仮想敵を作り上げ、メスを入れる手法 FNN(フジテレビ系の報道ネットワーク)が6月18日に公開した「次の首相にふさわしい人」調査では、1位は小泉進次郎農林水産相の20.7%、2位は高市早苗氏の16.4%、3位が石破茂首相の7.9%だった。NHKが6月6日から8日まで行った世論調査で支持政党1位は、自民党の31.6%で、これは前回調査と比べて5.2%増である。2位が立憲民主党の5.8%で、1.8%マイナスだ。 【写真】「ワンフレーズ」で進次郎に対抗可能? 三原じゅん子、高市早苗、赤沢亮正の表情を比べてみた その後に行われた都議選で自民は大敗したものの、上記の2つの結果を見て暗澹たる気持ちになった。この1ヶ月で何があったかといえば、米が高騰する中、江藤拓・前農林水産相が会合で「私は米を買ったことがない」「支援者がくれる」「売るほどある」と発言し国民の感情を逆撫でしたことが発端。そこから事実上の更迭をされ、そこに後任の農水相として颯爽と現れたのが小泉氏である。 福島県を訪れた小泉進次郎農相。人気は鰻登りだ 米の高騰を抑制するため、備蓄米を大量放出し、それを1980円で売るというセクシーな手法を発表すると、民衆は「小泉さん素敵!」「我ら庶民の味方!」と拍手喝采。テレビは常に同氏の動向を追っかけ、備蓄米に並ぶ行列を撮影しては「助かりました」という声を届けた。 小泉氏の「次の首相候補No.1」と「自民党の支持率激増」は結局、氏の米対応が原因だろう。この間、小泉氏は民衆が抱く「米の値上がりの諸悪の根源はJA、ヤツらがピンハネをしたり米を出し渋ったりして価格を吊り上げた」という陰謀論を否定することなく、自身が、そして自民党が徳政を敷いたとのイメージ醸成に成功。小泉氏は過去に「次の首相候補」で上位に入っていたが、環境相時代の「セクシー発言」や「46%発言」「進次郎構文」などの珍発言の多さからいつしか候補から脱落していった。だが、今回見事に復活を果たしたのである。 私自身、「まさか国民はここまでチョロかったか……」と愕然とした。まぁ、コロナ珍騒動の中、マスクをすれば感染しない、と信じ込み国民の99.7%ほどが3年以上マスクをし続けたわけで洗脳するのはラクな相手だ。今回の件は父親の小泉純一郎氏が「自民党をぶっ壊す」「郵政民営化をすれば国民は幸せになる」的なワンフレーズポリティックスで圧勝した2005年の総選挙を思い出す。 一つの仮想敵を作り上げ、そこにメスを入れると拍手喝采されることを息子の進次郎氏もよく分かっているのだろう。備蓄米の大量放出で見事に絶賛キャーキャーコメントを浴びた。もちろん、こうした手法は彼の専売特許ではない。大阪維新の会にしても、「大阪都構想」をぶち上げた。住民投票では負けたが、アレも東京に対して競争意識を持つ大阪府民の自尊心を満たす分かりやすい公約だったといえよう。 「次の首相」が打ち出すべきこと さて、そう考えると「それなりにルックスの良い政治家・閣僚が目立つことを言えば『次の首相候補』になれる」ということである。所詮日本の有権者などその程度のレベルで支持してくれる。というわけで、「次の首相に」と考えているであろう政治家が何をすればいいか、勝手に提案してみる。 福岡資麿・厚生労働相:剣道着の似合う佐賀のイケメンだが、医療と労働という人生において重要な2つの要素に対する権限を持つだけにポテンシャルは感じられる。では何をすればいいか。まず、医療の分野においては国民にとって恐怖の「癌」であり、「癌検査1回無料券」の配布がアリだ。さらに「癌が見つかったら見舞金3万円」もセットにすると、支持率はさらに上がるだろう。 そして、票田である高齢者を獲得するため、「70歳以上で働く人には、手取り金額400万円以下の人限定で1.5%を国からの報奨金として贈呈」をする。これは「生涯現役」や「シニア人材の活用」というきれいな大義名分もできることだろう。 三原じゅん子・内閣府特命担当相:ここも実際に子どもを産み・育てる20〜40代へ支援をするのではなく、高齢者向けの施策を行う。まず、「敬老の日」「母の日」「父の日」「子どもの日」に続く「孫の日」を制定する。そこで、「じいじ・ばあば手当」を作り、高齢者に一律1万円の商品券を配り、「孫の日」に小売店で使えるようにする。 高市早苗氏:保守派からの票を確固たるものにすべく、電撃的に北朝鮮に乗り込み、金正恩氏と会談をし、拉致被害者を返すよう交渉をする——。これはさすがに難しいだろうから、戦後80年の節目として、太平洋戦争の激戦地を10か所巡り慰霊を行う。また、高市氏が認定する「愛国者」を表彰するイベントを行う。 赤澤亮正経済再生相:たびたびアメリカを訪れ、トランプ大統領を含めアメリカのタフ・ネゴシエーターと関税をめぐる交渉を行った実績を引っ提げ、ある程度自動車へのディールで日本有利の状況を作れたら英雄になる。そうなった場合は「ミスター交渉」を名乗り、いかなる交渉事であろうともやり遂げると宣言し、「平和を巡る国同士の交渉も私にお任せを!」とぶち上げる。その第一歩として、「ウクライナの復興支援についてのディスカッション」と題してゼレンスキー大統領と会談をする。 浅尾慶一郎環境相・内閣府特命担当相(原子力防災):電気代高騰のおり、そろそろ反原発活動も3.11以降の盛り上がりはない。原発再稼働に舵を切る。国民生活を守る、原発の安全については万全を期す方策を練り上げた、と綿密なプランを出し、「電気料金を10%下げる!」と宣言する。 今回の小泉氏と自民党の躍進を見て、「この程度のことをやれば国民なんて勝手に支持するんだな」ということがよーく分かった。上記5人の自民党の議員もここまでやれば人気が出るだろう。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部