店主は阿部サダヲさんらに技術指導も 　ＮＨＫ連続テレビ小説「あんぱん」に登場するパンを製造をしている店が千葉県佐倉市にある。 　「Bakery（ベーカリー）　&　Cafe（カフェ）　TSUMUGI（つむぎ）」。同店は１日３００個のあんパンを作っているが、開店後約１時間で売り切れになるほど人気に。出演者への技術指導なども担当する同店の竹谷光司さん（７７）は「ドラマを通じてパン業界が盛り上がってほしい」と願う。（渡辺亮平） 　同市の京成電鉄「ユーカリが丘駅」構内にある店には、午前８時半の開店前から行列ができていた。開店の約３０分前から並ぶ市内の男性（７４）は「あんパンが目当て。生地がとてもおいしい」と話す。 　同店が注目されるきっかけとなったのが、放送中の連続テレビ小説「あんぱん」だ。同作は「アンパンマン」の作者で漫画家のやなせたかしさん（１９１９〜２０１３年）と妻の暢（のぶ）さん（１９１８〜９３年）をモデルとしている。 　描かれているのは第２次世界大戦前後を中心とした時代。竹谷さんは、製パン技術などを指導する「日本パン技術研究所」（東京）で歴史の授業を担当していることから、ドラマへの協力のオファーが舞い込んだ。 　竹谷さんは大学卒業後、パンメーカーに入社。パン作りのためにドイツ留学をし、再就職した製粉会社で小麦粉やパンの開発を担当した。定年後の２０１０年には経験を生かし、山万ユーカリが丘線「公園駅」近くにパン店を開業した。 　長男の健吾さん（４２）が１６年頃に勤めていた会社を辞め、店を手伝ってくれるようになった。２０年には店を今の場所に移転させて売り上げを伸ばした。移転と同時に、店の経営も健吾さんに引き継いだ。 　「マーケティングを勉強してきたので、おやじのおいしいパンをいろんな人に届けたかった」と健吾さん。竹谷さんは店を手伝いながら、現在も新商品の開発を続けている。 ◇ 　ドラマの撮影は試行錯誤の連続だった。 　戦時中の物資が少ない中で作られたカタパンや、小麦粉をほとんど使わないパンなど、初めて作るパンの製造依頼もあった。 　「焼きたてのパンがなければその日の撮影ができない。失敗できないというプレッシャーがあった」。竹谷さんは振り返る。 　作中でパン職人役を務める俳優の阿部サダヲさんや今田美桜さんらに、生地の練り方から焼き方まで細かく指導した。 　ドラマの影響力を肌で感じている。竹谷さんは「全国であんパンが売れていると聞く。近年はパン店の倒産が多い中、関心が集まるのは大変ありがたいこと」と話し、「やなせたかしさんのおかげ」と笑う。 　「国産小麦で作ったパンが日本人の味覚に合う」と考え、国産小麦と、乳酸菌が含まれる発酵種（だね）を使ったパンの開発に力を入れている。「イーストの量産で発酵種の使用機会は減った。だが４０００年のパンの歴史をみてみると、発酵種に含まれる乳酸菌があっておいしいパンになることがわかる」と話す。 　ドラマ開始直前には、阿部サダヲさんが店を訪れ、国産小麦と乳酸菌を使って焼き上げたパンを絶賛してくれた。 　５０年以上続けてきても、その日の気温や湿度などに左右されるパン作りの奥深さを日々感じている。 　「『一人前のパン職人』の足元にも及ばない。これからもパン作りと向き合い、新しいパンを開発していきたい」と力を込める。