「このままでは患者負担が増大する！」「受診控えや薬の乱用につながり国民の健康が脅かされる」 6月11日に自民・公明両党と日本維新が合意した “OTC類似薬の保険外し” について、医師等の団体である全国保険医団体連合会（保団連）はすぐさま反対を表明しました。 OTC類似薬とは、医師の処方なしでは買えない処方薬の中で、同じ成分・効果の市販薬（OTC薬）がすでにあるもののこと。アレルギー症状をおさえるアレジオン錠、痛み止めのロキソニン錠、さらに胃腸の働きを整えるマグミット錠など、私たちにもおなじみの薬が含まれます。これらが今後、保険適用外になる可能性があるとして、ネット上では大いに批判の声が上がりました。 本当に、ロキソニンやアレジオンは気軽に飲める薬ではなくなってしまうのでしょうか？ そこで本稿では、医師や薬剤師、持病を持つ患者らに取材し、実際の処方シミュレーションを交えて 、この期待と懸念点を解説します。 前編記事『《薬代はホントに増える？》ロキソニン、アレルギー薬が”保険適用外”で大炎上…医師会が猛反発する「クスリ改革」は、実はメリットだらけだった！』より続く。 「受診控え」は影響なし そもそも公費負担分まで考えると、クリニックや調剤薬局が関わらないOTC薬のほうが、比べるまでもなく小さい医療費になるのは自明の理です。勤務医や薬剤師からは、公的保険制度を守るためにも、こうした見直しは必要だという声が上がっています。 保団連や医師会が反対意見の根拠とする「受診控え」については、すでに国内外の研究で統計的に影響がないことが明らかになっていますし、「薬の乱用」については現在進行形の問題であり、今回の見直しとは関係なく適正使用の啓発が必要といえます。 この見直し案は、1割負担の後期高齢者や自己負担のない生活保護者の負担増となりますが、そもそも公的給付は年齢などで区分するのではなく、個々人の健康状態に応じて考えるべきだという意見も強くなってきました。 こうした改革の背景には、超高齢社会で膨らみ続ける社会保障費への懸念だけではなく、地域における医療資源の限界に直面しつつある現実があります。コンビニ感覚で病院を利用するような不要不急の受診が増えれば、本当に苦しんでいる、急を要する患者さんの医療アクセスは後退していきます。 取材した薬剤師は「“なんでもかんでも医師に相談“ から”薬剤師に相談“ 、”自分で体調管理を考える“方向にシフトしていくために、今回の見直しの話を活用してほしい」と語りました。 1000億円以上の社会保障削減が可能に もちろん薬の効果が思ったように得られない場合、あるいはいつもと違う症状がある場合は医師に診てもらうべきですし、そういった場合の医療アクセスまでも制限するといった話はどこにも出ていません。 日本維新の会 猪瀬直樹参議院議員によると、OTC類似薬60品目の見直しによって薬剤費だけで1370億円、関連する診察料・調剤料も含めると、その何倍もの社会保障支出が削減できると見込まれます。 これは国民医療費46兆円のごく一部ではありますが、1000億円はそれなりの規模感をもつ金額です。社会保障改革に特効薬はなく、こういった規模の支出減をたくさん積み重ねていくしかありません。 一方で、公的医療保険のカバー範囲と支出を同時に削減するのであれば、給与から天引きされる実質的な税である「社会保険料」、あるいは社会保障費目的税である「消費税」を減税するのがスジだと言えます。 そうしたなか参議院選挙を前に、自民・公明両党は物価高対策として全国民に2〜4万円給付、総額5兆円のバラマキを検討しています。 石破茂首相いわく「ギリシャよりも悪い財政状況」だからこそ社会保障制度を見直すはずが、「税収が上振れたから」という理由での大盤振る舞いに、現役世代は納得できるのでしょうか。 ・・・・・・ 【もっと読む】『「降圧剤」と「痛み止め薬」を一緒に飲むとマズい⋯知らなかった「痛みに効くクスリ」の副作用を一挙公開する』 【もっと読む】「降圧剤」と「痛み止め薬」を一緒に飲むとマズい⋯知らなかった「痛みに効くクスリ」の副作用を一挙公開する