「大学生ドラフト候補」150キロ超を連発する剛腕も…なぜか高校時代はエースじゃない投手が多い…スカウトが明かす、その理由は?

投球練習で既に160キロ超え  6月9日から16日まで行われた全日本大学野球選手権は、東北福祉大の7大会ぶり4度目の優勝で幕を閉じた。大学野球における1年で最大の大会であり、多くのドラフト候補が出場することから、NPBはもちろんMLBのスカウトも連日、神宮球場と東京ドームへ視察に訪れていた。今大会は、投手にドラフト候補が多く、しかも高校時代はエースではない投手が活躍した点が印象的だった。主な投手を並べてみると、以下のような顔ぶれになる。【西尾典文/野球ライター】 【写真】スピードが武器の東北福祉大・堀越啓太投手の姿 ・工藤泰己(北海学園大4年・北海出身) 最速159キロを誇る本格派右腕。高校時代のエースは木村大成(ソフトバンク2021年ドラフト3位) ・高谷舟(北海学園大4年・札幌日大出身) 工藤泰己とともに注目の150キロ右腕。高校時代のエースは前川佳央(日本大) ・堀越啓太(東北福祉大4年・花咲徳栄出身) 150キロ台中盤のスピードが武器の剛腕。高校時代のエースは松田和真(東洋大) ・滝口琉偉(東北福祉大4年・日大山形出身) 最速155キロをマークしたリリーフ右腕。高校時代のエースは斎藤堅史(東北公益文科大) ・大森幹大(東北福祉大4年・東海大相模) 先発、リリーフをこなす万能タイプの右腕。高校時代のエースは石田隼都(巨人2021年ドラフト4位) ・赤木晴哉(佛教大4年・天理出身) 身長190cmの大型本格派右腕。高校時代のエースは達孝太(日本ハム2021年ドラフト1位) ・大矢琉晟(中京大4年・中京大中京出身) 全日本大学野球選手権2回戦、近畿大を相手に7回無失点。高校時代のエースは畔柳亨丞(日本ハム2021年5位) ・沢田涼太(中京大4年・享栄出身) 身長190�、体重93�の超大型左腕。高校時代のエースは肥田優心(亜細亜大)  このなかでも、堀越啓太(東北福祉大)は、ドラフト1位候補として注目が高い大型右腕だ。投球練習では、既に160キロを超えており、今大会でも150キロ台中盤ストレートを連発するパワーピッチングで、2回戦で東日本国際大を相手に6回を投げて無失点、10奪三振と快投を見せた。 全日本大学野球選手権のホームページ  工藤泰己(北海学園大)も、スピードでは負けていない。少し制球には不安が残るものの、今年3月に行われた巨人三軍との交流戦で158キロをマークして、話題になっている。 高校野球と大学野球の大会システムの違い  この春一気に、スカウト陣による評価を上げてきたのが、佛教大・赤木晴哉だ。長身でスピード、コントロールともに高いレベルにあり、1回戦の東農大北海道オホーツク戦では最速153キロを記録。5回を1失点にまとめて、全国大会での初勝利をあげている。彼らも高い順位でドラフト指名を受ける可能性が出ている。  その他に名前を挙げた5人についても、大学4年間で着実に成長しており、ドラフト候補と呼ぶのに十分な実力を備えていることは間違いない。  一方、2年生投手では、磯部祐吉(中京大・享栄出身)も高校時代は東松快征(オリックス2023年ドラフト3位)に次ぐ二番手に甘んじていた。サイドスローから150キロを超えるスピードをマークして、全国大会で通用する実力を示した。  今大会は、2回戦の近畿大でリリーフで登板。1回1/3を投げて、2奪三振に抑えたほか、準々決勝の福井工業大戦は先発で起用され、7回1/3、1失点の好投を見せた。早くも再来年のドラフト有力候補に浮上しつつある。  こうして見ていくと、高校時代に悔しい思いをした投手たちが、大学進学後に眠っていた才能を開花させているのか、よく分かるだろう。  では、その理由はどこにあるのだろうか。まず大きいのが、高校野球と大学野球の大会システムの違いである。  高校野球の場合は基本的に負けたら終わりのトーナメントで行われており、そうなると、ボールの力はあっても安定感に乏しい投手よりも、多少スピードはなくてもよりまとまりがあり、試合を壊さない投手が重宝される。  このようなタイプの投手は、もちろん、大学入学後に球速がアップして、ドラフト候補となるケースはある。東北福祉大で胴上げ投手になった桜井頼之介(4年・聖カタリナ出身)や青山学院大のエース、中西聖輝(4年・智弁和歌山出身)といった今大会で見事な投球を披露した投手だ。  大学野球はリーグ戦で行われており、多くの投手が必要となる。時には、プロ野球でいえば「敗戦処理」のような起用法もある。そういう役割から、重要な試合を任せられるポジションをつかみやすい。 選手の将来に目を向ける指導者が増えている  一方、NPB球団のスカウトは、以下のような見解を示している。 「球数制限が導入されたことで、最近では高校野球でも複数の力のある投手を抱えていることが多く、“絶対的なエース”は少なくなっているように思います。甲子園常連校は、140キロ以上の投手が何人もいることも珍しくありません。背番号は二桁だけど、力はエースと変わらない投手が増えていると感じています」  さらに、こう続ける。 「それと大きいのは、指導者の意識の変化ではないでしょうか。高校ではまだ体ができていないような投手には無理をさせず、卒業後に花開けば良いという考え方をする指導者が増加しています。どの強豪校もトレーナーが選手のトレーニングを教えています。彼らは選手の将来を考えて、無理なことはしないので。そういう役割の人が増えていることも大きいですよね。あともう一つ言えるのは、プロに行くような選手と一緒に練習していると、どれくらいまでレベルアップすれば良いか基準が分かる。これは同級生に限らず、先輩を見てというのもありますね。高校でも大学でも毎年のようにプロに選手を輩出しているようなチームは、このようなサイクルが上手く回っているのではないでしょうか」  筆者が、高校野球の現場を取材していても、指導者から選手に対して「今はまだまだ力がありませんが、大学で伸びると思います」といったコメントをよく耳にする。 “目先の勝利”だけでなく、選手の将来に目を向ける指導者が増えていることは望ましいことだ。ここまでは大学生投手を中心に話を進めてきたが、最後に大卒投手が独立リーグに進んで、大きく伸びるケースにも触れたい。  前出のスカウトは、独立リーグが大卒投手の成長に大きな役割を果たしているという。 「社会人野球の企業チームだと、(全国大会の)都市対抗出場が至上命題となっており、投手の完成度が求められる。大学では粗削りだった投手は、社会人野球に進むと、苦しむことが多いですね……。逆に、独立リーグは選手をNPBに送り出すことが重要ですし、試合数が社会人野球に比べて多いので、発展途上にある投手でもチャンスがある。このような投手は、投球が上手くまとまり、大きく成長することがあります。どちらが良いとは一概には言えませんが、NPBを目指すのであれば、独立リーグが合っている選手もいますね」  今年の独立リーグでは、東海大相模時代は控え投手で、国際武道大やバイタルネットで目立った成績を残していなかった冨重英二郎(BCリーグ神奈川)が大きく成長し、今秋のドラフトで有力候補に浮上している。  近年、独立リーグからのNPB入りは増加しており、選手にとってNPBを目指すための選択肢が増えたことは喜ばしい。選手によって伸びる時期と、特性に合った環境が異なるのは当然のこと。今後もより多くの選手が、才能をあますことなく花開くような野球界になることを望みたい。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部

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