目を離した一瞬のスキに…認知症の人の徘徊、行方不明や事故につながる恐れも

認知症の人の介護はトラブルが多く、一筋縄ではいかないものです。さまざまな問題をかかえこみ、経済的にも悩みがつきません。ときにはつらさのあまり、介護をギブアップしそうになるでしょう。 しかし、認知症の人がすんでいる世界を理解すれば、介護をしやすくなるかもしれません。認知症の人は私たちの常識の基準とは少しずれている世界に生きていますが、どんな行動にもその人なりの気持ちや考えがあります。ただ、気持ちをうまく言葉にできないだけです。そして、その気持ちを理解する手がかりはあるのです。 この連載では、 『認知症の人の気持ちと行動がわかる本』 (杉山孝博監修、講談社刊)のエッセンスから、認知症と介護について、正しい知識と情報についてお伝えしていきます。認知症の人の思いやじょうずな介護の方法、利用できる社会制度・サービスを知れば、介護がぐっと楽になるはずです。 前回に引き続き、認知症の人の困った言動について見ていきましょう。 認知症の人の気持ちと行動がわかる 第12回 『家じゅうに溢れるほどものを集める、うそをつく、盗む。認知症の人の困った言動にどう向き合う?』 より続く。 目を離した一瞬のスキに…認知症の人の徘徊 認知症であっても足腰が丈夫な人は、介護者が目を離した一瞬のすきに、どこかへ出かけてしまうことがあります。すぐにみつかることが大半ですが、そのまま行方不明になったり、事故にあったりする事例も絶えません。 徘徊はある日突然始まります。徘徊が始まると、家族はとても心配して、必死で捜しまわり、みつかったとき、つい感情をぶつけてしまいがち。しかし、責めるのはよくありません。 また、家族は監視の目を光らせ、カギをかけて家に閉じこめがちです。しかし、これもいい方法ではありません。認知症の人は「自分は見張られている。逃げ出したい」と考えて、わずかなすきをついて家を抜け出します。大きな問題を起こす前に、下記のような対応をしていきましょう。 *本人なりの意味を考える 多くの場合、本人なりの目的がある。なんのために外に出ていったのかを尋ねてみよう。 *朝から注意 夕暮れ症候群としての徘徊のほか、午前中も徘徊が多い時間帯。介護者が家事などに追われているすきに、ふらっと出かけることも。 *名札をつける 服や靴に氏名と連絡先を書いておく。また、玄関にセンサーを設置したり、GPS機能付きのセンサーを身につけさせる。自治体によっては、徘徊対策として靴用ステッカーを配布している。 *徘徊SOSネットワーク 事前に登録しておけば、行方不明になったとき、警察や行政、地域の人に捜索に協力してもらえる自治体などのサービス(自治体により名称は異なる)。 「自分の気持ちを言葉で表現できない」 認知症の症状として、感情が不安定になったり、気持ちが抑制できなくなったりすることがあります。しかし、けっして理由なく感情のねじが外れているわけではありません。 認知症の人は、自分の気持ちや意思を言葉で表現できず、わかってもらえないいらだちや、寂しさを感じています。感情の抑制力も低下するため、少しの刺激で感情が爆発し、暴力になって相手に向かいます。 相手が強く出たり、無理やり押さえたりすると、さらに激しくなります。 暴力は、以前から自分の思いどおりにしてきた人やプライドが高い人に多い一方、温厚だった人がふるうこともあります。また、前頭側頭型認知症の人は、感情のコントロールがうまくできない場合が多いようです。 暴力に対しては、介護者がおちつくことが大切です。身の危険があるような場合は、第三者に対応を頼み、介護者自身がいなくなったほうが、興奮がおさまる場合もあります。 ただし、力の強い男性などが無理やり力ずくで暴力を押さえこんだりするのは、本人がますます興奮するので、逆効果です。とにかく本人の興奮を鎮めることが第一です。対応のヒントは以下の通りです。 *心理を理解する しょっちゅう失敗している自分への憤り、孤独、不安など、本人は大きなストレスをかかえている。認知症になりたくてなる人はいない。そのつらい気持ちをくむ。 *自尊心を尊重する 行動の否定や訂正は感情を乱す引き金になる。日ごろから本人を尊重する言葉をかけていく。 *危険なものは側に置かない 投げられて困るものは、本人の目の届かないところに置く。ティッシュ箱など、投げられても安全なものを目につくところに置いておく。 暴力が続き、介護者の対応が困難な場合は、訪問介護サービスを利用したり、精神科などの専門医にみてもらって、少し穏やかになれる薬を処方してもらってもいいでしょう。 過食・拒食・異食−。 認知症になると食事のとり方や食欲のコントロールに支障が出てきます。食べたばかりでも「食べていない」と訴える「過食」は、記憶障害や脳の視床下部にある満腹中枢の機能低下によります。過食を注意すると、「食事もさせてくれない」と悪感情だけが残ります。 ある程度は割りきって受け止めましょう。 食べ方に偏りがあっても、叱らずに見守るようにします。使いやすい道具を用意し、食事介助は機械的にならないようにしてください(これは過食への対応にもなります)。 いっぽう、食事を拒否する「拒食」は、嚥下障害や味覚障害、体調不良、毒が入っているという被害妄想などが原因と考えられます。食べられないと体力は急速に弱まるので、主治医に相談し、早急に対策をとりましょう。嚥下障害の場合、飲み込み反射や舌の動きなどのリハビリをおこなうようにします。 異物をなんでも口にする「異食」も問題です。認知症が進み、食べ物という概念がわからなくなると、手の届くところにあるものを、食べ物かどうかにかかわらず口に入れてしまいます。 異物は、ティッシュペーパー、石鹼、花、タバコ、便、紙おむつ、電池、薬品、薬の包装シート、洗剤などさまざま。とてもまずくて食べられないものでも、味覚や嗅覚が鈍っているため、平気で口に入れてしまいます。死亡事故につながることもあり、周囲は常に気が休まりません。 すべてのものをしまうのは無理があるので、薬や洗剤、電池など危険なものからしまうようにしましょう。また、手持ち無沙汰でなんとなく口に入れることもあるため、話し相手になるなどして、食べることから関心をそらしましょう。 『認知症の人の介護を、じょうずに続けるために…医療や公的制度の力を積極的に借りてみよう』へ続く。 【つづきを読む】認知症の人の介護を、じょうずに続けるために…医療や公的制度の力を積極的に借りてみよう

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