雪解けまでにクマの足跡を見つけ出せ!…”忍者ヒグマ”「OSO18」の神出鬼没な行動に翻弄されるハンターたちの苦悩

道東を恐怖と混乱に陥れた「牛を襲うヒグマ」の正体とは? ハンターの焦燥、酪農家の不安、OSO18をめぐる攻防ドキュメント『異形のヒグマ OSO18を創り出したもの』。 追うハンター、痕跡を消すヒグマ、そして被害におびえる酪農家の焦燥をつづり、ヒグマとの駆除か共生かで揺れる人間社会と、牛を襲うという想定外の行為を繰り返した異形のヒグマがなぜ生まれたのか、これから人間は変貌し続ける大自然とどう向き合えばいいのか。『異形のヒグマ OSO18を創り出したもの』から抜粋・再編集してご紹介! 山の神を「怪物」に変貌させたのは大自然か、それとも人間か? 『この森に怪物ヒグマ「OSO18」が冬眠しているかも…再び捜索に乗り出したハンターを待ち受けていた「試練」』より続く 雪降る中 捜索を始めて1時間後のことだった。赤石の車が前に進まなくなる。 「ちくしょう。カメになっちまった」 車の底面が雪に乗っかってしまい、タイヤが空転する。この状態を彼はカメに例える。抜け出そうと前進と後退を何度も繰り返すが、タイヤが地につかず、脱出できる気配はまったくない。 しばらくすると、無線を聞いた仲間たちの車が、後ろから次々と駆け付けてきた。 空転しているタイヤの付近にある雪を、地道にシャベルで掬い取り、横にどけていく。再びアクセルを踏むが、車は前に進まない。仲間のひとりが自分の車のウィンチからロープを伸ばし、赤石の車に取り付ける。車を勢いよく加速し、引っ張り上げる。赤石も同時に車のアクセルを踏む。空転するタイヤからは雪との摩擦で煙が上がり、焦げたゴムの匂いが漂う。 引っ張る向きを変え、雪を踏み固める。試行錯誤が1時間も続き、ようやく抜け出すことができたのだった。 「——だめだわ、やめよう」 「——今日はもう形跡なしだな」 雪は激しくなる一方で、この日は途中で引き揚げざるを得なかった。 「肝心のいちばん良いときは1週間くらいだから、クマ追えるのは。それが過ぎたらもう全然足跡がなくなってだめだ」 赤石はそう言った。ヒグマは春が近づくと、冬眠から目覚める。赤石の経験則では、冬眠明けから雪が解けきるまでは、わずか1週間しかない。雪が解けきってしまえば、足跡は残されず、追跡は不可能となる。問題は、その1週間がいつ始まり、いつ終わるのか、誰にも予測できないことだった。 彼らは、いつ訪れるかわからない1週間を逃すまいと、毎週欠かさず上尾幌国有林に通った。 リーダーの藤本は、知り合いを通してスノーモービルを手配し、林道に持ち込んだ。車で入っていけない森の奥深くまで探索を行うためだ。森に張り巡らされた林道を、手分けしてくまなく走る。足跡が見つからなくても、数日後に再び同じ道を通り、新しい足跡が現れていないかを確認する。 そんな日々が1ヵ月続いた。 動物の足跡 3月11日、最高気温は3.4度に達する。例年よりも数週間早く、雪が解けきろうとしていた。しかし、不思議なくらいにヒグマの足跡は見つからなかった。 普段は意気揚々と話し合う特別対策班のメンバーたちは、珍しくどんよりとした空気に包まれていた。 「どこ行っても何の足跡もないな。どこ行ったもんだべ」 「でも起きてればどっかに足跡残すよね」 「これだけ雪降ったんだから絶対どっかに残すんだ。それがないんだもん」 「雲隠れの術だ」 「こんな広いところ見て歩けったって無理だもん。よっぽど根性かけないと見れないよ」 仲間たちの話を聞いていた赤石がつぶやく。 「だめだ。場所が違うか……何とも言えんな。雪がもうなくなるから追えなくなる。これならもう何日も持たないよ。雪がないところなんかまるっきりねえもん。なかなかつかめねえよ」 OSO18どころか、ヒグマの足跡がそもそも見つからない。ここまで足跡が見当たらない年は、彼らにとっても前例がなかった。OSO18は、彼らが自分を追跡していることをわかっているのではないか。ハンターたちの気配を察知し、穴の中に身を潜めているようにさえ思えた。 確かに動物の足跡は、森の中に無数にあった。雪が降り積もった林道上を横断している。 それらはすべて、エゾシカの足跡だった。 捜索のあいだ、エゾシカは何度もスノーモービルの先を駆け抜けていった。立派な角を蓄えた1頭のオスジカ、2頭の子を連れた母ジカ、20頭規模の大群。森に響くスノーモービルの轟音に驚き、逃げるように去っていくエゾシカたちの背中が見える。 彼らによると、ハンターに追われた動物はいつも禁猟区に逃げ込むのだという。 そこに行けば撃たれない、ということがわかっているかのように。 『雪道の血痕をたどると無残なバラバラ死体が…“肉の味”を覚えたヒグマ「OSO18」が次々とエゾシカを襲い始めた理由』へ続く 【つづきを読む】雪道の血痕をたどると無残なバラバラ死体が…“肉の味”を覚えたヒグマ「OSO18」が次々とエゾシカを襲い始めた理由

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