「24時間テレビ」(日本テレビ系)のチャリティー募金着服問題。鳥取県に本社を置く日本海テレビの資金も加え、500万円近くの着服で業務上横領罪に問われているのは、同社元経営戦略局局長の50代男性・田村昌宏被告だ。彼への第2回公判が6月20日、鳥取地方裁判所にて開かれた。 【写真】「キャッシュレス募金」を打ち出す今年の24時間テレビのホームページ。謝罪した水卜アナの“夫婦ツーショット”も 第1回公判で、田村被告は起訴事実を認めた。調書が読み上げられ、横領した金銭は生活費や飲食代、スロット代などに使用したことなどが明かされていた。 この日、第2回公判で行われた被告人質問では、田村被告が横領に至った経緯などが語られた。その主張内容は、信頼回復に向けて尽力しているであろう日本テレビ、日本海テレビの頭を悩ませるような内容だった。裁判ライター・普通氏がレポートする。【全3回の第2回。第1回から読む】 きっかけは「200万円のマイナスを補填」 田村被告はこの日、初公判と同じく法廷に入る際に一礼し、傍聴席にも深々と一礼した。黒いスーツを着こなす姿は、テレビ局に勤務していた頃を想起させる。緊張した面持ちから、どういった事情が語られるのかに注目が集まった。 当時、日本海テレビの経理業務全般を管轄する立場にあった田村被告。問われている罪は大きく2つだ。ひとつは会社の預金口座から合計約470万円を自己の用途で着服したこと。もうひとつは「24時間テレビチャリティー募金」について、自身の口座に10万5000円を入金したことだ。 ひとつめの会社の口座からの着服について、田村被告は捜査機関の取調べで、「飲食やスロットなどに使った」などと使途について供述していた。しかし、今回の公判ではこういった目的を否定し、次のような内容を述べた。 田村被告は複数の銀行口座を有していたが、着服と同時期、親族のために金を貸すことで1つの口座が200万円のマイナス残高となってしまったという。そのマイナスを補填するために会社の口座に金に手をつけたのが、最初のきっかけだったと主張した。 さらに田村被告は、着服した金を日本海テレビの売上や経費の補填のために使い、その明細はエクセルで管理をしていたと語ったのだ。 具体的に補填した例として、田村被告は次のように列挙した。 ・物販会場で、売上とレジ内の金銭が合わなかったときの補填 ・天候でイベントがキャンセルになった際の、シャトルバスのキャンセル料 ・会場のバックヤードが暗いと感じたので、照明の購入 ・イベント会場に来るバイトが1人だと思っていたが2〜3人来たのでその分の人件費 いずれも社として正式に経費精算すべき事項に思えるが、社内の誰にも相談するでもなく自分で決めたという。その理由として「自分が(会社経理を)回している気になりたかった」という独善的な考え方を明らかにした。 自身のこだわりで募金額をコントロールしたかった 弁護人 「チャリティー募金の横領に関しては、経費の捻出というのとまた性格が違うように思えるのですが」 「チャリティー募金」の単語が出ると、傍聴席の記者席の姿勢が明らかに変わった。注目されていることを田村被告が気付いたかはわからないが、それまでと変わらず飄々と供述する。 田村被告 「上の人から呼ばれて、チャリティー募金の集計表に前年比を入れるように言われまして」 弁護人 「それまでは(前年比は)入れてなかったのですか」 田村被告 「実績は入れてましたが、%は入れてませんでした」 弁護人 「それがどう関係が?」 田村被告 「%が出ると、100%以上を目指したい思いが出て」 弁護人 「前年比があなたの人事評価に影響するのですか」 田村被告 「ならないです、自己満足です。上司に変な数字を持って行きたくないと」 自身の数値的なこだわりを反映させるべく、「募金額をコントロールしたかった」と供述する田村被告。昨年度比で大きな募金額となった場合は、ギリギリ昨年を超える程度になる額を着服し、その他の年度で逆に前年を下回ることがあればその補填に使う意図があったという。 また「上司に怒られるのも嫌だった」と漏らす場面もあった。しかし、昨年を下回ると怒られるといった主張をするでもなく、別の質問では「100%を超えると喜ぶんで、そういう顔を見たい」などと答えており、独自のこだわりに過ぎないようだった。 しかし、その「募金額のコントロール」はうまくいかなかったようだ。 現金での直接集計分は銀行入金前に操作できるものの、額の大きい某大手スーパーからは直接銀行に振り込みがなされた。結局、全体の募金額はその大手からの入金額に左右されたという。 弁護人 「実際に募金の補填をしたことはあったのですか」 田村被告 「(経理担当の)2年目のときに10万円をしました」 弁護人 「それで前年比の割合は超えられた?」 田村被告 「超えると思ったのですが、大手がマイナスで100%達成できませんでした」 田村被告によると、募金の着服や補填の増減は、付箋に書いて手帳に貼ることで管理を行っていたという。しかし会社が発表した横領額とは差異があった。 募金の趣旨よりも%を達成したい使命感の方が… 着服した資金を会社に戻していたという田村被告の主張を、この日に初めて聞いたという検察官。細かい横領、補填の手口が確認される。しかし、「結果的にプラマイゼロになればいいと思った」と言い、補填の際に使った領収書等が残っておらず、事実関係が把握できない。 検察官 「横領額を管理していたというエクセルファイルはどうしたんですか」 田村被告 「もうありません」 検察官 「なぜですか」 田村被告 「USBに入れていたのですが、社内調査の際に捨ててしまって」 検察官 「あなたに有利な情報かと思うのに、なぜ捨てたんですか」 田村被告 「今思えばそうなのですが、当時は精神的にパニックになっており色々捨ててしまった」 検察官が「そんなもの、本当にあるんですか?」と聞いたのは本心だろう--次の第3回記事では、田村被告が募金に手をつけるに至った「動機」と、日本海テレビの代表者が提出した田村被告への「怒りの陳述書」の内容について詳報する。 (第3回につづく) ●取材・文/普通(ライター)