長男が不登校、「教師の子なのに」「学校というレールに戻さねば」…誰にも相談できず悩んだ父

大人のひきこもり<1>  ひきこもりの人を支える家族(ケアラー)の負担増が課題になっている。  長期化、高齢化に伴う心身の疲弊、経済的な不安などで、将来を見通せずにいる。約30年ひきこもる40代の長男と暮らす70代の男性に話を聞いた。  「行ってくるよ」。毎朝午前9時頃、男性は、長男の部屋のドアの前で声をかける。返事があることは少ない。車に乗って海辺などへ向かい、車内で1〜2時間、好きな作家の本を読むなどして時間をつぶす。帰り道はスーパーで買い物をして、昼過ぎに家に戻る。  「家に誰もいないと、息子は自分の部屋から出て、居間などで気ままに過ごす。そうした時間をできるだけ増やしてあげたい」。男性はそう言って、30年近くひきこもっている長男を気遣う。 ◇  長男は小学6年の時、転校した学校になじめず、朝になると「おなかが痛い」と言って休むようになった。朝は体調が悪くても、昼過ぎには良くなることが多い。ある日、自宅を訪ねてきたクラスメートに「ずる休みをしてさぼっている」と言われて以来、一日中、部屋のカーテンを閉めっぱなしにするようになった。  「不登校は恥。学校というレールに戻さなければいけない」。元教師の男性と妻は、そう考えていた。仕事にやりがいを感じ、情熱を注いでいた時期。「教師の子どもなのに」という体面を気にして、誰にも相談できず悩んだ。むしろ、「なぜ学校に行かないのか」「立派な大人になれない」と、長男を責めた。  〈内閣府の2022年調査によると、15〜64歳のひきこもりは推計146万人。NPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」が24年に実施した家族調査では、ひきこもりのきっかけ(複数回答)は多い順に、「学校での人間関係」(50%)、「学校でのいじめ・暴力など」(29%)、「家族関係」(25%)。「わからない」も16%だった〉  長男の不登校は中学生になっても続いた。精神的な疾患を疑い病院へ連れて行くと、医師に「病気ではないが、親子関係を見直す時間が必要」と言われた。1週間ほど入院させたが、拘束着を着用させるなどと脅され、医師と医療に対する不信感を植え付けただけだった。  意向も聞かずに入学させた通信制高校には7年ほど在籍した。しかし、単位を取れずに自主退学。その頃から、自宅の壁や扉に穴を開けたり、物を壊したりして、暴れるようになった。  「何かきっかけがあれば、レールに戻れると考えていたのだが……」  〈親が焦燥感からひきこもりの子どもを外に出そうとして、かえって長期化するケースは多いという。家族支援に詳しい白梅学園大名誉教授の長谷川俊雄さんは「子どもを変えようとするのではなく、親の不安を軽減する『親支援』が重要だ」と指摘する〉  男性の仕事ぶりが評価され、教頭を務めていた時のことだ。PTAの役員から「先生の子育ての話をしてほしい」と講演依頼を受けた。「不登校の息子がいる自分に、子育ての参考となるような話などできない」。適当な理由をつけて辞退し、その後、校長に一般教員への降格を願い出た。何もかもがうまくいかなかった。  〈KHJの24年の家族調査では、ひきこもりの長期化、当事者の高齢化が顕著だ。ひきこもり期間が10年以上にわたるケースは51%にのぼり、当事者の平均年齢は35・6歳だった。こうした中、78%が家族への支援を求めた。ジャーナリストの池上正樹さんは「高齢の親が認知症になったり病気で亡くなったりして、中高年のひきこもり状態の人の生活が突然揺らぐ事態が生じている。医療や福祉制度につながらないケースも多く、親や子を孤立させず、支援や相談の場につなぐ必要がある」と話している〉

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