『逮捕状詐欺』を知っていますか。逮捕をチラつかせされて、大金をだまし取られた30代の被害女性は、新たな被害者を生まないでほしい、と犯人とのやり取りの一部始終を明らかにしました。ＬＩＮＥの事情聴取や検事の登場、巧妙な手口が…。 第1の電話「三重県警の捜査2課です」 国内や海外でリサイタルを開くなどして活躍するピアニストの芥川怜子さん（３２）。特殊詐欺事件に巻き込まれ、大金を騙し取られました。事件の始まりは５月１３日。スマートフォンにかかってきた１本の電話でした。 「第一声が『三重県警の捜査２課です』と。わたしの住所をあちらが言ってきたんですね、こちらとしてはそこまで個人情報がばれているということが怖かった。」 三重県警の刑事を名乗る男は、部屋番号まで詳細に把握していました。男は、実際に去年摘発された巨額マネーロンダリング事件の主犯格の名前を持ち出し、芥川さんが事件に加担した疑いがあると説明したといいます。 「（主犯格の男が）『口座を１５万円で購入した』と供述しています、その口座がマネーロンダリングの中心口座として使われていると」 電話番号の一部が「県警本部と一致」 三重県警の刑事を名乗る男いわく、主犯格の男は芥川さん名義の口座を１５万円で買い取り、その口座を使って資金洗浄を行ったと供述したというのです。 かかってきた電話番号は『＋1800592220110』でした。不審に思った芥川さんは電話をしながら三重県警のホームページを調べたところ『0592220110』で、国際電話のような番号で始まる以外は、本部の代表番号と一致していたのです。 「電話番号を調べたら、末尾も警察の０１１０だったり、本当に警察の番号だったのでその段階で私はもう全てを信じ切ったんです」（芥川さん） その後、男は「大阪府警と合同捜査のため捜査を引き継ぐ」などと言い残して電話を切り、数分後、「大阪府警捜査２課のコンドウ」と名乗る女から電話がかかってきました。 第2の電話「大阪府警捜査2課は、録音聴取を行います」ＬＩＮＥで？ 女はＬＩＮＥのビデオ通話に誘導し、芥川さんに手をそろえて座らせ、画面に映るよう求めてきました。やり取りの一部始終が残されています。 「わたくし大阪府警捜査２課コンドウリイサは芥川怜子さんに対する録音聴取を行います。まず初めにお名前をフルネームで教えてください」（コンドウと名乗る女） 名前、住所、学歴、年収など個人情報を事細かに聞きだした後、こう切り出しました。 「我々警察は、芥川さんがお金に困った際に口座を売却した可能性も疑っています。そちらに伴いまして、芥川さんの現在の資産状況を確認させて頂く必要がございまして。預金残高、細かい数字まで教えて頂けますでしょうか」（コンドウと名乗る女） 「悪用などはございません。」と預金額を聞いてきた 「これは悪用とかないですか」（芥川さん） 「悪用などございません。調書に記載させていただきますので」（コンドウと名乗る女） 「１５８万円…８２０８円」（芥川さん） 「次に○○銀行を教えて下さい」（コンドウと名乗る女） コンドウは芥川さんが所持する全ての口座の預金額を聞き出しました。その後、芥川さんがコンドウからＬＩＮＥで送られてきたＰＤＦファイルを開くと…中身は「逮捕状」でした。 被疑者名には芥川さんの名前、罪名は「犯罪収益隠匿罪」と書かれ、「上記の被疑事実により逮捕することを認可する」と記されています。 「ちょっと待って。私逮捕されるんですか？」 「逮捕状も執行されるということなんですね。芥川さんの身柄を拘束した上で、大阪府へ身柄を移送されてしまうということです」（コンドウと名乗る女） 「ちょっと待って。ちょっと頭がついていかないんですけど。この緊急逮捕令状というのは、私逮捕されるんですか？」（芥川さん） 「お電話など捜査協力をしていただいていますし、いきなり逮捕状が執行されるということはございません」（コンドウと名乗る女） 「今回の事件を解決するにあたり、芥川さん自身にかけられている嫌疑をはらしていただくことが最優先事項となってきます。その方法としてなんですけども『資金調査手続き』というものがございまして」（コンドウと名乗る女） コンドウは、資金調査手続きをするためには検察庁につなぐ必要があるなどと説明して電話を終えました。