失言は政治家だけではない…プロ野球界で物議を醸した4つの“不適切発言” 「巨人のユニホームを着た審判をお立ち台に上げてやれ!」ほか

 “令和の米騒動”をめぐり、江藤拓前農相の「コメは買ったことがない」、国民民主党・玉木雄一郎代表の「(備蓄米は)1年経ったら動物の餌」など、政治家たちの相次ぐ不適切発言が顰蹙を買った。一方、プロ野球界でも、過去にはオーナー、監督、選手たちの不適切発言が何度か俎上に載せられている。【久保田龍雄/ライター】  *** 【写真特集】野村監督、長嶋監督は何位? プロ野球監督別リーグ優勝回数ベスト10ランキング 「たかが選手が」  2004年の球界再編問題の流れを大きく変えてしまったのが、巨人・渡辺恒雄オーナーの「たかが選手」発言である。  同年6月の近鉄とオリックスの合併承認後、7月7日のオーナー会議で「もうひとつの合併」も水面下で進んでいることが明らかになる。10球団による1リーグ制移行という球界再編の動きが急速に進むなか、ファンや選手の声を無視するようにしてどんどん話が進められていることに不信感を抱いた古田敦也労組プロ野球選手会会長は「オーナーと直接話をする機会を持ちたい」と要望した。 「たかが選手が」発言で世間を的に回すことになった巨人・渡辺恒雄オーナー  これに対し、渡辺オーナーは翌7月8日、報道陣を前に 「無礼な! 分をわきまえなきゃいかんよ。たかが選手が。立派な選手もいるけどね。オーナーと対等に話をする協約上の根拠はひとつもない」  と一刀両断にする。  発言の後半部分でフォローしているものの、「たかが選手が」のインパクトがあまりにも強烈だったことから、その部分だけが切り取られ、世間を敵に回してしまう。  ファンはもとより、ふだんプロ野球に関心のない人々も1リーグ制移行阻止で一致団結し、古田会長や選手会に「頑張れ」と熱烈なエールを贈る。その後、渡辺オーナーは8月にドラフトの目玉・一場靖弘投手(明大)への「栄養費」問題で辞任。“旗振り役”の退場で再編問題もトーンダウンし、9月の史上初のストライキ、新球団・楽天の参入を経て、セパ12球団による2リーグ制が存続されることになった。 「たかが選手が」発言は、そのきっかけをつくった言葉として今も記憶されている。 セ・リーグ会長の逆鱗に触れた野村監督の“不適切発言”  審判への不適切発言が問題になったのが、ヤクルト時代の野村克也監督である。  1994年5月21日の巨人戦、4対3とリードのヤクルトは8回2死二塁のチャンスで、飯田哲也が橋本清の初球、外角低めフォークをストライクに取られたことが、伏線となる。  飯田は「あれがストライクなら、毎日完全試合できる」と不満をぶちまけ、野村監督も抗議したが、判定は変わらず、ヤクルトは無得点に終わった。  試合後、野村監督は「あんまり言いたかないが、13対9で戦わないかんのだから大変だよ」とあたかも審判4人が巨人とグルであるかのようなコメントを口にしたが、この発言が川島廣守セ・リーグ会長の逆鱗に触れてしまう。 「プロ野球の公正さを疑わせる意味で、不謹慎のそしりは免れず、極めて遺憾」  と善処を求められたヤクルトは、桑原潤オーナーが川島会長を訪問して陳謝。球団から叱責を受けた野村監督も「想像と推測でモノを言ったのは、反省している。口を滑らせて、言ってはいけないことを言ってしまった」と自らを戒める羽目になった。  97年には、広島・三村敏之監督も、6月15日の巨人戦で不利な判定をきっかけに逆転負けを喫した試合後、「巨人のユニホームを着た審判をお立ち台に上げてやれ」と当該審判を皮肉った。この不適切発言に対し、前出の川島会長は「事実なら、審判への侮辱だ。スポーツマンらしからぬ言動」と問題視。これを受けてセ・リーグは同17日、三村監督に制裁金20万円のペナルティを科している。 「アイ・ドント・ライク・ノウミサン」  ジョークめかして口にした言葉がチームメイト批判と受け止められ、チーム内での立場を悪くしたのが、阪神の助っ人、マット・マートンである。  2012年6月9日のオリックス戦、ライトを守っていたマートンは、1点ビハインドの4回2死二塁のピンチで、斎藤俊雄の右前安打を処理した際に、前進守備だったにもかかわらず、緩慢な動作で三塁方向にそれる送球をしたため、二塁走者・大引啓次の生還を許したばかりでなく、打者走者の斎藤まで二進させてしまう。このプレーで試合の流れを失った阪神は1対6と完敗。先発・能見篤史は負け投手になった。  試合後、報道陣から「本塁で刺す気があったのか?」と尋ねられたマートンは、「レット・ゼム・スコア」(敵に得点させてやったんだ)」とヤケクソ気味に答えた。さらに「ニルイ、ドウゾ、アイ・ドント・ライク・ノウミサン(能見さんが嫌いだから、二塁もプレゼントしてあげた)」と笑えないジョークを口にした。  実は、マートンの問題発言は、試合後のミーティングで緩慢プレーを謝罪したにもかかわらず、報道陣からもしつこく追及されたことで内心ぶち切れ、つい口をついて出た言葉だった。  直後、「自分のミス。ボールに行くのが遅かった。しっかり投げていればアウトだった」とフォローしたが、時すでに遅し。公の場でチームメイトを公然と「嫌い」と言ってしまったことで、能見との間でわだかまりのようなものが芽生えてしまう。  だが、真面目で心優しい助っ人は、何とか仲直りのきっかけを掴もうと、以来、ずっとその機会を待っていた。  そして、翌13年4月9日の巨人戦で自ら決勝タイムリーを放ち、完封勝利の能見とともにお立ち台に上がると、「ノウミサン、アイシテルー!」と言いながら、笑顔で抱きついた。    能見も「イヤ、ちょっと照れくさいですけど……」とはにかみながらも、「必ず打ってくれると思っていた。ナイスバッティング!」とエールを贈り返し、スタンドの大喝采を受けた。  たとえ不適切発言であっても、本人の努力と気配りで状況を改善させることが可能であることを教えてくれたという意味でも、好感の持てるエピソードである。 久保田龍雄(くぼた・たつお) 1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘!激突!東都大学野球』(ビジネス社)。 デイリー新潮編集部

