重度障害の娘と要介護の父を支える「ワーキングケアラー」、不安や困難抱え「SOS出せず」

<序章>  病気や障害、認知症、ひきこもりの状態などの家族を、無償で介護、世話する親や子ども、きょうだいは「ケアラー」と呼ばれる。  「家族内の問題は、家族で解決すべきだ」という意識が根強く残る中、不安や困難を抱え、孤立しているケースは多い。ケアラーたちの声を聞き、支援のあり方を考えたい。 ◆「老いていられない」  「障害のある子を育てる親は老いていられない」  東京都内に住む会社員の女性(52)は、そう語る。会社員の夫(56)と特別支援学校に通う長女(17)、高校生の次女(15)、80歳代の両親と暮らす。長女は自閉症で重度の知的障害があり、2歳程度の知能しかない。入浴もトイレも歯磨きも一人でできず、主に女性が介助する。  不妊治療をして、長女をようやく授かった。「無事に誕生した時は、本当にうれしかった」と振り返る。長女が自閉症と診断されたのは4歳の時。多動で、小学1年の頃、玄関から一人で飛び出し警察に捜してもらったこともあった。女性は「大人になっても生活の支援が必要。経済的な自立も難しいだろう」と悟った。  「お金をためなければ」。長女の通学をサポートしてくれる人を自費で頼み、放課後は障害児支援施設を利用するなどして、1日7時間働く。ただ、支援施設の対象は原則18歳まで。来年度以降も利用できるかわからない。最近、父親に病気が見つかり、まもなく在宅介護も始まる。  「離職は考えられない。蓄えどころか、今の養育費すら維持できない。なんとか娘たちの笑顔を守りたい」 ◆支援求める声  ケアラー支援を求める声が高まっている。少子高齢化や核家族化でケアラー1人当たりの負担が増しているためだ。厚生労働省によると、2022年の1世帯あたりの平均人数は2・25人で、50年前の1972年の3・32人から1・07人減少した。そうした中、介護保険制度上の要介護者を「主に介護する人」は、家族が約60%を占める。3世帯に1世帯は介護者、要介護者ともに75歳以上だ。  仕事と介護を両立する「ワーキングケアラー」は2030年、推計で約318万人に達する。精神障害者は20年に約614万人で、11年からほぼ倍増。約95%は在宅で生活している。  研究機関「SOMPOインスティチュート・プラス」の上級研究員、樋口拓也さんは「日本の福祉制度は、家族によるケアを前提としている。人口減少が加速する中、ケアラーの負担を軽減しなければ、社会が立ちゆかなくなる」と指摘する。 ◆「誰もがなり得る」  東京都内で5月下旬、ケアラー支援のあり方を話し合うシンポジウムが開かれた。一般社団法人「日本ケアラー連盟」が主催し、全国の首長や議員ら約100人が参加した。  この中で、4月に議員提案のケアラー支援条例が施行された神奈川県藤沢市の市議、竹村雅夫さんは「障害者の家族から『差別によってSOSを出せない』との声があり、人権の問題として対応した」と経緯を説明。町内のケアラーの約3割が心身の不調で医療機関を受診しているという北海道栗山町の町長、佐々木学さんは「ケアラーの健康は全国的な課題」と訴えた。  同連盟は「誰もがケアし、ケアされる時代」と、ケアラー支援の法制化を提言。国会議員に働きかけることを確認した。  政府は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に、地方自治体のケアラー支援の推進を盛り込んだ。同連盟代表理事で、日本女子大名誉教授の堀越栄子さんは「国や自治体は、ケアラーが自身の人生をあきらめずに済む施策を講じるべきだ」と訴える。 社会で支える意識 浸透必要  ケアラーへの支援が求められる背景について、内閣府「孤独・孤立対策の在り方に関する有識者会議」委員で、早稲田大教授(社会学)の石田光規さんに話を聞いた。 ◇  ケアラーは重い負担を背負っているが、社会から見過ごされがちで、孤立しやすい存在だ。  理由のひとつは、「家」意識の強さだ。日本では、長らく介護や育児といったケアが家族任せにされてきた。男性が外で働き、女性が家庭を守るという役割分担によって経済成長を遂げたこともあり、そうした分担意識、仕組みがまだ残っている。  家庭の問題が外に出ることも嫌がり、内々で解決しようとする。ケアもそう。ケアラーが困難を感じても、「家族だから」と、我慢して抱え込む。  もうひとつは、社会の変化だ。デジタル化やコロナ禍の影響で、他者と関わらずに過ごせるようになった。「価値観は人それぞれ。対立しないように何も言わない」と、考える人も増えているように感じる。  核家族化や少子高齢化で、「家」は構成員が減り、小さくなっている。ケアラーの孤独や孤立を防ぐ支援は急務だ。体を壊したり、働けなくなったりすれば、医療費の増加や生産性の低下につながる。ケアされる人との共倒れも懸念される。  ケアラーは、社会で支えられる存在だ。同じ境遇にある人がつながり、情報共有できる場を設けることが重要だ。

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