言いたいことが伝わらない、すぐ怒る……。認知症介護の悩みをぐっとラクにする黄金ルール

認知症の人の介護はトラブルが多く、一筋縄ではいかないものです。さまざまな問題をかかえこみ、経済的にも悩みがつきません。ときにはつらさのあまり、介護をギブアップしそうになるでしょう。 しかし、認知症の人がすんでいる世界を理解すれば、介護をしやすくなるかもしれません。認知症の人は私たちの常識の基準とは少しずれている世界に生きていますが、どんな行動にもその人なりの気持ちや考えがあります。ただ、気持ちをうまく言葉にできないだけです。そして、その気持ちを理解する手がかりはあるのです。 この連載では、 『認知症の人の気持ちと行動がわかる本』 (杉山孝博監修、講談社刊)のエッセンスから、認知症と介護について、正しい知識と情報についてお伝えしていきます。認知症の人の思いやじょうずな介護の方法、利用できる社会制度・サービスを知れば、介護がぐっと楽になるはずです。 今回は、介護をラクにする具体的なコツについて見ていきます。 認知症の人の気持ちと行動がわかる 第14回 『認知症の人の介護を、じょうずに続けるために…医療や公的制度の力を積極的に借りてみよう』 より続く。 感情が残りやすい認知症の人には穏やかに接することが大事 本人の世界を理解して、穏やかな対応をしようと思っても、なかなか簡単なことではないでしょう。「言うことが伝わらない」「すぐに怒る」など、介護者はたいへんな思いをしていますが、本人もつらいのです。 多くの人は、介護に慣れてくれば、徐々に穏やかな介護ができるようになってきます。しかし、それまではやはり疲弊することも多いかもしれません。 少しでも早く介護をラクにしたいなら、認知症の「感情残像の法則」と、「作用・反作用の法則」に、ヒントがかくれています。どういうことなのか詳しく見てみましょう。 ●感情残像の法則 認知症の人は、叱られた記憶はなくなっても、叱られた相手に対するいやな印象だけは残っていることがあります。感情だけがさざ波のように心に刻まれ、長くとどまるためです。 瞬間的に目に入った光景が脳裏に残像として残ることがあるように、できごとの記憶をなくしても、そのとき抱いた感情の波だけが残っていることがあるのです。良い感情も、悪い感情も残ります。 認知症の人は一般常識が通用する「理性の世界」から遠ざかり、「感情が支配する世界」にすんでいるといえるでしょう。 ●作用・反作用の法則 認知症の人の反応は、介護者の対応の「鏡」です。介護者が優しく穏やかに接すると、認知症の人も、優しく穏やかに反応してくれるものです。認知症の人を強く叱ったり責めたりすると、強い反発が返ってきます。 これは認知症特有の症状というわけではなく、誰でも同じように反応するものです。強い言い方を避けるとともに、本人のプライドを尊重するような言い方も大事です。 これを知っておけばうまくいく。介護をラクにする4つのコツ つまり、よい感情を与えるようにしたほうが、結局、介護者をラクにするということです。そのためのコツを4つ挙げてみましょう。 ❶ほめる・感謝する なにがあっても、失敗しても、「じょうずね」「ありがとう」の言葉を忘れずに言いましょう。例えば、認知症の人が、洗濯物が乾いていないのに、とりこんでしまったら。「まだ乾いていないでしょ」「洗い直しになる!」と言ったら、状況が判断できない認知症の人は、「手伝ってあげたのに怒るなんて、いやな人だ」という印象をもってしまいます。 「手伝ってくれてありがとう。あとは私がやりますから、お茶をのんでひと休みしてください」と言うほうがいいです。 ❷同情する 話の内容が矛盾していたり、愚痴ばかりだったりしても、訂正したり、教えこんだりしないほうがいいです。「ああ、そうですか」「たいへんでしたね」と、あいづちをうちましょう。そのほうがラクですし、認知症の人にしてみれば、話をよく聞いてくれる人という印象になります。 ❸共感する 話の終わりに「よかったね」をつけ加えます。例えば「ご飯がおいしかったの。よかったね」という具合です。「雨があがって晴れましたよ。よかったね」など、話の内容がなぜよかったのか、言うほうがわからなくてもかまいません。 言いつづけることで共感の気持ちが伝わり、認知症の人は穏やかになってくるはずです。これは�のほめる・感謝する、�の同情する、よりも実行しやすいでしょう。 ❹謝る・事実でなくても認める・演技する 認知症の人にとって、本人の記憶になければ本人にとって事実ではありません。認知症の人にとっての事実は、周囲の人にとっての事実ではなく、本人が思いこんだことです。いくら事実ではないと言っても、通じません。かえってこだわりが強くなって混乱するだけです。 例えば「ご飯を食べていない」と言うなら、本人の思いこみをいったん受け入れて、「ごめんなさい。今したくをしているので、もう少し待っていて」と言うほうが、波風が立ちません。「そんなうそはつけない」という人は、本人の世界のなかで俳優になって演技をしましょう。 本人が存在しているであろう時代や状況を想像してみます。その場面に合うシナリオを考え、相手役を演じます。ときには悪役、ときには正義のヒーローに扮します。感情残像の法則にあるように、残る感情はよい感情であるほうが、介護が早くラクになります。 *演技のしかたの例� 夜中に部屋から大声で「助けて!」と聞こえました。「部屋に犬が入ってきた」と妄想が始まりました。 → 介護者は助けにきた人 妄想だと受け入れ、その場で「わかった! 犬が入ってきたのね。みつけて追い出してくるわ!」と演技をしましょう。少しして「私が追い出したから、もう大丈夫!」と言えば、安心します。 *演技のしかたの例� ヘルパーさんの顔がわからなくなり、突然「どちらさまでしたか?」と言い出し、ヘルパーさんは困ってしまいました。 → ヘルパーさんはお友だち 知らない人が家にいることが不安なのでしょう。ヘルパーさんだと説明するより、笑顔で「お友だちが遊びに来てくれたのよ」と言うことに。ヘルパーさんにも演技をしてもらいます。 家族を施設に入れてもいいのか? 罪悪感をもたなくていい 家族を施設に預けることに対し、「本当に施設に入れていいのだろうか」と罪悪感をもつ人はいます。施設入所に心理的なハードルがあるのは確かです。 自宅でみたいなら、工夫と努力で可能です。しかし、核家族化が進み、家庭での介護は配偶者など、ひとりの手に負担が集中しがちです。介護者が共倒れになっては元も子もありません。また、認知症の人にとって自宅にいるのがいいとは言いきれません。家族がケンカばかりしていては、認知症が悪化します。 例えば、子どもの保育は保育所、教育は小中学校など、教育は社会化されています。医療も看護も同様です。介護は社会化されなかった最後の領域です。しかし、ようやく介護も社会化されてきました。認知症は社会の大きな問題なので、社会でみなければなりません。ですから、介護サービスを利用するのは、まったく悪いことではないのです。 【前回の記事を読む】認知症の人の介護を、じょうずに続けるために…医療や公的制度の力を積極的に借りてみよう

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