元気良くおっぱいを飲む、生まれたばかりの豚の赤ちゃん達。数時間前にお母さん豚のベリーが出産した10頭です。 【写真を見る】豚の精液採取、人工授精、分娩も自分達の手で…その先は「嬉しいこと」だけではない 高校生が担う“命の現場” 熊本 出産の現場には、農業高校生達の姿がありました。 「出てきた!出てきた!」 「女の子?男の子?」 生徒「女の子です。やばい、かわいい!」 大喜びの生徒たち。それもそのはず、お父さん豚の精液の採取から、人工授精、そして分娩までの工程をすべて自分達で行ったからです。小さな命の誕生に胸が熱くなります。 3年生 山田未来斗さん「すごい一日で、嬉しいぐらいでは言葉がおさまらない。すごく感動した」 「命の誕生」の舞台裏 2025年で創立122年を迎えた、熊本県の菊池農業高校。通称「菊農」。 東京ドーム7個分の広大な敷地を持ち、生徒達は動物たちの世話をしながら実習や研究に励みます。 豚舎では畜産科学科の3年生8人が約160頭の豚を管理していて、熊本県内の高校で唯一、校内で精液を採取し生徒達の手で人工授精させています。 5月16日、精液採取の授業がはじまりました。 教員「採取をやっていく。ぜひ観察して。なかなか見られない風景なので」 オス豚が部屋に入るとすぐに台の上にまたがりました。その隙に、生徒たちは恐る恐る生殖器に手を伸ばします。 実習教師 山本真生さん「ぐっと握ってあげて、伸ばしてあげるとスムーズに行く。トライアンドエラーで感覚で覚えてほしい。でも挑戦することが大事」 採取した精液は顕微鏡で確認し、専用の設備で保管します。 その4日後… この日はいよいよ人工授精です。生徒がメス豚の上に乗るのは、オスが乗っていると錯覚させるため。メス豚も交配が始まると思い、安心して受け入れる体勢を作ります。 実習教師 山本真生さん「足で(お腹をさする)そうそう、上手」 人工授精には先日採取した精液を使用します。しばらくすると…生徒がホッと一息。無事成功したようです。 担当した生徒「最後の方は逆流してしまったので、う~んという感じ。でも前よりはうまくできたかなと思います」 「命を誕生させている」という実感 他の農業高校では精液を外部から購入することが多いですが、菊農では命の誕生の仕組みを学ぶために、あえて精液採取から生徒たちが取り組んでいます。 山本さん「自分たちが命を誕生させていると、身を持って感じることが大切なので」 動物と生徒との距離が近いのも菊農の特徴。豚舎の清掃、エサやりも生徒たちが担います。水浴びが嬉しいのか、尻尾を左右に振って大喜びです。 ただ、嬉しいことばかりではありません。 母豚ベリー 出産の日 豚は1回の出産で14頭ほどの赤ちゃんを産みます。6月4日、ベリーのお産では10頭が元気に生まれた一方で、2頭は死産でした。 3年生 山田未来斗さん「叩いて。ダメ?冷たい?ああ、ダメだ」 生まれる命もあれば、そうでない命もあるのです。 山本さん「死んだ子もいるからこそ、生まれてきた子を大事にしないと。分かった?あなたの子だよ」 生徒達の目標は、豚を愛情を持って育てて、おいしいお肉を食卓へ届けること。 3年生 北田愛咲さん「出産を全部見ることができたのはうれしい。この子たちを1頭も死なせることなく、お肉にしていけたらいいなと思います」 3年生 山田未来斗さん「子豚は我が子も同然ですから。お母さんのベリーと同じくらい手塩にかけて育て、立派で大きな子にできれば」 『命に感謝』 生徒達の奮闘は続きます。