回中国機が海自機に異常接近した軍事的な側面について、専門家の分析を紹介している。 「週刊新潮」2025年6月26日号 掲載

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