上司と部下、先輩と後輩、取引先、夫婦、親子……、いつも会話がすれ違うのは、じつは対話の様式が大きく違っているから。累計100万部超の「トリセツ」シリーズ産みの親が、満を持して書き下ろしたコミュニケーションの秘訣『対話のトリセツ ハイブリッド・コミュニケーションのすすめ』から、注目の章をご紹介！ 『「夫の言動にムカつく」のは思考回路の違いかも…「タテ型思考」と「ヨコ型思考」が相容れないワケ』より続く。 ヨコ型回路の特徴 ヨコ型回路は、周囲を満遍なく把握して、かすかな異変にも気づこうとする回路である。空気の揺らぎまで察知するので、気配さえも逃さない。 ヨコ型回路の「満遍なく把握する」は、目の前のことにとどまらない。とっさに記憶領域に入っていって、ここに至った事情やいきさつ、相手の心情にもきめ細やかに目を向ける。過去の類似事象を芋づる式に想起して、それらを統合して経験知をダイナミックに創生することもある。「そういえば、あのとき。そうそう、あのときも……これって○○じゃない？」のように。 このように情動というトリガー（きっかけ）を使って記憶領域を自在に行き来するので、対話でも当然、感情豊かに過去の記憶を語ることになる。そして、その話は、共感で聞いてもらうことが必須。心置きなく記憶の深層に入っていくことができ、検索速度も俄然上がるからだ。さらに、対話の最終ゴールは、みんなで腹落ちすること（深く共感し合うこと）。個人の腹落ちが、他者の腹落ちを誘えば、それは、直感が正しかった証明になるからだ。 つまり、ヨコ型優先の人にとって「共感」とは、連想記憶の速度と精度を上げてくれるブースター（増幅装置）であり、自分の脳が正しく動いていることの証明でもある。共感があまりにも重要すぎて、こうして説明していても、共感してもらえないヨコ型の気持ちを思って、切なくて胸が痛くなるくらい。 感情で対話をする タテ型起動中の人には、いま一つ、このあたりの「共感への切望」がわからない。共感を単なる合いの手だと思っているから、共感をすっ飛ばして、ダメ出しから口にしてしまうのである。どうか、今ここで、コミュニケーションにおける共感の重要性を胸に刻んでほしい。幼子や年老いた親たちのたわいない話も、せめて第一声だけは共感で受けてあげよう。 対話の目的は「今すべきことを決する」だけじゃない。脳を活性化したり、癒したり、心を通わせたりするためにも、私たちは対話をする。その役割を担うのが、感情たっぷりに過ぎたことを語って、大いに共感してもらう、この対話方式なのである。 ヨコ型優先の人は、「好き、嫌い」（「快、不快」「したい、したくない」）にこだわる傾向もある。「私、嫌なんです」「納得できません」などと言い出したら、タテ型優先の人には厄介だと思われがちだが、「好き、嫌い」のセンサーは、感性検索をうまく進めるための大事なトリガーだ。 これが傍目には、主観的で（全体が見えていない）、話がとっ散らかっている（目的から逸れている）ように見えることも。もとよりヨコ型回路の対話目的は、脳の深層から答えを釣り上げることであって事実の確認じゃない。話は、決して逸れてなんかいないのである。 感情をトリガーに、脳内を自在に行き来して気づきを生み出す、この対話方式を一言で言えば、プロセス指向共感型。感情や情動を基軸に紡がれていく対話なので、英語ではEmotion-Orientedと表現している。 『AIの台頭で人類に残された武器は2つ…激動の時代を生き抜く「鍵」となるのは「感情」と「共感」だ！』へ続く。 【つづきを読む】AIの台頭で人類に残された武器は2つ…激動の時代を生き抜く「鍵」となるのは「感情」と「共感」だ！