未知の「のらくろ」発見…戦前と戦後をつなぐ貴重な作品、掲載の「戦時版よみうり」をデジタル化

「再発見」、デジタル化へ  〈『戦時版よみうり』を閲覧したい〉——2020年11月、読売新聞東京本社の知的財産担当部署に寄せられた1通のメールが、本社内でもほぼ忘れられていた新聞を“再発見”するきっかけだった。  メールの主は九州大学の永島広紀教授(55)。日韓関係史が専門だ。戦時中、日本国内の鉱山や工場で働いた元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)の実態を、当時の記事から探ろうとしていた。  「勤労者向けに発行された『戦時版よみうり』の記事は貴重な資料になる」と考えた永島教授は、まず国立国会図書館で調べたが、所蔵が確認できず、本社に問い合わせたのだった。  ところが、読売新聞の本紙紙面ならば早くからマイクロフィルム化され、今ではデジタル化されているものの、「戦時版よみうり」の紙面はそうした形で残ってはいなかった。  本社の資料庫を精査したところ、発行期間1年1か月のうち、4か月分のみ現物紙面があることを確認。しかし保存状態が極めて悪く、閲覧してもらうのは難しい状況だった。  一方で永島教授は、全国の図書館の収蔵資料を目録化した国会図書館のデータベースから、長野県の県立長野図書館に「戦時版よみうり」の収蔵記録があることを知り、足を運んで調査を進めていた。  永島教授との情報交換を通じ、読売新聞社としても「戦時版よみうり」をデジタル化して保存する必要があると判断。本社は同図書館から特別貸し出しを受け、本社保存分と合わせて「戦時版よみうり」の全面デジタル化に着手した。  すべてのページを慎重にスキャンし、1万5000本を超える記事にキーワードを付与。このほどデータベース化がほぼ完了した。  試行稼働中のデータベースを使用してみた永島教授は、「調査のきっかけとなった徴用工関連の記事をはじめ、瞬時に検索できる。銃後の実情を調べる資料の宝庫と言っていい」と話している。 戦意高揚のための話題中心  「戦時版よみうり」は太平洋戦争の戦況が悪化する中、1944年(昭和19年)3月から45年(同20年)3月まで、勤労者を対象に通常の半分サイズ(タブロイド判)で10万部以上発行された。  創刊号の1面には、〈新聞の決戰型〉〈生産戰士などには、うつてつけ〉と、「創刊のことば」を掲げている。さらに〈わかり易く、明るい新聞〉が〈生産を増し、戰意を振ひ起す〉などと、内閣で言論を統制していた情報局総裁の談話も載っている。当時の新聞は政府と一体で戦意高揚を担っていた。  紙面には、戦況ニュースに交じって、〈お役人も日曜出勤〉〈無駄なし作業から生れ出る新鋭車〉など、生産現場を後押しする話題が並んでいる。  〈ガソリン入れも竹かごで作れる〉という記事も。米国が戦闘機の使い捨て補助タンクの骨組みを軽い竹で作っているという。米軍が?と驚くが、敵に負けず工夫せよ、という意図だろう。機械の改良法や扱い方など現場で役立つ記事も掲載されている。  4コマ漫画「のらくろ」は4面に。そのページ下に「責任」というタイトルで造船会社の意見広告が載っていて、〈もつと飛行機を! もつと舟艇を! もつと彈丸を!〉〈生産遅延は銃後の責任なのだ!〉〈國民の責任を果せ!!〉とある。  漫画のほか、小説や囲碁・将棋、映画評などの娯楽要素も盛り込まれた。人々の数少ない娯楽だった映画紹介にも連日のように紙面を割いており、黒沢明や円谷英二ら、戦後に名をはせた監督の名前も登場する。  また、翌45年になると、原子爆弾やロケットなど将来に出現しそうな新兵器を解説した記事も載っており、当時の一般国民が意外に深い情報を得ていたことがわかる。 未知の「のらくろ」発見  「徴用工」に関する研究が発端となった「戦時版よみうり」の調査は、もう一つの再発見をもたらした。知られざる「のらくろ」の4コマ作品群である。  「のらくろ」は1931年(昭和6年)、大日本雄弁会講談社(現・講談社)の雑誌「少年倶楽部」で連載が始まった。天涯孤独の野良犬が「猛犬連隊」という軍隊に入り、失敗しながらも手柄を立てて出世していくストーリーで、大きな人気を博した。のらくろは大尉まで昇進し、後に除隊。大陸での鉱山掘りに従事するところで10年以上続いた戦前の連載が終わる。41年(同16年)10月の連載終了は軍などの圧力とされる。用紙不足の中で売れすぎる雑誌が問題視され、のらくろの内容も軍隊を揶揄(やゆ)していると見られたようだ。  戦後に雑誌「丸」で連載が復活し、リバイバルブームも起きた。その内容は、のらくろが軍に復帰して活躍し、戦後は探偵や旅館勤めなど職を転々、最後は喫茶店主におさまるというもので、80年(同55年)に完結している。  「戦時版よみうり」の4コマ連載は戦前と戦後をつなぐ作品だが、同紙掲載の「のらくろ」について永島教授が漫画史の研究者と情報交換したところ、専門家や関係者にも存在が知られていないことが判明。日本の漫画史研究の上でも貴重な発見であることから、日本マンガ学会で発表されることになった。  作者・田河水泡(掲載作では「水包」)の長男で東京都立大名誉教授の高見沢邦郎さん(82)も「この新聞連載を父母から聞いたことはない」という。戦後に田河の弟子となった漫画家の山根青鬼さん(89)は「4コマの『のらくろ』は初めて見た。線の太いタッチは戦後の作品に近い」と話している。 8月から閲覧可能に  デジタル化した「戦時版よみうり」は、読売新聞記事データベース「ヨミダス」に収載され、8月以降、戦時版をオプション契約した図書館で閲覧可能になる。ヨミダスは読売新聞の創刊から約150年分、1900万件を超す記事を収載しており、新聞記事データベースとしては日本最大級。毎年約25万件の記事が追加されている。

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