この世界には「移動できる人」と「移動できない人」がいる。 日本人は移動しなくなったのか？ 人生は移動距離で決まるのか？ なぜ「移動格差」が生まれているのか？ 発売たちまち３刷重版が決まった話題書『 移動と階級 』では、通勤・通学、買い物、旅行といった日常生活から、移民・難民や気候危機など地球規模の大問題まで、誰もが関係する「移動」から見えてくる〈分断・格差・不平等〉の実態に迫っている。 （本記事は、伊藤将人『 移動と階級 』の一部を抜粋・編集しています） 都市に出る女性、地元に戻らない女性 移動をめぐるジェンダー格差が存在するのは、自動車やインフラだけではない。 2010年代半ば以降、国はまち・ひと・しごと創生（地方創生）を進めてきた。これは、政府主導で地域が自律的・持続的な社会へと変化することを促す取り組みである。端的に言えば、人口減少の克服と地域活性化を目指した一大国家プロジェクトだ。 地方創生は、政府に近い民間団体によって示された「消滅可能性自治体」問題を解決するという側面をもって始まった。消滅可能性自治体とは、20〜39歳の女性人口が2020年から2050年までの30年間で50％以上減少する自治体を指し、これらの自治体は、その後、人口が急減し、最終的に消滅する可能性があるというわけである。 しかし、開始から10年以上が経つものの、なかなか成果はあがっていない。では、どうすればいいのか。子どもがほしいと思える社会、子どもがほしいと思う人や既に子どもを育てている人たちが、もっと子どもを育てたいと思える社会を実現することが鍵となる。 特に、地方創生では消滅可能性自治体の多い地方において、出会いや結婚、出産、育児というサイクルをつくるべきとされているが、現実には「地方には働きがいのある仕事がない」「地域での役割を押し付けないでほしい」などの声が多く、結果的に東京への転入超過数が男性よりも女性が多く、その後、地元へと戻らないという構造的問題が生じている。女性のほうが男性よりも移動の自己決定が難しい状況にあるにもかかわらずである。 では、東京をはじめとする大都市への女性の流出を防げばいいのだろうか。問題はそう単純でない。地方で生まれ育った人を、地域から出ないように定住を強制することは制度上不可能であるし、それこそ移動や居住の権利を阻害する。 そこで期待されているのが、女性の地方移住である。なかでも、もともと地元とつながりがあって、ボリューム的にも多いとされる「Uターン移住」が期待されている。 実際、若年層が東京圏に集中する中で、内閣府の調査によれば、東京都在住者は若い世代ほどUターン希望割合が高く、特に女性でその傾向が顕著であるという。そのため、進学で故郷を離れた者の多くが初職を得る20代という若い時期こそUターン移動を増やすチャンスであり、若い世代がUターン後にその地域で結婚すれば、その後の定住にもつながる可能性が高いというわけである。 本記事の引用元『 移動と階級 』では、意外と知らない「移動」をめぐる格差や不平等について、独自調査や人文社会科学の研究蓄積から実態に迫っている。 【つづきを読む】この世界には「移動できる人」と「移動できない人」に大きな格差があるという「深刻な現実」