すると、その数十秒後。電話が鳴ります。 第3の電話「大阪地検のカミヤです」 今度は検事のカミヤと名乗る男から電話がありました。カミヤは厳しい口調で芥川さんを追及し始めます。 「かなり大規模なマネーロンダリングであります。４年〜５年懲役刑に行くような刑罰に値する重罪です。あなたの口座でそういう犯罪が行われていることがしっかり確認されております。あなたに対する逮捕状もお見せしましょうか」（検事のカミヤと名乗る男） 「送られてきましたけど…まったく身に覚えがない話なわけです」（芥川さん） 「身に覚えがない？」（検事のカミヤと名乗る男） 「ないですよもちろん、口座なんて売ったこともないですし」（芥川さん） 「あなたのお話を今聞いたところで信用なんて一切できません。それなりの証明がなければ、我々は状況をもとに捜査するものですので」（検事のカミヤと名乗る男） カミヤが求めてきたのは芥川さんの３つの口座に入っているお金を１つの口座にまとめ、金融庁に全額送ること。「紙幣番号」を調査すればいつ・どこで使われたか追跡できるといいます。 ある行為で　カミヤが態度を一変「逮捕状を取り消しましょう」 調査で犯罪への関与が確認できなければ、お金は芥川さんの口座に戻されるということでした。もちろんこうした調査は実際には存在しません。しかし、この時すでにすっかり信じてしまっていた芥川さん。 調査に協力する姿勢を見せるとカミヤはこれまでの強い口調から態度を一変させます。 「あなたのそのお言葉、仮にでも信じてみましょう。本来であれば昼休憩が終わった刑事を午後1時から新幹線のチケットを予約して向かわせるつもりでした。その証明が出せるようでしたら、あなたへの逮捕状を取り消しましょう」（検事のカミヤと名乗る男） だまし取られた数百万円は、1分ほどで海外に消えた そしてこの電話をつないだまま３０分後には。 「（振込日が）本日でお間違いないですかね？会社名・金額お間違いないですか？」（検事のカミヤと名乗る男） 「はい、大丈夫です。いま、振り込みを受け付けました」（芥川さん） 「そちらの画面をこちらに画像でください」（検事のカミヤと名乗る男） 数百万円あった貯金全額を振り込んでしまいました。その後、友人の指摘で詐欺だと気付いたといいます。 「振込先の銀行も警察が凍結してくれたんですけど、（入金した）１分後くらいにはネットバンキングから全て海外に送金されていて、なくなっていたと」 ニセ逮捕状を見た元警察官「絶対あり得ない」 １０年間大阪府警で警察官として働いたこともある平田純一弁護士に今回の手口、例えば、「ＬＩＮＥのビデオ通話で事情聴取することはあるのか」などを聞きました。 「絶対あり得ないです。ＬＩＮＥで被疑者の取り調べをすることは絶対あり得ないです」 ニセの逮捕状にもおかしな点が多くありました。載っている裁判官や警察官らの名前を調べると全て実在しない人物でした。 「逮捕状は、被疑者を身体拘束するときに『直接示すもの』なので、データで送るというのが前提としてあり得ない。」（元警察官の平田純一弁護士） また、偽の逮捕状にはありえない記載もありました。 「逮捕が完了しているんですよね。そのあとの検察官への送致も完了していることになっている。そんなことが先に記載している逮捕状があること自体がおかしい」 「こちらからかけ直す」と対応するのが大事 「『警察です』と言われたとしても、『こちらからかけなおしさせてください』と言うことが大事かなと思います」（元警察官の平田純一弁護士） ピアニストとして働きながら貯めてきたお金をほぼ全て失った芥川さん。身の潔白を証明したいという気持ちから騙されたといいます。いまは新たな被害者をうまないでほしいと強く望んでいます。 ※大阪府警によると、今年1月〜5月にかけて、警察官をかたる詐欺にあった被害者は、40〜60代（144人）よりも、10〜30代（159人）の方が多いというデータがあります。 ▼「ビデオ通話での事情聴取」は絶対にありません ▼「逮捕状をデータで送付」することは絶対にありません