将棋の第38期竜王戦決勝トーナメント(本戦)に出場する棋士11人が出そろい、25日に開幕する。 今期はタイトル争い常連のトップ棋士や羽生世代のベテランに加え、史上初めて奨励会三段が出場する。永世竜王の資格獲得がかかる藤井聡太竜王に、挑戦権争いの展望を聞いた。(文化部 星野誠) 30歳前後、充実期の世代が集まる ——本戦出場者の顔ぶれについて、どのような印象を持たれますか。 藤井 永瀬九段、佐々木八段、近藤八段、八代七段、高見七段と、30歳前後の一番充実されている世代の方が集まったなというのが、まず目につきます。森内九段を始め、ベテランの方々も本戦に出られていますが、その中で唯一の10代、山下三段がどれだけ活躍できるかも非常に楽しみです。 ——左の山について展望をお願いします。 藤井 まずは山下三段に注目が集まるところかなと。初戦が谷合四段で振り飛車党なので、山下さんがどういう振り飛車対策を見せるのか楽しみです。勝ち進むと、石田六段、森内九段、松尾八段、八代七段が登場されるわけですが、それぞれに棋風、タイプの異なる方がそろっているので、個性的な将棋が見られそうです。 ——右の山についてはいかがでしょう。 藤井 まずは前期挑戦者で1組2位の佐々木八段。今期ランキング戦を見ても充実されている印象があるので、本戦でも注目の存在になります。あとは2組優勝の永瀬九段がランキング戦でも抜群の安定感でしたので、その2人が軸となるのかなという印象です。近藤八段、高見七段も近年特に活躍されていて、そこにベテランの木村九段が入るということで、どなたが勝ち上がっても楽しみなトーナメントです。 ——挑戦権争いの本命は。 藤井 今期も予想は難しいんですが、本命は永瀬九段にしたいと思います。2組からのスタートでしたが、他棋戦での活躍も含めて非常に充実されている印象ですので、このトーナメントでも中心となる存在なのかなと思います。以前から受けの技術はすごく高かったのですが、最近は攻めの鋭さも増している。選択肢のあるところでも踏み込むことが多いと感じます。 ——対抗は。 藤井 対抗は1組優勝の八代七段にしたいと思います。ランキング戦でも持ち味を存分に発揮されて堂々の優勝を飾られましたし、ベスト4相当からのスタートという点も含めて、大きなチャンスがあると言えるでしょう。 ——山下三段への期待は。 藤井 実力はまだ未知数ですが、ここまで見ている限り、棋士の中でも上位の力はあるのかなと。特に終盤力は際立っている。5組優勝なので挑戦には遠い位置ですが、どこまで勝ち上がれるか。このトーナメントで、山下三段の将棋というものがさらに見えてくると期待しています。 ——本戦をどのような気持ちで見守りますか。 藤井 私は基本的に挑戦者の方が決まるまでは、一観戦者として楽しんでいます。今期もそういう視点で決勝トーナメントを楽しく観戦したいと思います。 ランキング戦、前期挑戦者の佐々木勇気八段が良い内容の将棋 ——今期ランキング戦の印象を伺います。まずは1組から。 藤井 やはり優勝した八代七段の活躍が際立っていました。持ち前の落ち着いた指し回しをランキング戦でも披露されて、堂々の優勝でした。前期挑戦者の佐々木八段も良い内容で決勝まで勝ち上がっていて、活躍が期待されます。 ——決勝は昨年のABEMA地域対抗戦準決勝第5局、藤井竜王—佐々木八段戦を踏まえた将棋でした。 藤井 そうですね。本局はかなり激しい展開になり、一手一手濃密な指し手が繰り広げられました。お互い玉が薄い形で、攻撃の反動をどう見るかが大きなポイントでした。 ——2組は今年度大活躍の永瀬九段が、順当に勝ち上がってきました。 藤井 ランキング戦でも抜群の安定感でした。羽生九段との準決勝、高見七段との決勝はいずれも快勝と言える内容で、充実ぶりを感じます。対局が続いている中でも疲れを感じさせず、さすがでした。 ——若手実力者が顔を合わせた3組決勝は、近藤八段がものにしました。 藤井 近藤八段は順位戦でもA級に昇級し、充実されています。服部七段との決勝は注目のカードでしたが、近藤八段が得意の矢倉から重たいパンチを繰り出し的確にヒットさせた。持ち味が出た一局でした。 ——4組では石田六段がランキング戦初優勝です。 藤井 決勝は相掛かりで序盤から構想力の問われる将棋でした。石田六段が右玉から4筋の位を取って攻めていったのが的確な構想で、そのまま見事に押し切りました。 ——そして、5組では山下三段が奨励会員として初めて本戦出場を決めました。 藤井 山下三段は力戦派というか、中終盤の力で相手を倒す将棋が多い印象です。決勝は序盤でうまく攻めの形を作ってペースを握り、優位を拡大して最後は鋭く決めました。 ——6組決勝は古森五段と谷合四段というフレッシュな顔合わせになりました。 藤井 公式戦では数少ない相振り飛車になったので、見ていて新鮮でした。中終盤は古森五段が優勢でしたが決めきるのが難しく、最後は谷合四段が一瞬の隙を突いて入れ替わりました。 八代弥七段の好局…「淡々と距離を詰め」竜王経験者の広瀬章人九段を破る 今期の好局として、藤井竜王は1組2回戦の八代七段—広瀬章人九段戦を挙げた。 戦型は相雁木(がんぎ)。昨年の朝日杯、豊島将之九段—佐々木八段戦と同じ出だしで、後手から変化して先攻し、盤面全体で非常に複雑な攻防となった。厳密にはやや無理な仕掛けだったようだが正確な対応が難しく、中央で角と銀桂の2枚換えを果たした後手がペースを握った。 「ただ、そこから淡々と距離を詰める指し回しが実に八代七段らしかった」と藤井竜王は言う。 △5四桂と設置した第1図は次に△4六歩などのわかりやすい狙いがある。だが、八代七段は堂々と▲9三歩成。以下△4六歩▲3八銀△7六歩▲8八角△8七歩▲同金△6六歩と押し込まれながら、▲2四飛△2三歩▲2七飛(第2図)で、飛車の横利きを生かした頑張りを見せた。 「歩を取って▲2七飛は好形ですが、後手を引いてしまうところでもある。これでも戦えると落ち着いて判断できるところに、八代七段の持ち味が出ています」 主催=読売新聞社、日本将棋連盟 特別協賛=野村ホールディングス 協賛=東急グループ、UACJ、あんしん財団、日本中央競馬会