凶暴ヒグマ「OSO18」は「デントコーン畑」に潜んでいる!?…牛の襲撃時期から推理して考えた「新たな捕獲作戦」

道東を恐怖と混乱に陥れた「牛を襲うヒグマ」の正体とは? ハンターの焦燥、酪農家の不安、OSO18をめぐる攻防ドキュメント『異形のヒグマ OSO18を創り出したもの』。 追うハンター、痕跡を消すヒグマ、そして被害におびえる酪農家の焦燥をつづり、ヒグマとの駆除か共生かで揺れる人間社会と、牛を襲うという想定外の行為を繰り返した異形のヒグマがなぜ生まれたのか、これから人間は変貌し続ける大自然とどう向き合えばいいのか。『異形のヒグマ OSO18を創り出したもの』から抜粋・再編集してご紹介! 山の神を「怪物」に変貌させたのは大自然か、それとも人間か? 秋に現れるミステリーサークルの正体 2022年9月となった。標茶町を貫く国道272号線に沿って、背丈の高い穀物が生い茂っていた。 牛の飼料用トウモロコシ「デントコーン」だ。収穫を迎える秋になると、3m近くに達する。牧草よりはるかに多いカロリーが含まれるため、摂取すると、搾乳牛が出すミルクの量は飛躍的に増える。牛にデントコーンを食べさせることは、酪農経営にとって、効率的に生産力を向上させる方法だった。 藤本は、被害地点をプロットしたグーグルアースの衛星地図を見ている際、多くの被害現場の周囲に、このデントコーン畑があることに気付いた。衛星写真を見ると、緑色をしている牧草地とは異なり、茶褐色の土地が、標茶町と厚岸町の酪農地帯に点在していることがわかる。それがデントコーン畑だった。デントコーン畑とOSO18の出現場所には深い関係があるのかもしれない。藤本は、OSO18捕獲対応推進本部に参加している両町の農協職員に、各地のデントコーン畑でドローン調査を行うよう依頼した。 広大な畑を上空から観察すると、直径数メートルほどの円形の跡がいくつも確認できた。その跡の部分だけ、バタバタとデントコーンが倒れている。毎年秋になると、畑の中に必ず不規則な円形の跡が現れることから、酪農家たちは決まって「ミステリーサークル」に例える。この円形の跡こそ、ヒグマの食べ痕だった。 デントコーンを食べることで、効率的に栄養を摂取できる。それは、牛だけでなくヒグマにとっても同じだった。普段、ヒグマが食べるものの多くは、木の実や山菜など、山に自生する草本類が主である。ところが、そうしたものに比べて、デントコーンははるかにカロリーが高い。それだけでなく、秋のデントコーン畑は、まったくといっていいほど、見通しが利かない。人里はヒグマにとってはハンターに出会う可能性の高い危険な場所だが、デントコーン畑であれば身を隠しながら、安全に餌を食べ続けることができる。デントコーン畑は、ヒグマにとっても効率的に栄養を摂取できる、恰好の餌場だったのだ。 もともと人里とは距離を置きながら、森の中で暮らしていたヒグマだったが、近年、高カロリーな食材が人里に植えられていることに気付き、森から下りてくるようになった。毎年デントコーンが実る秋になると、牧場周辺にはヒグマの目撃情報が相次いでいた。 OSO18も、秋にはデントコーンを食べているのではないかと藤本は読んでいた。デントコーンを食べ続けていると仮定すれば、牛の被害がぱたりと止むことと辻褄が合う。秋になったら、いくらでもカロリーの高い食糧が手に入るため、危険を冒して牛を襲う必要がない。町内に点在するデントコーン畑をしらみつぶしに調べていくことで、運が良ければ、デントコーンを食べている最中のOSO18を発見できるかもしれないと考えたのだった。 クマにGPSを取り付けて調査 ドローン調査は、9月中旬から下旬にかけて2週間続けられた。ミステリーサークルは無数に見つかったが、ヒグマそのものが見つかることはなかった。 藤本は、むかし調査を行ったひとつのデータを思い出した。自ら理事長を務めるNPO南知床・ヒグマ情報センターでは、2009年から北海道大学大学院、NTTドコモと共同で、ヒグマの発信器調査を始めた。藤本と赤石が開発した箱罠でヒグマを生け捕りにし、麻酔で眠らせ、GPS付き携帯電話を搭載した首輪を取り付け、リアルタイムで位置を把握できるようにした。ヒグマの目撃情報の増加や、人身事故の発生を期に、その行動を把握しようとしたのだ。 とくに興味深かったのが、2014年に浜中町で捕らえたオスの成獣だった。発信機を取り付けたその個体は、浜中町、厚岸町、標茶町、鶴居村、根室市などを縦横無尽に行き来し、その距離は、3ヵ月で合計650kmに達した。これは東京から岡山と同等の距離である。ヒグマがこれほどの距離を歩くことが判明したのは、ヒグマの研究史上でも初めてのことだった。 もうひとつ興味深かったのは、歩き続けていたその個体が、秋になると、とあるデントコーン畑でずっととどまっていたことだった。その場所は、2019年7月16日、OSO18が最初に牛を襲った標茶町下オソツベツの郄橋牧場から、わずか5kmの地点にあった。 標茶町コッタロにある大倉牧場。周囲を山林に囲まれており、ヒグマが身を隠しながら近づいてデントコーンを食べ、再び山へと戻っていくには、最適な場所だった。GPSを取り付けた成獣が、秋にデントコーンが実ってから刈り取られるまでの間、ずっとそこにいた理由も頷ける。 もし、そのヒグマにとって、大倉牧場のデントコーン畑が居心地の良い空間であったのなら、同じヒグマであるOSO18にとっても好都合な場所ということになる。 OSO18が最初に牛を襲い始めた7月は、デントコーンが実っていない季節だ。好んでいた場所だったが、季節的にデントコーンを食べることができず、牛を襲い始めたのかもしれなかった。 『この森に怪物ヒグマ「OSO18」が冬眠しているかも…再び捜索に乗り出したハンターを待ち受けていた「試練」』へ続く 【つづきを読む】この森に怪物ヒグマ「OSO18」が冬眠しているかも…再び捜索に乗り出したハンターを待ち受けていた「試練」

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