もっと
Recommendations

【都議選2025】東京都議選 推定投票率9.19%(午前11時)

参院選の前哨戦ともされる東京都議会議員選挙は、22日朝から投票が行…

イスラエル・ネタニヤフ首相「アメリカの大胆な決断は歴史を変える」 イラン国営テレビ「中東地域にいる全てのアメリカ国民と米軍関係者が正当な標的」

アメリカのトランプ大統領は、アメリカ軍がイランの核施設3か所に攻撃…

トランプ大統領「イランの主要な核施設に大規模な精密攻撃」…ホワイトハウスで演説

【ワシントン=淵上隆悠】米国のトランプ大統領は21日夜(日本時…

【 工藤静香 】 「来週末から皆さんと同じ空間で歌を聴いていただけるのが楽しみ♥イェーイ」 リハーサルの模様を投稿

工藤静香さんが自身のインスタグラムを更新。ツアーリハーサルの歌唱…

揉めごとで家にも入れず…怒りに任せ交際相手の車を足蹴り 女(51)を現行犯逮捕 札幌市

札幌・厚別警察署は2025年6月22日、器物損壊の疑いで住所・職…

「蹴ったり殴ったりして悪いことをしました」同居の叔母を殴った男(24)を逮捕 北海道白老町

北海道・苫小牧警察署は2025年6月22日、白老町の無職の男(2…

飲酒し口論となった末の犯行か…自宅で妻の首を絞めけがさせる 男(50)を現行犯逮捕 札幌市

札幌・北警察署は2025年6月21日、北海道石狩市の会社員の男(…

スマートフォンに小型カメラ接続 10代女性のスカート内を盗撮しようとし男(40)逮捕

札幌・中央警察署は2025年6月21日、性的姿態等撮影未遂の疑い…

敷地内の雑草を燃やしていたら…倉庫が全焼 住宅も一部焼ける 北海道枝幸町

北海道枝幸町で2025年6月21日、倉庫と住宅の一部が焼ける火事…

「コンロに火が…消すことができない」住宅の台所が焼ける けが人なし 北海道旭川市

北海道旭川市で2025年6月21日深夜、住宅の台所が燃える火事が…

loading...